136話・俺のトラウマ その2
「それって、つまり...」
記憶がなくなる程の事を、ナナさんと妹さんがしたって事じゃ...
イ、イヤ...流石にそれはないか...。
クーナがまさかを想像し、その言葉を口にしようとするものの、
慌ててその言葉をグッと飲み込み、それはないと首を横に振って
否定する。
「はは...でもこの後に起こる惨劇に比べれば、こんな記憶が曖昧なんて
事実は、とても些細な事なんだけどねぇ......」
「ええぇぇぇ!そ、そんな重要ごとが、とても些細な事ですかぁぁぁっ!?」
ニガ笑いを浮かべて、そう簡素に語ってくるコウに、クーナが目が見開いて
驚愕してしまう。
「それから数分経って俺はある程度、冷静な判断ができる様になってね。
改めて今の状況を確認する為、周囲を見渡していると、ふと俺はある事に
気づくんだ...「あれ?何か、変な違和感を感じる?」って...」
「変な違和感...ですか?まぁ...普通に考えれば、その記憶が曖昧って所が...
そうなんでしょうが...」
クーナが神妙な面持ちで首を傾げながら、その違和感が一体、何なのかを
考えている。
「そ、それで結局、その変な違和感の正体はわかったんですか...?」
「うん...実はね、この違和感の正体は......」
「嗚呼!ちょっと、ストップッ!な、何かその先は、聞かない方が
良いような気がしてきました...」
コウの語るトラウマ話がドンドン怖くなってきたのか、クーナの顔色が
真っ青に変わっていき、これ以上聞く事を直感が拒否ってくる。
「嗚呼...でも聞きたい!スイマセン!やっぱり、聞かせて下さいコウ君!」
だが、クーナの直感より好奇心の方が勝ってしまい、結局、話の続きが
めちゃくちゃ気になってしまう。
「それじゃ...話すね。この変な違和感の正体には、実は直ぐに気づくんだ。
でもその事に気づいても、俺の心と俺の思考がこの事実を全く理解してくれず、
理解してくれる様になったのが、かなりの時間を費やした後だった...」
「ゴクリ...」
コウが述べる謎の違和感の確信にドンドン迫ってくると、先程より大きい音を
鳴らして、クーナの喉元を生唾が通り抜ける。
「まぁ...理解するのに時間がかかって、当然だよ。だって...だってさ、
俺の両手と両足が、ウンとも、スンとも......動いてくれないんだよ。
そりゃ、俺の心も思考もビックリして、ハテナ顔をしちゃうよねっ!」
「両手、両足がぁぁ!?うへぇえぇぇぇ!?な、なんですか、それっ!?
めっちゃ、怖いんですけどっ!?」
「動かない理由は、どうやら俺の両手と両足が骨折をしていたみたいで...
「何故だ!どういう事なんだ!」と、何度もリピートして叫声をあげていると、
突然、俺の部屋のドアがガチャンッと開いて、誰だと顔を向けると、そこには
屈託のない、ニコッとした笑顔のナナとミルが立っていました...」
「っ!?」
クーナはその二人の登場に、言葉を出せないくらいにビビって、身体が
石化みたいにカチンッと固まっていた。
「もうコウにぃったら、私に隠れてあんなドブスと、イチャイチャしちゃ
駄目なんだぞ♪」
「そうそう...今回はこれで許すけど次は......ね♪」
「そんな事をあいつら...女神様の様な爽やか笑顔で言うんですよぉぉぉっ!」
俺は目を見開き、今にも泣きそうな顔で、そう絶叫してしまうのだった。




