5話 悪霊様の質問会
フェータはトット村の入り口を目にしてようやく安心できた。
今日という日は美少女に殺されかけたり骸骨に殺されかけたりと色々濃すぎる1日だ。割と、いやかなりの小心者であるフェータはもうお腹いっぱいだった。
さっさとテントに帰って寝たいところだが、まだやらなければいけないことがある。
「今更だがお前は一体何者なんだ?」
フェータは左手の杖に目を向ける。こいつについて疑問は山ほどあった。明らか悪役みたいな登場をしたくせに手伝うなんて信じられるはずがない。
『知らん』
どこから声を出しているのかは分からないが、不気味な髑髏がそんなことを言った。
「知らないってどういうことだ」
『そのままだ。自分のことは何一つとして覚えていない』
「じゃあ、何であの祠に居たんだ?」
『気付いたらあそこにいた。まあ、あの広場からどうやっても出れなかったら封印でもされてたのかもな!』
まさかあの祠はこの悪霊を封じておくためのものだったのだろうか。しかし、フェータは思い返す。それにしてはボロボロだったが……。
『もっともそれは百年前ぐらい前までの話だ!その後からは誰も手入れに来なくなって、ついに祠が壊れ解放されたってわけよ!』
おい、村人達。女神教なんて作ってる場合じゃないだろ。
『でも、俺の体の方、いやもう骨か。そっちは聖剣の方に貫かれてたせいで完全に力を封じられてたな。それで俺は魂だけで山をフラフラしてたんだ。それでも、魔物は俺を恐れてるみたいでそいつらを従え王様気分を味わってたんだが……』
「だが?」
『記憶は何も残っていないが、本能って奴が残ってみたいでよ。どうしても剣が振りたかった。そして、こう熱い戦いをしたかった』
やけに饒舌な杖はフェータの手を離れ、踊るように宙を動く。
『そこにやってきたのがその勇者様よ!』
杖はシェリアをあご……の骨で指した。
『俺の復帰戦には丁度いい相手だと思ってよ。俺は急いで山頂に帰ったよ。しっかし、剣を振るえる体はやっぱり使えそうになかった。だが、勇者様が聖剣に近づいたときあの剣は勇者様と共鳴し俺の封印への力を弱めたんだ。そんなチャンスは見逃せない。俺は封印を破って骨に乗り移った』
「じゃあ、あの急に骸骨を黒く染めたあの黒いのがお前か?」
『ああ、そうだぞ。いやー、にしても自分の体ってのは心地よいものだったな』
先程のことなのに杖は遥か昔を懐かしむような声色で言った。
「結局何者……?」
『だから、知らねえって』
分かったことは封印されるほどの大悪霊だったということだけ。
でも、絶対ヤバい奴に違いない。そんなのが仲間に入るのか 。……フェータの悩みが一つ増えた。
「では、私からも質問です」
ずっと黙っていたシェリアが口を開いた。
「この剣は一体何なのでしょうか?とても使いやすいし斬れ味もいいのですが、何かもっと力が隠されているような気がするのです」
そりゃ聖剣なんだしそういうこともあるだろとフェータは適当なことを考える。てか、そもそも聖剣って何だよとも思う。
『……そりゃ、元から強力な力を秘めた剣だったんだがな。俺を封印している内に俺の力も吸収していったみたいで、元々白く輝いてた刀身がそうやって黒く染まっていった。聖と魔、二つの力を宿したそれは以前とは比べ物にならないシロモノだ。上手く使えば一国ぐらい単騎で滅ぼせられるだろうな』
ま、扱い方は追々教えてやるよ。
シェリアはその言葉を聞き、すっかり見慣れたあの好戦的な表情を浮かべる。
「面白そうです」
そう一言呟くと彼女は剣を収めた。
『で、他に質問はあるか』
「……お前何でそんな色々知っているんだ。封印だとか聖剣だとか。自分の事は何も覚えていないのにおかしくないか。あと、何で俺が予言者だって分かった」
フェータは訝しげに杖を見つめた。この亡霊はやはり怪しすぎる。
『長くこの世にしがみついていると色々分かってくるもんさ』
あからさまにはぐらかしている。
『ま、細かいことはいいじゃねえか。俺は残った力を全部その剣に込めたから、何もお前らを害する事はできねえし、俺は本当にお前らがどう言う道筋を辿るのか見てみたい。それだけさ』
まあ、いいか……。
フェータは種々の疲れからもうどうにでもなれって感じで杖を認めた。
そんな中、シェリアは真面目な顔でこう言った。
「どう呼べばいいのか分からないので私が名前を決めていいですか?どうせ覚えていないんでしょう?」
『はは、勇者様から直々にご命名してもらうとは光栄だ』
結果、彼の名前はホネホネ・ボーンになった。
……実際には分からなかったが、ホネホネは引きつった顔をしたことだろう。