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真夜中のトリックスター  作者: mysh
試合
31/181

挑戦状

     ◇


「おい、新入しんいり!」


 東棟ひがしとう西棟にしとうをつなぐわた廊下ろうかすすんでいる時、威嚇いかくするような声にび止められた。背後はいごから二人組の男が近寄ってくる。片方かたほうの男は血走ちばしった目をこちらへ向けていた。


伯父おじはじをかかせたのはお前だろ?」


 そう言った男の年齢ねんれいは二十代前半。ととのった顔立かおだちに洗練せんれんされた髪型かみがた。プライドが高そうなひとみには、明確めいかく敵意てきい宿やどっていた。たいして、となりにたたずむ男はそっぽを向いて、関係かんけいをよそおっているように見える。


「彼はベレスフォードきょうおいです。確か、名前はデビッドだったと思います」


 パトリックの説明せつめいを受ける前から、男の言う伯父が誰であるか予想よそうがついた。その人物じんぶつ以外(いがい)、思い当たらなかった。


「俺と試合しあい勝負しょうぶしろ」


 そう言ったデビッドの眼光がんこうが、さらにするどさをす。何というタイミングのいい展開てんかいだろう。こう不幸ふこうか、さっそく得たばかりの知識ちしき役立やくだった。


 とはいえ、挑発ちょうはつに乗る気はさらさらない。極力きょくりょくあらそいを回避かいひし、えず一歩いっぽ引いて、これまでの人生じんせいあゆんできた。


「ウォルター、あいつと知り合いなのか?」


 スコットのいかけに首をひねるしかない。こんな状況じょうきょうにも、いい加減かげん慣れてきたので、動揺どうようすくなかった。けれど、事態じたい収拾しゅうしゅうする方法は見当けんとうもつかない。


 デビッドの行動が、ベレスフォード卿のがねかどうかも気がかりだ。今後こんごも付きまとわられると考えただけで、ゲンナリする思いだった。もっとも、これが個人こじん的な行動だとしても、面倒めんどうなことに変わりないんだけど。


「お前はジェネラルを目指めざしてるんだろ? これでも俺は序列じょれつのついた士官しかんだ。俺を楽々(らくらく)ふみこえていくようでなければ、ジェネラルなんて夢のまた夢だぞ?」


「何だ、あいつ。いつにも増して、うっとうしいな」


 スコットが顔をしかめて言った。パトリックに仲裁ちゅうさいしてもらうしかない。そんな気持ちのこもった視線しせんを向けたものの、思いも寄らない言葉が返ってきた。


「どうしますか。勝負を受けますか?」


 口をかたくむすんで、正気しょうきうたがうような眼差まなざしを返す。どうしますかって、まだ魔法まほうが使えないことを、誰よりもよく知っているはずなのに。いや、はやとちりはいけない。


「今すぐってわけじゃないですよね?」

「彼は今すぐ行いたいようですが……」


 パトリックがデビッドの顔色かおいろをうかがいながら言った。それなら、なおさら無理むりじゃないですか。僕の能力をどこまで過大かだい評価ひょうかしているのだろうか。


「待ってください。こういったたしいは禁止きんしされてないんですか?」


正式せいしき手続てつづきをふんでいれば問題ありません。具体ぐたい的に言えば、立会たちあい人を立てて、公的こうてきな場で行えばいいのです。ついでながら、私はその立会人のゆう資格しかく者です」


「ちょっと来てください」


 パトリックの腕をつかみ取って、柱のかげまで引っぱり込んだ。


学長がくちょう肝心かんじんなことを忘れてます。僕はまだ魔法が使えないんです」


「それはぞんじ上げています。けれど、能力で魔法を消失しょうしつさせられるなら、魔法の発動はつどうもできると考えるのが、自然しぜんではありませんか?」


 百歩ひゃっぽゆずって、その理屈りくつただしいとしても、試合をするとなればわけがちがう。ボールがけれるからと言って、すぐにサッカーの試合ができないように。


簡単かんたんに言いますけど、まだ能力を使いこなせていないんです。魔法を使ったことだってありません。第一だいいち、まだレプリカの指輪ゆびわしか受け取ってませんよね?」


安心あんしんしてください。魔法の発動における指輪は、決して必須ひっす要素ようそではなく、補助ほじょ的なデバイスにすぎません。使つかものになるかどうかはともかく、げんに序列の上位じょういに名をつらねる魔導まどうなら、指輪がなくとも多少たしょうの魔法が使えますから」


 どうしてこう意固地いこじなのだろう。本気ほんきでこのまま試合をさせるつもりだろうか。


「これはウォルターがまいた種ですよ?」


「彼の話を聞いていなかったんですか? 学長も一枚いちまいかんでるじゃないですか!?」


 挑発的な言葉を投げかけられ、小声こごえながら語気ごきを強めた。図星ずぼしをつかれたからか、パトリックはしばし口ごもった。


「考えてみれば、私はまだウォルターの能力を拝見はいけんしていません」


「言ってくれれば、いつだって見せますよ」


 ひねくれた物言ものいいに、僕は取りつく島をあたえない。


「では、魔法を使えるかどうか、この場でためしてみましょう」


 あしを取られた。これは自分がまいた種か。乗るべきか、乗らざるべきか。本心ほんしんでは試してみたくてしょうがない。


 ただ、かりに成功したら、そのまま試合になだれ込ませる作戦だろう。それが目に見えているから、うかつに返答へんとうできない。


「何やってるんですか? 青筋あおすじ立ててるやつが、お待ちかねですよ」


 スコットが柱のかげから顔をのぞかせた。


「試合を受けるかどうか相談そうだんしているので、すこし待っていただくようつたえてもらえますか?」

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