4話 聖剣?と新たな仲間?
それからのシェリアの動きは早かった。何でも幽霊とは戦ったことがないから楽しみだとか。
フェータを半ば引っ張りながら山頂へと猛進を続ける。もうフェータはどうにでもなれと言った心境だ。
山頂へ進むにつれ魔物の襲撃が頻繁になってきた。まるでシェリアたちが奥に進むのを阻むように。しかし、シェリアにとってそれは障害にもならず出る度切り飛ばされていく。
「なんか……、不気味だな……」
徐々に空気が変わってきた。フェータにも感じられるほど濃密な殺気が辺りに立ち込めてきたのだ。
それを受けシェリアはさらにワクワクとした表情をした。呆れながらもフェータは彼女についていくしかない。
その少し後、急に開けた場所に出た。木を切り倒して作った広場のようだ。中心に木で作られた祠……のようなものがある。長い間放置されていたようで木が腐りほぼ崩れているのだ。
「なるほど、これが祠ですか。山頂まで来たことはないので初めて見ましたね」
フェータももちろん初めてだ。そもそも村人たちすらここの存在を知らないのではないのだろうか。
「では、あれが聖剣?でしょうか」
祠の残骸の山にもたれかかるように座っている骸骨とその髑髏に突き刺さっている漆黒の長剣……。いや、どう見ても聖剣ではない。魔剣とかの類だろ。
シェリアはその異質な光景に恐れ一つ抱いていないようで、躊躇いなく剣に近づいていった。
手を伸ばせば剣に手が届くといった距離までシェリアが近づいた時、異変が起きた。
骸骨が黒く染まっていき突然カタカタと動き出したのだ。そして、自身に刺さっていた剣を抜きそのままシェリアに斬りかかった。
シェリアは顔色一つ変えず鞘に収まったままの自分の剣で骸骨の一撃を受け止めた。
『よく来たな!こちとら何百年も退屈してたんだ。付き合ってもらうぜ』
「ええ」
鍔迫り合いの最中、言葉を交わす二人。骸骨はどこから声を出してるのか分からないが、渋い男の声だった。
肉のない体のどこに力があるのか骸骨がシェリアを押しているようだった。
シェリアは後ろに飛び間合いを取る。と同時に剣を抜き放った。しかし、骸骨はシェリアと同じように後ろに飛ぶことで、それを危なげなく避けた。
二人は間合いが開くとそれぞれの構えをし、お互い攻撃に備えた。
張り詰めた静寂が訪れる。二人の剣士は睨み合いをしながら相手の隙を探る。
「ハッ!」
先に仕掛けたのはシェリアだった。踏み込むと同時に神速の突きを繰り出す。
骸骨は成すすべなくその頭を先程のように貫かれた。
『クカカカカ!』
が、骸骨はまだ動くようで、剣が突き刺さったまま笑い声を上げている。
その様子を見てシェリアは骸骨を蹴り飛ばし、剣を抜くと一拍も置かず縦横無尽に攻めかかった。
骸骨はシェリアの連続攻撃をうまく防御し、反撃の機会を伺っている。
生前は大層高名な剣士であったろう立ち振る舞いだ。フェータの素人目から見ても骸骨の方が動きが洗練されているのが分かった。もしかしてシェリアより強いんじゃ……。
『そろそろあったまってきたぞ!』
フェータの予想は当たってしまい最初はシェリアが押していたもののしばらくして勢いは完全に骸骨のものとなった。
シェリアは防戦一方となり、避けきれなかった剣がその白い肌に傷を付ける。
「それはこちらもです……!」
しかし、シェリアは何が面白いのか笑みを浮かべていた。どこに隠し持っていたのか短剣を取り出し、二刀流で骸骨に立ち向かう。防御を捨て、手数で押し切る戦法のようだ。
(これマジでヤバくないか……!)
