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2話 女神の本性

  シェリアが村に来てから一週間が経った。かわいそうな人認定されているフェータと違い、村人たちから人気で、そして、尊敬されている。

  容姿はもちろんのこと実力も高かったからだ。


  トット村のすぐ隣にある山には多くの魔物が生息している。ただその大部分は一般人でも倒せるような弱い魔物であるため村に危険はない。

  しかし、山の奥深くに縄張りをもつ魔物は総じてA級冒険者が苦戦するほど強い。それらは滅多に縄張りを出ないものの、万が一村に降りてきた場合大損害が起きてしまう。その山の主たちは村人たちにとって悩みのタネなのである。


  シェリアはその強力な魔物を毎日のように狩ってきては、自分はその素材に手をつけず村の倉庫に突っ込む。売ればかなりの金になる素材をだ。

  村の財政は潤い、村人たちは彼女を「女神」などと呼びもてはやした。いや、崇拝していると言った方がいいか。


  ただシェリアがこの村に来た目的は未だに謎だ。そもそも彼女は冒険者として依頼を受けてこの村に来たのではない。村人の誰もがギルドに依頼をした覚えなどないからだ。つまり、彼女はギルドからの命令で動いているか、もしくは個人的にこの村にやってきたことになる。村人たちが気づいていない何かしらの問題がこの村にはあるのかもしれない。


  最も村人たちにはそんなことどうでもいいらしく、今日も総出で山に入っていくシェリアを見送っている。


「「 「女神様ー!お気をつけて!!」」」


「あ、はい」


  満面の笑みを浮かべて手を振る村人たちに鬱陶しそうな視線を向けるシェリア。だが、それすらも彼らにとってはご褒美のようで、誰に視線を向けたかで言い合いになっている。そんな彼らを見向きもせずに進んでいくシェリア。トット村ではこんな光景が日常になっていた。


「おい、ちょっと待ってくれ!」


  そんな中、村では空気と化したフェータがシェリアを呼びとめる。まだシェリアを勇者にするのを諦めていないのだ。


「はあ、あなたもしつこいですね。変態ストーカーさん、これ以上私につきまとうと訴えますよ。まあ、この場で処刑しても私は構いませんが」


  しかし、シェリアの彼への評価は地に落ちている。

  フェータが自分の預言者の力をアピールしようと自分が知り得るはずのない彼女の情報を語ったところ、ストーカーだと完全に勘違いされたのだ。第一印象も悪かっただけにその溝は深い。


「物騒だな!?だから、何回も俺は予言者だって言ってるだろ!」


「ストーカーな上に妄想癖、虚言癖があるとはいよいよ救えないですね」


「何なら今から証明してやっても……」


 言い合う二人を一人の青年が遮る。


「おい、ゴラァァ!!変態が女神様の邪魔してんじゃねえぞ、ボケ!俺がシメてやろうか!?」


  ジャックだった。彼も今は女神教?の敬虔な信者だ。


「ジャック!?お前俺のこと友達とか言ってただろ!?」


「てめえなんぞが友達なんて吐き気がするぜ!」


「豹変しすぎだろ、お前……。てか、俺の力知ってるだろ?シェリアに言ってやってくれよ」


「フェータ、お前ごときが女神様の名前を呼び捨てしていいと思っているのか……?万死に値するぞ!」


  口調も変わったジャックは、急にフェータに殴りかかる。最早、狂信者だ。


  狩人として日頃から鍛えているジャックに対し、フェータは予言の力は磨いていてもそれほど体を鍛えていない。

  だから、ジャックの鋭いパンチを避ける術はないのだが……。


  「よっと」


  あまりにあっけなくジャックの拳は避けられた。それから何度もパンチを繰り返すジャックだが、フェータには一向に当たらない。ジャックの体力だけが減っていく。


「何で当たらねえんだ!?そんなに動きが速いってわけでもないのに!」


  勿論そのカラクリにはフェータの予言者としての力が関わっている。

  彼の未来を見通す力は不安定で突発的に起きるものだ。自分から使うときはかなりの条件がある。しかし、大量の魔力を目に込めた場合、短期的な未来に限って瞬時に未来を知れるのである。

