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真夜中のトリックスター  作者: mysh
プロローグ
2/181

運動公園(前)

     ◇


 晴天せいてんにめぐまれた休日ということもあり、運動公園は家族連れでにぎわっていた。


方角ほうがく的に野球場じゃなくて広場ひろばのほうかな……」


 一行いっこう先導せんどうする土井どい先輩せんぱいが誰に話しかけるともなくつぶやいた。視線しせんの先には、スマホの画面にうつし出された地図がある。


 多種たしゅ多様たよう施設しせつをかかえる運動公園は、迷路めいろのように通路つうろが入り組んでいて、地図なしで目的地にたどり着くのは、ひと苦労くろうかもしれない。


「何か楽しいですね」


 後ろを歩いているつじさんが、邪気じゃきみを見せる。UFO(ユーフォー)探索たんさくというよりは、文芸ぶんげいの部員がせいぞろいし、校外こうがいで活動していること自体じたいが、楽しくてたまらないのだと思う。


 辻さんは一年後輩に当たる小柄こがらな女の子だ。笑顔えがおえない明るい子で、その天真てんしん爛漫らんまんさと社交しゃこう性を武器ぶきに、入部から三ヶ月足らずで、すっかり文芸部にとけ込んでしまった。


 そのとなりを歩く小谷こたに先輩は、土井先輩と同じく三年生で、文芸部の副部長。女性としては比較ひかく的長身ちょうしんで、体型たいけいはスレンダー。肩口かたぐちまでのびたストレートの黒髪くろかみからは気品きひんをただよわせている。


 物静ものしずかで大人びた性格だけど、意外いがいに気が強い。面倒めんどうの良いしっかり者なので、辻さんから姉のようにしたわれている。


「それにしても、小谷くんがこんなことに興味きょうみを持つとは意外だったな」


 土井先輩の疑問ぎもんに自分も同感どうかんだ。まじめで冗談じょうだんを好まず、推理すいり小説しょうせつをこよなく愛する小谷先輩が、なぜUFO云々(うんぬん)の話に関心かんしんしめしたのだろう。


 その理由を小谷先輩はこう説明した。


「十数年前に、高校生が集団しゅうだん失踪しっそうした事件があったでしょ。すこし興味があったから、事件くだんのルポを半年ぐらい前に読んだの。そうしたら、その本の中でこの公園の話が結構けっこう出てきてたから、一度行ってみたいなって、前から思ってたの」


「そういえば、この公園で一緒にいるところを、目撃もくげきされてたんだっけ」


 その話は自分も知っている。近所で起きた大事件として、小さいころから、事あるごとに耳にした。とはいえ、事件が起きたのは自分が生まれる前のこと。今まで、強い関心をいだいたことはない。


「何で、こんな早い時間に来たの? 明るかったらUFOなんて探せないでしょ?」


 時刻じこくはまだ午後二時を少し回ったところ。木陰こかげに逃げたくなるざしが健在けんざいだ。小谷先輩の指摘してき通り、発光はっこう物体ぶったいを探索するには、間違いなく不向ふむきな条件下だ。


「UFOは血眼ちまなこになって探せば見つかるものでもないし、気長きながあらわれるのを待とうじゃないか。ここの目玉めだまなら他にいくらでもあるし、最近は超常ちょうじょう現象げんしょう頻発ひんぱつしているらしいから、明るいうちに見て回っておきたかったんだ。何なら、先に失踪事件ゆかりの場所を回ってもいいよ」


後回あとまわしでいいわ」


 小谷先輩はそっけなくもうことわった。


「あと、太田おおたくん。昨日、ネットで調べてみたんだが、UFOらしき目撃情報は見つからなかったよ。だから、どうせ野球場のライトか何かを見間違えたんだろう、と半信はんしん半疑はんぎだったんだけど、こっち方面ほうめんに、それらしきものは見当みあたらないか」


     ◇


 それから、土井先輩の案内あんないで公園内を散策さんさくした。目的地に着くたび、事前じぜんに調べてきたとうい超常現象ネタが披露ひろうされる。


 それは、ある樹木じゅもく根元ねもと付近ふきんだけこおりついていた話や、風でなぎ倒された雑草ざっそうが、ミステリーサークルばりのうず巻き模様もようをえがいていた話など。


 二時間も経過けいかした頃にははなしたねがつきた。敷地しきち内もあらかた回りつくし、UFOにめぐり会うこともかなわなかった。


 僕らは運動公園の西側に位置する広場で、足を休めることにした。そこはUFOを目撃した方向にあることにくわえ、くだんの高校生達が、失踪前日に集団でいるところを目撃された場所でもあった。


 広場のベンチでひといき入れると、元気のありあまっていた辻さんが、退屈たいくつしのぎにクイズを始めた。


「あれは何でしょう」


 広場をかこむ樹木や草花くさばなを指さして問題を出す。二人の先輩が、すずしい顔で解答をきそい合う。張り合う知識のない自分は、傍観ぼうかん者を決め込んだ。


 自分が言い出したのではないけど、このままではがない。発光物体の出現しゅつげん切望せつぼうし、うらめしそうに空を見上げる。


 夏至げしからまもない時期の太陽は、辻さん以上にランランとしていた。軽くため息をつき、空から目を戻そうとした――その瞬間しゅんかん、かすかな違和いわかんをおぼえ、広場の片隅かたすみで目がとまった。


 目をこらしてみると、草むらの一角いっかくから、黒い一筋ひとすじけむり弱々(よわよわ)しくちのぼっていた。

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