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-ORIZO- 異世界の英雄  作者: 小浦すてぃ
18/18

ーエピローグー


“リベアへ


 万が一のことがあった時のために、この手紙をジェイビーに託します。彼は多少の日本語の読み書きが出来るから、読んでもらってください。


 手紙なんて初めてだから、どう書けばいいのか……とにかく、俺は今火の国にいて、王がいる城の中でこの手紙を書いています。ここまでは何とか無事に辿り付けたけど、ここからが問題。俺は今から火の国王に会います。兵士達の話によると水の国を攻めるつもりは無いらしいけど、国王が考えている国の方針を聞いておくべきだと思って。もし王の機嫌を損ねてその場で殺されるなんてことがあるかもしれないから、ここに俺の気持ちを書いておきます。


 リベア、俺はリベアに会えて、本当によかった。リベアが水の国を案内してくれて、一緒にいてくれて、おかげで俺は世界を知ろうと思えた。元の世界もこっちの世界も、目を開いてよく見れば何だってあったんだ。それはいいものばかりじゃなくて、目を背けたくなるような悪いものもある。火の国ではそれをたくさん見た。もしリベアがいつか火の国に来ることがあれば、騙されたりしないようしっかりと火の国を見てほしい。火は回りを照らすと同時に、離れた闇を深く見せる。でも闇の中でも皆燃えるように生きている。リベアなら、きっとわかると思う。


 最後に、ここから先が無駄になることを祈って――もし俺が戻って来なかったら、君は決して俺を探さないでほしい。自意識過剰かもしれないけど、リベアは寂しがりだからもしかしたらと思って。俺が戻ってこないということは、きっと元の世界に帰ることが出来たんだって、そう思って欲しいんだ。本当なら俺は、もといた世界じゃ既に死んでいる。天国か地獄か、広い海かそのどれでもない所かわからないけど、俺には行かなきゃいけない世界がある。いつかそこで出会えたら、今度は俺がその世界を案内してあげるから。


 リベアの代わりがいない様に、俺の代わりもどこにもいない。だから俺にこだわって一人で生きていく必要はない。後を追う必要もない。広い世界を見ながら、皆で支えあって生きて欲しい。


 なんて、こんな手紙が別れの言葉じゃズルいよな。大丈夫。そうならないように、近いうちに戻るよ。    

 


“魚田峰ホノカ”








 周囲が黒に包まれる。どこまでも新鮮で、常闇の力に寄らない天然の闇。強い光の直後なせいか、その闇のなかでは自分の体さえも見られない。ただ、自分の胸の鼓動はわかる。いつもよりも鮮明に。私はいつまでも瞳を閉じて胸の音に意識を集中させた。


 立ち止まって悩んでても、答えが向こうから来てくれるわけじゃない。


 運命に飼いならされるのではない。逆らうのでもない。


 俺が運命に従いながら、その一歩先を行く。運命の前に立って、動かしてやる。


 王様は言ってたよな。英雄は存在じゃなく状態だって。だったら俺は、魚田峰ホノカは、英雄オリゾとして今出来ることをやってやる。


 それが彼の、私が読み取った最後の思い。


 彼のもとから離れた私は、結界を球状に張って波を乗り切った。その後光の柱が降ってきたと思うと結界がみるみる蒸発して消えていって、気が付くと私は浜に打ち上げられていた。


 火の国の兵士に救助されてからは、スコリエル王の計らいで修復したハイトランズで一度水の国へ戻り、ココナティを通して今回の事件を水の民全員に伝えると共に、マヤツミのマチの復興に当たった。そして百日がたった今、私は水の国からの使者として火の国にやってきた。


 彼の記憶にあったソウシマアタの塔。その頂上の部屋で私は今、上顎を突き上げるような感覚を覚えている。とても言葉は出そうにない。彼とはもう生きてこの世界で会うことはない。それを受け入れざるを得ない現実の残酷さに打ちひしがれて、顔を覆って声を上げて泣くしか出来ない。


 いつしか部屋を照らすぼんやりとした光が目を覚まし、隣の席からハンカチが差し出される。袖の金色のカフスボタンに映る私の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。受け取って涙を拭うと、続いて手紙を渡してきた。ハンカチを返しつつ手紙を受け取るも、当分封を開けるつもりはない。とりあえず今はその必要もない。今彼の手書きの文字なんて見てしまったら、一日は泣き腫らしてしまうだろうから。


「いきましょう。スコリエル王がお待ちです」


 石の椅子から立ち上がり、カツカツと足音を響かせて部屋を後にする。階段を下りる前に振り返ると、“オリゾ 異世界の英雄”と文字が掘り込まれている看板が徐々に窪みを消していき、終にはまっさらになった。


 この異世界のために、平和のために、自分のために戦って、そして死んでいった。どんな悪戯小僧でも、改心して聖人としての生を歩んで没すれば聖人として葬られ、どんな神童も運命の悪戯で犯罪者に落とされ没すればその汚名は死してなお付きまとう。英雄も、死んで初めて、永遠に英雄のままでいられる。伝説をなぞった彼らは、真に英雄だった。でも――


「何が英雄だ。死んだら終わりじゃないか」


 彼のおかげで私は生き延びることができた。でも、生き延びるだけじゃだめ。ホノカ。あなたの言う通り、私はこの命を無駄にはしない。




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