  フェータはそうしてジャックのパンチの軌道を全て読んでいる。そして、ジャックが殴ろうと思った時には既にフェータは避けているのだ。


「フハハハハ!これが予言の力よ!」


  フェータはまるで悪役のような高笑いをする。奇しくもその黒いローブ姿と淡く光った赤い目にはマッチしている。


  「どうなってんだ?なんでジャックはわざと外してんだ?」


「意味わからん」


  遠巻きから見てる村人たちにはその光景は異様に見えた。なにせ側から見たらジャックはフェータが避けた後、わざわざ彼がいないところを殴ろうとしている。その様子は滑稽で、暴走した仲間を止めようとした村人たちも今はただ哀れなジャックを眺めている。


「なるほど……」


  しかし、シェリアのみは気づいていた。フェータがジャックの攻撃を完璧に予測しているのだと。そして、それが何らかの魔法によるものであることも。


  「面白いですね」


  誰も気づかなかったが、彼女は女神などとは程遠い好戦的な笑みを浮かべていた。


  「フェータ!避けてばっかいないで戦え!」


  「そう焦るなよ、ジャック。まずは俺に一発でも当てて見たらどうだ?」


  イライラしながらジャックは再び殴りかかる。さすがに疲れてきたようでその動きはさっきよりも遅い。


  「クッソが!!」


  ジャックが繰り出したのは見え見えのテレフォンパンチ。普通にしていても避けれるが、フェータはあえて未来を読む。そして、完全にタイミングを掴み渾身のカウンターを奴の顔面に叩き込んでやる。

  言いがかりでこんなことに巻き込まれフェータも結構苛立っているのだ。


  ーそうして ジャックの拳を紙一重で避け、フェータは勢いのままジャックをぶん殴る。すると、二人の首が飛んだ。比喩でも何でもなく背後からの一閃で切り飛ばされた


  (イカれてるって……!)


  一瞬のうちにそんな不吉なビジョンが脳裏に浮かび、フェータは即座に行動を変更。ジャックのパンチは避けずそのまま彼を押し倒す。

  その瞬間、二人の上を一筋の風が通った。

  ジャックは急な展開に呆けていたが、予知を目にしたフェータには嫌でも理解できてしまう。風の正体は目にも留まらぬ速さで振られた剣だ。そんなことできるやつはこの場に一人しかいない。


「素晴らしい力ですね」


  地面に転ぶ二人を、いや、フェータを見下ろすシェリア。今まで見た中で最も穏やかに微笑んでいるが、かえって恐ろしい。


「身のこなしを見る限りあなたは特に武術などは修めていない。それにもかかわらず、相手の動きを読み、ましてや私の背後からの攻撃も気取るとは」


  シェリアはフェータに手を差し伸べた。

  この手を取るのは怖い。でも、取らなくてもやばい気がする。仕方なくフェータは顔面蒼白になりながらシェリアの手を取り立ち上がった。


  「あなたは本当に予言者だったんですね。疑って申し訳ありません。認めましょう」


  「あ、ああ、ありがとう……」


「私が勇者でしたっけ?荒唐無稽な話ですがちゃんと聞きましょう」


 急にグイグイ迫ってくるシェリアに対してフェータが思うことは以下の通り。


  こいつ、狂ってるよ!突発的な予知が合ったから良かったものの、違うかったら死んでたぞ!?え、何なの?勇者ってそんな躊躇いもなく人殺せんの!?


  饒舌なシェリアに反して凍りつき死んだ場の空気。死の危険を感じたジャックは気絶してるようだった。


  この武闘派すぎる勇者を補佐しなければいけないのか……。


  今すぐ全発言撤回して逃げたいフェータであった。


 

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