146話・俺のお家事情
「ねぇねぇ、お兄さん。お兄さんのお家って、どんな感じのお家なん
ですか?」
ミルと歩いていたロイエが、コウの横にやってきて袖をちょんちょんと
摘むと、コウの家の事を聞いてくる。
「ん?俺の家がどんな感じかって?う~ん、そうだな...俺の家は、
俺がひとりで住むのには丁度良い、こじんまりした家かな?」
俺は自分の住んでいる家を頭の中に思い浮かべ、それをロイエちゃんに
教える。
「ほほう。こじんまりしたですか...」
「でもお兄様。お兄様は何でグランジ学園の寮には住まなかったんですか?」
ロイエとコウが談笑していると、ナユユもコウの横に近づいてきて、
素朴な疑問をコウに投げる。
「はは...俺も寮に住みたかったのは山々なんだけど...肝心のお金が...ね。
ほら、俺の家にはあいつがいるからさ......」
俺はナユユちゃんとロイエちゃんの耳に顔を寄せて、ミルには聞こえない
小さな声でそう答え、ミルのいる方角に指を差す。
「あ...なるほど。エリートのミルさんに、お兄様の両親の資金が注がれて
いる、そういう訳ですね?」
ナユユもコウと同じく、ミルには聞こえないか細き声で、コウの言葉の
真意を理解し、それに納得した。
「まぁ、家は裕福じゃないから二人に資金は注げない...。だったらエリートと
底辺...どっちに金をかけるべきかなんて、考えるまでもないよね?」
俺はニガ笑いを浮かべながら頬をポリポリと掻くと、ナユユちゃんに
両親の懐事情を口にすると、
「うう...そうですが、でも同じ血を分けた子どもじゃないですか!
なのに、そんな差別をするだなんて、わたくし...とお~~っても、
納得がいきませんわぁ~~っ!」
「そうだよ、そうだよ!もしボクがお兄さんと同じ立場だったら、
絶対に両親を許さないし、軽蔑もするだろうし、それどころか、
確実に絶縁宣言しちゃうなっ!!」
そしてそれを横で聞いていたロイエも、怒り心頭な表情でプンプンと
怒ってくれる。
「あはは。二人とも俺の為に怒ってくれてホント嬉しいけど、そこまで
両親から差別は食らってはいないよ。だって学園入学の資金やこの制服...
そして勉学に必要な物とか、そういった類いの物も一応買ってくれるし...」
両親の仕送り事情を聞いても尚、納得できないと言うナユユちゃんに、
俺はニコッと微笑んで、両親の優しさをそれとなくフォローしておく。
「へ?そ、それじゃあ、もしかしてそれ以外の学費や生活費なんかの
工面は、ご自分の力だけで賄ってるって事ですか!?」
両親からの援助以外の資金は、全部コウが自分で補っていると知った
ナユユは、目を丸くして驚いてしまう。
「まぁ、そういう事かな?でもありがたい事に、この学園にはクエスト
依頼がいっぱいあって、そのおかげで資金の事はあんまり気にしないで
済むから、正直そこまで困窮な目には合ってないんだどねぇ♪」
「でもクエストは危険が多いと聞きますし、その...心配になりますわ!」
コウは大丈夫と言うものの、クエストのせいでコウが危険な目に合うの
ではと思い、ナユユは心から心配そうな顔をこぼしてしまう。
「ミルさんはエリートで優秀なのだから、お兄様じゃなく、あの子が
クエストで生活すればよろしいのに......」
ちょっと、ナユユさん!?
さっき、クエストは危険だからと心配してくれていたのに、その危険を
親友に進めるんですかっ!?
「た、確かにミルの方が俺なんかより、効率よく稼げるだろうけども、
それでもやっぱ、妹を危険な目に合わせるくらいなら、自分が危険な目に
合った方がいいよ。例え仮に俺がミルよりも優秀だったとしてもね♪」
「お、お兄様...何と妹思いな!」
「はは...でも、ナユユちゃん。初めて会ってそんなに経たない俺の為に
そこまで心配してくれて、ホントありがとな♪」
「はう!?」
コウはニコッと微笑みを浮かべると、ナユユの頭に手をポンと置いて、
その手をわしゃわしゃと動かし撫でていく。
「それに...ロイエちゃんも俺の為に怒ってくれて、サンキューな♪」
「はにゃ!?」
そしてロイエにもニコッとした笑顔を見せると、ナユユ同様に頭を
わしゃわしゃと撫でいく。




