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真夜中のトリックスター  作者: mysh
仲間
48/181

催眠テスト(後)

     ◆


「とにかく『樹海じゅかい魔女まじょ』について調べたいので協力きょうりょくしてください」


「いやにこだわりますね」


巫女みこにつながる情報なら、どんなささいなものでもしいんです」


 ウォルターの巫女に対する純真じゅんしん無垢むくなまでの執着しゅうちゃく。それはパトリックの目に異様いよううつった。


 〈催眠術ヒプノシス〉に似た能力がかけられているのではないか。そんな疑念ぎねんが頭によぎった。その前提ぜんていに立てば、ウォルターはトランスポーターが送り込んだ〈侵入しんにゅうしゃ〉だ。


 なぜ、〈催眠術ヒプノシス〉と同種どうしゅの能力者が〈そと世界せかい〉にいるという考えがぬけ落ちていたのか。パトリックは自身(じしん)のうかつさと、能力への過信かしんにあきれ返った。


中央ちゅうおう広場ひろば事件じけんかかわっているからですか?」


 パトリックの非協力的な態度たいどごうをにやし、ウォルターはなかばヤケになっていた。それを聞いたパトリックが苦笑くしょうをもらした。


「誰の知恵ぢえですか? それをおしえてくださったら、そのことについて話しましょう。あくまで教えられる範囲はんい内のことですが」


「名前は知らないんですけど、この間の会合かいごう大声おおごえを上げた背の高い人です」


「わかりました。彼ですね」


 パトリックはうんざりした様子ようすで頭を振った。


機密きみつ該当がいとうする事件のため多くは語れません。しかし、だい多数たすうの人間が知る客観きゃっかん的な事実だけなら、お教えできます」


 パトリックはそこで息を入れてから、こう続けた。


「あれは五年ほど前の出来事できごとです。当時とうじ我々(われわれ)は〈侵入者〉の一味いちみとある交渉こうしょうすすめていました。

 もっぱら〈樹海じゅかい〉において行われた交渉は最終さいしゅう的に決裂けつれつしました。そして、敵方てきがた交戦こうせんする事態じたいにおちいり、護衛ごえい同行どうこうした辺境守備隊ボーダーガード精鋭せいえいがほぼ全滅ぜんめつしたのです。それも、なすすべなく一方いっぽう的にです」


 ウォルターがゾッとする内容に息をのむ。この平和へいわな国に似つかわしくない凄惨せいさんな内容に、これまで〈侵入者〉にいだいていたイメージが、瞬時しゅんじにくつがえった。


「中央広場事件が起きたのはほとぼりがめた数週間後。元老院げんろういん議長ぎちょう皮切かわきりに、計画けいかく中心ちゅうしんにいた重鎮じゅうちん達が相次あいついで暗殺あんさつされました。殺害さつがい手口てぐちいつにして電撃でんげきとナイフ。犯人はんにんもくされたのは辺境守備隊ボーダーガードの長をつとめていた男です。

 ジェネラルにまさるともおとらないとごえ高かった彼は、〈樹海〉において戦死せんししたと思われていました。しかし、このレイヴンズヒルに突如とつじょ姿を現し、残忍ざんにん犯行はんこうにおよんだすえに、ふたた行方ゆくえをくらましたのです」


「例の男は学長がくちょうがその友人ゆうじんを売り渡したと言っていました」


「これより先は機密のため、話すことはできません。しかし、私は彼を売り渡したつもりはありませんし、彼が犯人であったと確信かくしんしています」


 パトリックは悲壮ひそう感をただよわせながら断言だんげんした。沈痛ちんつう面持おももちには悔恨かいこんが見て取れ、その発言はつげんうたがう気持ちはウォルターに生まれてこなかった。


以前(いぜん)話したトランスポーターは、〈侵入者〉を送り込む際にこのんで〈樹海〉をもちいます。たん潜伏せんぷく先として好都合こうつごうなのか、それとも能力的な限界げんかいなのかは判断はんだんがつきかねます。

 これは私の憶測おくそくにすぎませんが、おそらく『樹海の魔女』は〈侵入者〉がうわさとなって広まったものでしょう。〈侵入者〉はたかだか数カ月で〈外の世界〉へ帰還きかんしますから、十数年前の目撃もくげき証言しょうげんしか存在そんざいしないのが、それをうらづけています」


 仮説かせつには説得せっとく力があった。やっとつかんだ手がかりが根元ねもとからち切られ、またしにもどってしまい、ウォルターはため息まじりに肩を落とした。


「我々にとって、先の事件はあまりに衝撃しょうげき的でした。敵が〈樹海〉の外へ出てこないのなら、あえてリスクをおかす必要ひつようはない。〈樹海〉および〈侵入者〉とは一切いっさい関係を持たない。それが事件後に出した我々の方針ほうしんです。

 そういうわけですから、『樹海の魔女』について調べるのはひかえてください。あなたに表立おもてだった行動こうどうをされると、私の体面たいめんにも関わります」


「わかりました」


 ウォルターは渋々(しぶしぶ)ながら同意どういした。


 ウォルターの疑念は解決かいけつを見た。けれど、パトリックのそれは別だ。話をしている最中さなか、彼の頭に妙案みょうあんがひらめいていた。思惑おもわく気取けどられぬよう、つとめて平静へいせいをよそおい、こうした。


「ウォルターは別の世界から来たと、以前言っていましたよね?」


「はい」


「その世界から他の方をれて来られませんか? ウォルターの様な協力者が他にいてくれれば心強こころづよいですし、能力者ならば、なおさいわいです」


「他の人をですか?」


 ウォルターがしぶい顔を見せる。自身がどういった手段しゅだんでここへ来ているかもはっきりしない。この世界自体(じたい)、自身の心の中に存在するものと考えていた。


 なぜパトリックはこの話を持ちかけたのか。それはトランスポーターがかかえる能力的制限(せいげん)関連かんれんしている。トランスポーターが有する〈転送〉(トランスポート)の能力では、この国へ同時に送り込める〈侵入者〉はたった一人だ。


 厳密げんみつには、転送てんそう元への帰還を無視むしすれば、そのかぎりではないが、〈侵入者〉の立場たちばになれば、それはこの国への永住えいじゅうを意味し、現実げんじつ的な手段ではない。


 この情報は以前拘束(こうそく)した〈侵入者〉から得られたものであり、これまで捕まえた〈侵入者〉が例外れいがいなく単独たんどく行動だったという傍証ぼうしょうもある。それらはすべて、〈転覆てんぷくくに〉と〈外の世界〉の完全なる隔絶かくぜつ原因げんいんだ。


 かりにウォルターが〈侵入者〉ならば、あらたな人物じんぶつを連れてくるのは現実的でない。本人ほんにんはまちがいなく躊躇ちゅうちょするだろう。パトリックの思惑はそこにあった。


無理むりかもしれませんけど、ためしてみます」


 ところが、ウォルターからは前向まえむきな発言が返ってきた。パトリックは質問しつもんへの反応はんのうで、正体しょうたいを見きわめるつもりだっただけに、肩すかしを食らった。


「何か当てがあるんですか?」


「当てというほどでもないんですけど、とにかく試してみますよ」


 目をキョトンとさせたパトリックとは対照たいしょう的に、ウォルターは楽天らくてん的だった。


部屋へやのベッドで寝れば、誰でもこっちに来れたりしないだろうか)


 ウォルターの頭にあったのは自身のベッドが世界せかいの入口という短絡たんらく的な発想はっそうだ。パトリックの発言を受けて、それを検証けんしょうしたいと考え始めていた。

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