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真夜中のトリックスター  作者: mysh
転覆の日
179/181

力の暴走(前)

     ◇


 市街しがいにはいわ巨人きょじん見当みあたらなくなり、安心あんしんしてとおりの中央ちゅうおうすすむ人がえてきた。


 耳をすましても、もう耳ざわりな重低じゅうていおんは聞こえない。街の外で待機たいきする敵を思いだし、大門おおもん頂上ちょうじょうへ向かった。


 のこりの一団いちだんは、川のこうぎし開戦かいせん前と同じ状態じょうたいやすんでいた。敵が存在そんざいわすれているのか、それとも、誰かがゾンビをあやつる男をしとめたのか。


 どっちにしたって、見て見ぬふりはできない。同じ場所でジッとしていても、いつ動きだすかわからない。


 空をんで移動する手間てまも、敵の姿をさがす必要ひつようもない。その点はありがたい。けれど、敵の数はこれまでにしとめた総数そうすう匹敵ひってきする。


 かわいた笑いが出た。さきが思いやられ、気がとおくなりかけた。


 すでに全身ぜんしん悲鳴ひめいを上げている。いたむことが正常せいじょうとなっていた。もはや、気合きあい根性こんじょう――そんな言葉ことばかたづけられるレベルをこえている。


 ふと市街をく。そこには守らなければならない景色けしきがあった。


 パワーをもらった。背中せなかを押された。あれを片づければ終わる。あとひと息じゃないか。僕は決死けっしの思いで立ち上がった。


     ◇


 敵の一団にかって飛び上がり、近くにころがりながら下り立った。体が思うように動かず、ずいぶん前から、まともな着地ちゃくちはできなくなっている。


「近づくと動きだすぞ!」


はやく逃げろ!」


 次々(つぎつぎ)注意ちゅういびかける声が上がった。岩の巨人が相次あいついで起動きどうし、救援きゅうえんのための魔法まほうが飛びかい始めた。


 ヨロヨロと片膝かたひざをつき、向かってきた敵の一団()がけ、渾身こんしん黒煙こくえんはなつ。


 先頭せんとうを走っていた二体をあっさりしとめる。ただ、十体ぐらいを一網いちもう打尽だじんにするぐらいの気持ちだった。


 全身を激痛げきつうが走る。ナイフで切りつけられたような痛みと痙攣けいれんで、腕が動かない。体はもうガタガタだ。


 岩の巨人がたばになってせまって来る。これまでは単独たんどく行動こうどうする敵を一体いったいずつ対処たいしょしてきた。そのため、痛みが引くのを待つ時間があった。


 たてつづけに黒煙を放つのは、身体しんたい面だけでなく、精神せいしん面へのダメージも大きい。少しでも体を休める時間がほしい。


 ただ、背後はいごの川ははばが五十メートル以上(いじょう)かべとの間に陸地りくちもない。やむなく前方ぜんぽうへ飛んで敵の一団をえた。


 下り立ったさきは敵のまっただなか後方こうほうで休んだままだった敵も、続々(ぞくぞく)と立ち上がり始め、ぜん方位ほういから敵が殺到さっとうしてきた。


     ◇


 正面しょうめんの敵へ黒煙を放ってから、すかさず『突風とっぷう』で飛んだ。一度いちどの攻撃で撃破げきはできるのはせいぜい二体。たちまち包囲ほういされるので、ただちにその場を離れなければならない。


 飛行している最中さなかに激痛がおそい、空中くうちゅうでバランスをくずす。ドロまみれになりながらも何とか着地し、接近せっきんしてきた敵に応戦おうせんする。そのサイクルを何度かくり返した。


 けれど、あっけなく破綻はたんをむかえた。これまでは地面じめん回転かいてんするいきおいで体を起こしたけど、それに失敗しっぱいした。もう足が言うことを聞かなかった。


 片腕かたうでの力で上体じょうたいをささえ、もう片方かたほうの手で足をはらへ引き寄せる。やっとの思いでヒザを立てた時には、敵のコブシが目の前にあった。


 絶望ぜつぼうを感じるヒマさえなかった――けど、唐突とうとつ出現しゅつげんした黒煙のたてが、ふたたび僕の身を守った。どうして守ってくれるんだ。この力はいったい何なんだ。