フェータは焦っていた。短い付き合いだがシェリアが苦戦しているところなんて見たことがない。どんな魔物も一撃で倒してきた。
それがどうだ。今のシェリアは確実に苦戦している。二刀流なんて初めて見たし、あれが奥の手、つまり、本気なのだろう。
『クカカカカ!どうした?その程度か?』
「しぶといですね……!」
シェリアの連撃はことごとく防がれ、当たったとしてもさっきの突きのようにまるで効いていない。
フェータの焦りは更に増す。シェリアが負けたらフェータみたいな一般人は、あっという間に殺されるだろう。
まだ死ねない……、俺の予言の力を世界に認めさせるまでは!
フェータは目に魔力を込め、数瞬先の未来に意識を飛ばす。
「いや、速すぎだ!」
さっきから分かっていたことだが、シェリアと骸骨の剣戟は速すぎてフェータの動体視力じゃ全く追えない。これではシェリアに未来を教えて楽々勝利!なんてことにはならない。
「勇者になった途端こんな強者に巡り会えるとは!フェータさんには感謝ですね」
『ん?そういえば変な男がいるな』
今、気づいたんかいとフェータはツッコミそうになった。
が、骸骨が急に自分を凝視してきたのだから笑えない。邪魔者を先に排除ってか!?
骸骨は急に剣を下ろし立ち止まった。
あからさまな隙だがシェリアも剣を納めてしまった。
『小僧、お前面白いな』
骸骨がフェータに近づいてくる。
なんでシェリアはこいつを今のうちに攻撃しないんだと思いながらもフェータは逃げようとしない。いや、ビビりすぎて足が動かない。
『未来を見通す者……、か。クカカカカ!興味が湧いた。手伝ってやるよ』
骸骨が剣を掲げると骨から黒が抜け落ち、その闇が剣に纏わり付いた。骸骨から全ての黒が抜け元の白い骨に戻ると、途端に崩れ落ちた。
形を失った骨がバラバラと地面に落ち、そこに禍々しさを増した聖剣?も突き刺さる。
「手伝うってどういうことでしょう、フェータさん」
「知らん。でもいいじゃないか。こうして無事に生き残り剣も手に入ったんだし。さっさと帰ろう」
フェータは次から絶対冒険とかには付いていかないという意思を固めた。
「もう少し戦いたかったのですが……」
シェリアは残念そうにしながら剣を地面から抜いた。鞘をどうしようかと悩んだシェリアだが、剣に纏わり付いていた闇がこれまた真っ黒の鞘を形作った。
そんな不思議な光景を見てもシェリアは特に何も感じないようだ。便利ですねと一言呟き腰に差した。
「よしじゃあ帰ろう!」
フェータが振り返るとそこにはさっきの骸骨がいた。
「ウワアアアア!!!!」
悲鳴を上げながらフェータは全力で逃げる。シェリアの敵意はないようですよという言葉も耳には入らなかった。
『クカカカカ!』
「死ぬ!殺される!」
程なくフェータは転んだ。本当に運動できないやつだ。
「フェータさん、慌てすぎです」
シェリアは呆れた様子でフェータを起こした。
「で、でも、こいつはシェリアより強い化け物みたいなやつだろ!?」
「あの格好じゃ何もできませんよ」
シェリアの言葉を受け、フェータは改めて骸骨の姿を見た。残っているのはひび割れた髑髏だけだった。それが幽霊のように浮かび上がっているようだ。しかし、何故かその下に木の棒が付いていた。
『ほら、髑髏の杖って雰囲気でるだろ? 俺も連れて行け』
そして、杖となった骸骨は一人でに動きフェータの左手に収まった。
「嫌だ!怖い!」
フェータは杖を放り投げたが、空中で方向を変え再びフェータの左手に収まる。
『クカカカカ! 無駄だぜ、フェータ』
「こんなの呪いの装備だろ!?」
こうして謎の骸骨の戦いが終わる。
戦利品はシェリアがどう見ても魔剣の聖剣でフェータが喋る髑髏の杖。
……これが勇者一行の装備でいいのか?