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真夜中のトリックスター  作者: mysh
パスタ会議
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対抗戦対策会議(前)

     ◇


 魔導まどう失踪しっそう事件じけん解決かいけつしてから三週間。スコットが出向しゅっこうからもどってきて、〈資料しりょうしつ〉は平穏へいおん――勤務きんむ半分(はんぶん)自由じゆう時間という日常にちじょうを取り戻した。


 みんながのぞむカーニバルへの関心かんしんもあるけど、その二日ふつか後から始まる対抗たいこうせんのことで、今は頭がいっぱいだ。なぜなら、ストロングホールドで出会ったトレイシーと試合しあいをする約束やくそくをかわしたからだ。


 ベレスフォードきょう推進すいしんする河川かせん整備せいび計画けいかくに、反対はんたい意思いし表明ひょうめいしてもらうことが交換こうかん条件じょうけんなので、約束は反故ほごにできない。


 人前ひとまえで戦う以上(いじょう)無様ぶざまな試合はできないし、今後こんご協力きょうりょくしていくトレイシーの期待きたいにもこたえなければならない。さらに言えば、前回のように魔法まほう無効むこう化にたよ事態じたいもさけなければならない。


 そんなわけで、自然しぜん常識じょうしき的な魔法のわざをみがくため、鍛錬たんれんを始めてみたものの、重大じゅうだい問題もんだい発覚はっかくした。


 終業しゅうぎょうまでの自由時間に、相談そうだんがあるとスコットとケイトに持ちかけ、以前(いぜん)魔法の特訓とっくんをした〈資料室〉の裏手うらてへ移動した。まず、トレイシーと試合をする話をけた。


「トレイシー・ダベンポートって言ったら、辺境守備隊ボーダーガードでも一、二をあらそう人だぞ」


「えっ……?」


 スコットの話を聞いて、思わず絶句ぜっくした。本題ほんだいへ入らないうちに、問題がさらに深刻しんこくとなった。


「ただ、辺境守備隊ボーダーガードは例の事件で有名ゆうめいな人がごっそりいなくなったから、城塞守備隊キャッスルガード上位じょうい陣とくらべると実力じつりょく的に見劣みおとりするけどな」


 例の事件は、五年前に〈樹海じゅかい〉で起きた戦闘せんとうのことをしているのだろう。その時、辺境守備隊ボーダーガード精鋭せいえい部隊ぶたい全滅ぜんめつに追い込まれた。


「確かその方、去年きょねん序列じょれつが九位だったと思います。誰かが『辺境守備隊ボーダーガードのトップが九位かあ』と残念ざんねんそうに話されていたのをおぼえています。

 でも、九って言ったらひとけたですよ。両手の指で表現ひょうげんできる数ですよ。どうして、そんな方との試合を引き受けたんですか?」


 ケイトが詰問きつもんする調子ちょうしで言った。ほんの出来心できごころというか、目の前のエサにつられたというか。まちがった判断はんだんだとは思っていない。


「確か、あの人は『水』と『氷』のわせだったな。つまり、ジェネラル戦を見すえたかたらしってところか」


「そこまで考えてなかったけど……」


「ウォルターは本気ほんきでジェネラルをめざしているんですね。何だか、スゴくとお存在そんざいに感じてきました」


「そういうことか。その人に『風』オンリーでどう対抗たいこうするか、俺に聞きたいってわけだな。あらゆる組み合わせと死闘しとうをくり広げた、この『風』のエキスパートにどんとまかせろ。これにかんしたら、俺の右に出る者はいない」


「耳をしてはいけません。このんでやる人が誰もいないだけですよ!」


 話が切りだしにくい。重大な問題とは魔法の連携れんけいのことだ。独学どくがくで取り組み始めたものの、やりかた根本こんぽん的にまちがっているのか、まったくできなかった。


