162話・俺の懸命な言い訳
正直、面倒なお風呂には入りたくない気分なんだけど、これだけ
引かれちゃったら、もうハイとしか言えないよな...。
でもまぁ...恋人公認だし、楽しんでもいいの...かな?
「わ、わかりました!お、俺も健全な思春期全開な男の子です!
ですから、カノン先輩とクーナさんの後でという事でお願いします!」
俺はキリッとした真面目な表情でカノン先輩とクーナさんの前に立つと、
キレイな一礼をして嘆願言葉を口にする。
「うむ...見事なまでに清々しい決断だぞ。では、私とクーナちゃんが
たっぷり浸かった残り湯を存分に楽しむのだ、彼氏よ!」
「へへぇぇっ!ありがたく、頂戴いたしますぅぅぅっ!」
腕を組んでしたり顔をしているカノン先輩に、俺はさっきよりも更に
深い一礼をして感謝の念を発する。
「では、早速行くとするか、クーナちゃん...」
「へ...わ、私も一緒に入るんですか!?」
「ふ...せっかくの機会なんだ...。ここはクーナちゃんの身体をじっくりと
観察させてもらおうか!」
カノン先輩がニヤリとするよ、両手の指をワキワキと動かしている。
「あ、それからコウ。もし覗きにくるのなら、「覗きにきました!」って、
声をかけてくれ...。流石の私もいきなり来られるとビックリしてしまうのでな!」
「へ!?の、覗き!?コウ君が私達を覗ん――――」
覗きと言う言葉に、目を丸くして慌てているクーナを、カノンが強引に引っ張ると、
そのままお風呂場へと連れて行くのだった。
覗いていいの?マジで!?
一応、許可が出ている恋人公認なんだし...い、行ちゃおうかな......?
「んん?その顔...まさかコウにぃ、二人のお風呂を覗きに行くつもりですか?」
「はひぃぃぃぃぃ!?」
カノン先輩とクーナちゃんを見送り、覗きと言う名のご馳走をご相伴に
預かろうかなと思案していると、俺の横からスーッと静かにミルが現れて、
怒り混じりの声で俺の耳へ囁いてくる。
「い、行くわけないだろう!も、もう、ミルったら、カノン先輩の冗談を
真に受けちゃ、駄目だぞ!」
「でも、カノンさん達の残り湯は楽しむんでしょう?」
先程の清々しい態度のコウを見ていたミルが、ジト目で穴が空く程、
ジィィーッと睨んでくる。
「そ、そんなわけあるか!それもカノン先輩の俺に対する冗談みたいなもんだよ!」
未だにジィィーッと睨んでくるミルに、俺は慌てふためきを見せながら、懸命な
言い訳をする。
「ほほう...冗談ですか...?しかし、残り湯は存在しますよね?」
「う、そ、それは...ちゃんと、新しいお湯に入れ変えるさ!」
ド正論を述べられた俺は、それを納得させる言い訳をミルにした。
「ふう...まぁ、いいでしょう。それじゃ、それが本当かどうかを確かめる為、
コウにぃと一緒にお風呂へ入らせてもらうとしますか!」
コウの誤魔化しに業を煮やしたミルが、人差し指をビシッと突き出して
そう宣言してくる。




