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真夜中のトリックスター  作者: mysh
資料室
39/181

資料室(後)

     ◇


 〈資料しりょうしつ〉があったのは東棟ひがしとう片隅かたすみ中庭なかにわめんしていない北側のはしっこなので、日中にっちゅうにもかかわらず、付近(ふきん)通路つうろくらい。


薄暗うすぐらいですけど、風通かぜとおしは良いんですよ」


「ここだ」


 〈資料室〉の前にたどり着くと、スコットに中へまねき入れられる。部屋へやの中はところせましとつくえが並べられ、時代じだいは感じさせるものの、一目ひとめでオフィスとわかる雰囲気ふんいきがある。


 一番いちばんおく窓際まどぎわせきに、三十代なかばの男が一人でいた。イスにだらしなくすわる男が、気のぬけた顔をこちらへ向けた。


「何だ、そいつは」


「うちに入るかもしれない、期待きたい新人しんじんです」


「聞いてないな」


 男がトゲのある声で無愛想ぶあいそうに言った。


「今、勧誘かんゆうしているまっ最中さいちゅうですから」

「それより、さっさと仕事しごとしろ。いつまであぶら売ってるんだ」


 男はだるそうに顔をそむけた。すこし聞いていた話とちがうと思った。


「資料がいてある部屋を見に行きましょうか」


 気まずい雰囲気を取りなすように、ケイトが声をうわずらせて言った。


     ◇


 左手奥のらせん階段かいだんから、ランプ片手かたてに二階へ上がる。二階と三階は資料を保管ほかんする書庫しょこで、この階段からでしか行けないそうだ。


 外から見た〈資料室〉は、東棟から突き出た位置いちにあって、あとから増築ぞうちくされた感じの独立どくりつした構造こうぞうになっている。


 書庫まで案内あんないされ、書棚しょだなから取り出した資料をもとに、具体ぐたい的な仕事内容を例示れいじされた。


 例によって、資料は日本語で書かれているので、言語げんご的な問題はない。自分でもやっていけると思った。


 一通ひととおりの説明せつめいが終わると、二人から〈資料室〉配属はいぞくへの意思いしわれた。ここへ来る前から心は動いていたけど、その思いはさらに強くなった。


「とりあえず、ここへ入ってみようかな」


「とりあえず、ってどういうことだ? ここをだいにするってことか?」


「いや、そういうわけじゃ……」


「入るからには、ここに骨をうずめるくらいの気持ちでおねがいします」


 日頃ひごろ優柔ゆうじゅう不断ふだん物言ものいいがわざわいした。まあ、二人とも冗談じょうだん半分(はんぶん)対応たいおうだったけど。


「ここに入らせてください」


 今度はきっぱりつたえ、二人のさわやかな笑顔えがおむかえられた。


「よし、さっそく手続てつづきに行こう」


 スコットにれられ、同じ棟内の総務そうむ室で手続きを行う。休暇きゅうか申請しんせい給料きゅうりょう手当てあての受け取りもここで行うそうだ。一般いっぱん的に休暇は年に三ヶ月もとれるらしい。


 一時間以上(いじょう)ようしたけど、パトリックが話をとおしていたので、手続き自体(じたい)はスムーズにんだ。付きっきりで手伝てつだってくれたスコットと喜びをかち合う。


 こうして、正式せいしきに〈資料室〉の一員いちいんとなり、あらたな一歩いっぽをふみ出すことになった。


     ◇


 もう終業しゅうぎょう時間がすぎていたので、そのまま帰ることになった。帰りがけにパトリックのところへ報告ほうこくに行くと、そこでうれしい知らせを耳にする。


 東門ひがしもんを通りぬけて、レイヴン城を後にすると、さがしていた人物じんぶつは、門のそばであっさり見つかった。


「今日は向こうの中央ちゅうおう通り沿いの店に用事ようじがあって、ちょうど今、帰って来たところなの。そろそろ終わるころだと思って、ここで待ってたんだけど」


 ダイアンの何もかもつつみ込むような笑顔を見たら、一日分の精神せいしん的な疲労ひろうが、あっという間にんでしまった。


 世間せけん話をしながら家路いえじに着く。


「うんうん、それで?」


「会合の後は、ちょっとしたことがあったんですけど……」


 ダイアンは城での出来事できごとを聞きたがった。定例ていれい会合かいごうへの出席しゅっせきや、〈資料室〉の所属しょぞくとなったことは話したけど、余計よけい心配しんぱいをかけそうなことは言わなかった。


 屋根やねうら部屋に帰り着くと、きゅうごしらえでベッドが拡張かくちょうされていた。お世辞せじにも広いと言えない部屋が、いっそうせまくなっていた。


近所きんじょの人にたのんでやってもらったんだけど、箱にワラをつめてシーツをかぶせただけから、二時間もかからなかったかな」


 そう説明してくれたけど、反応はんのうこまった。この二日間はダイアンより早寝はやね遅起きだった上に、起きぬけからイベントだらけだった。今さらながら、彼女のベッドを使用していた事実を突きつけられた。


 不可ふか抗力こうりょくだったから、仕方しかたがない面はあるとはいえ、ダイアンは二日間どこで寝ていたのか、拡張したということは今日は二人で寝るのだろうか、そんなことを考えていたら、彼女の顔を直視ちょくしできなかった。


 この後、こっちの世界に来てから初めて、ダイアンと夕食ゆうしょくともにした。

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