じつは魔法の連携をおしえてもらおうと思ったんだ」


「その話をどうして俺に聞こうと思った?」


「確かにお門違かどちがいというか、人選じんせんミスですよね」


 そうはいっても、魔法のことを気がねなく相談できる相手はスコットしかいない。クレアだと話がこじれそうだし。


「スコットも魔法の連携ができないわけじゃないよね?」


「俺はさとりの境地きょうちにいたったから、どうもべつ属性ぞくせい使つかかたが思いだせない」


 魔法無効化はカモフラージュの方法ほうほう発見はっけんできないかぎり、封印ふういんしようと考えている。そもそも、自分じぶん自身(じしん)効果こうかがおよぶのでフィニッシュに持ち込めない。


 エーテルの濃度のうど上昇じょうしょうによる魔法強化(きょうか)は、距離きょりを取った状態じょうたいなら有効ゆうこうだ。ただ、相手が能力の有効ゆうこう範囲はんいに入れば、こちらにきばをむくわせものだ。まさに、あちらを立てればこちらが立たない。


 だから、接近せっきん戦だけでも能力ぬきで戦うしかない。けれど、上位陣と互角ごかくわたえるかは疑問ぎもんがつく。技術ぎじゅつ経験けいけんの差がどうしても出てくるはずだ。


 すこしでもその差をめるため、二つの属性を連携させられるようになろうと考えたんだけど、スコットをあまく見ていたかもしれない。


 まあ、トレイシーは実力者だから、『風』のみで戦えば、負けても言いわけが立つ。手をぬいたという非難ひなんもあびないだろうし、行きすぎた周囲しゅういの期待に、みずをあびせられるかもしれないな。


むずかしいことではないです。私がわりに教えます」


わるあがきはよせ。で試合に出るとケガするぞ。『風』一本にしぼり込んだほうがいい」


「私の指輪ゆびわをお貸しします。今日きょうから試合の日まで、みっちり練習れんしゅうしましょう。安心あんしんしてください、この指輪は本物ほんものです」


 ケイトがはずした指輪を僕の手のひらにおさめ、のぞみをたくすようにギュッと両手でにぎりしめた。


「まずは『火球かきゅう』を出してみましょう」


 差しだした右手の上に、全力ぜんりょくの『火球』を発現はつげんさせた。中心ちゅうしん点へうずをくように収束しゅうそくさせ、太陽たいようのようなこう密度みつど球体きゅうたいを作り上げた。


「さすがです! このレベルなら、絶対ぜったいに試合で通用つうようしますよ!」


 われながらじょう出来できだったけど、これが指輪のみの力なのか、〈悪戯〉(トリックスター)の力をりているのかわからない。一緒いっしょ重力じゅうりょく操作そうさでもすれば、はっきりするんだけど。


「ちっ」


舌打したうちしないでください」


 スコットが不満ふまんげにしたそれを、ケイトが見とがめた。


「せっかくだから、五つの属性をのこらず連携させてみるってのはどうだ?」


無理むり難題なんだいを押しつけて邪魔じゃましないでください。さっそくですが、『風』と『火』を連携させましょう。そうですね……、今見せた『火球』を『突風とっぷう』であやつって、こうのかべにぶつけるってのはどうでしょう」


「やってみる」


 そうおうじたものの、先日せんじつはそれができなかった。ただ、二つの指輪を使えば、状況じょうきょうが変わるかもしれない。


 二十メートルちかはなれた城壁じょうへきにねらいをさだめる。ひかな『火球』を発現させ、それを押しだすイメージで、つづけざまに『突風』を発動はつどうした。


 すると、あさっての方向ほうこうばないよう加減かげんしたのに、起こした『突風』は『火球』を軽々(かるがる)とかき消してしまった。


き飛ばしちゃダメですよ!」


「あれあれ? どうした、ウォルター」


 スコットが声をはずませた。原因げんいんがわからない。この前と全く同じだ。感覚かんかく的に言えば、二割程度(ていど)の力で『突風』を発動した。これ以上の繊細せんさいなあつかいが必要ひつようなのだろうか。

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