 べつ方向ほうこうからも敵のコブシが飛んでくる。それを感知かんちするかのように、ただよう黒煙が寄り集まっていき、瞬時しゅんじに盾を形成けいせいした。


 黒煙の盾は認識にんしきしてない背後からの攻撃にも対応たいおうした。あきらかに、自分じぶん意思いし関係かんけい発動はつどうされている。


 けれど、そんな自動じどう防御ぼうぎょも体をむしばんだ。黒煙を発動した時の痛みが、盾が形成されると同時どうじに走る。


 く黒煙が加速かそく的に増大ぞうだいしていく。そして、周囲しゅういをめまぐるしく回転し始め、視界しかい完全かんぜんにおおってしまった。


 黒煙のカラにつつまれた。耳にとどくのは黒煙がかなでる風切かざきおんと、敵のコブシがくうる音。いっときのやすらぎが得られた。


 けれど、痛みは消えなかった。気分きぶんしずんでいくばかり。すっかりいやになっていた。


 ――何もかもき飛んでしまえとねがった。


     ◆


 遠巻とおまきに見守みまもっていた魔導まどうたちは、ゴーレムに取りかこまれた様子ようすを見て、ウォルターの生存せいぞん絶望ぜつぼうした。


「ああ……」


 たすける手段しゅだんは思いつかず、言葉にならない言葉を口にしながら、無力むりょく感につつまれていた。


 そんな時だった。強烈きょうれつ衝撃しょうげき大気たいきをふるわせた。付近(ふきん)にいた魔導士たちはとっさに身がまえ、船の上にいた者たちは、衝撃にあおられ、川に投げだされそうになった。


 発生はっせいげんに目をやると、そこには巨大きょだいな黒煙の竜巻たつまきあらわれていた。


「ケケケケケケッ」


 まもなく、生物せいぶつの鳴き声のような、不気味ぶきみな音があたりにひびき始める。


「何だ、あれは……」


 巨大な怪物かいぶつが出現したと、錯覚さっかくする者が多数たすういた。竜巻はゴーレムをき込みながら膨張ぼうちょうを続け、それらをすべて飲み込んでしまった。


     ◇


 すさまじい衝撃音がしたかと思うと、今度は暴風ぼうふうれるような音がし始めた。黒煙のあらし横目よこめに、意識いしきをたもつことだけに専念せんねんした。痛みは手足てあしを引きちぎられるかのようなものに変わっていた。


 ふいにピッポンと聞きおぼえのあるチャイムがり、目線めせんを上げる。


『注意

 規定きてい用量ようりょうをオーバーしています。

 累積るいせき時間:10分34秒

 この警告けいこくを二度と表示ひょうじしない。

 はい/いいえ』


 さっきのメッセージが、再び表示された。最初さいしょ文言もんごんは同じだったものの、累積時間が増大している。また、あらたな表示もくわえられていた。


一時いちじてきな身体のけ渡しを求めています……』


 この表示が一番いちばん不可解ふかかいだ。正体しょうたいを見きわめようと、必死ひっしに目を走らせる。


『エラー

 権限けんげんがありません』


 ブオンという不安ふあんさそうブザー音が鳴る。先の二つはともかく、これが自身(じしん)に向けたメッセージと思えず、なぞを深めていた。


許可きょかを求めています

 はい/いいえ』


 れいによって、カウントダウンが始まる。同意どういすることも考えたけど、どのような結果けっかをもたらすかわからず、決心けっしんがつかない。


拒否きょひされました』


 いったい、誰が同意を求められ、誰が拒否したのか、さっぱりわからない。


 結局けっきょく、ますます混乱こんらんしただけに終わり、途方とほうれて目を落とす。またもや、ピッポンとチャイムが鳴った。


『注意

 規定用量をオーバーしています。

 累積時間:16分15秒

 この警告を二度と表示しない。

 はい/いいえ』


 累積時間のさらなる増加ぞうかに気づいたけど、この後、同じ表示がくり返されたので、興味きょうみうしなった。


 漆黒しっこくけむりにおおいかぶさられ、感情かんじょうがおしつぶされていくかのようだった。ピッポン、ブオンという音が、断続だんぞく的に耳に届いたけど、いつしか雑音ざつおんとなっていた。


 この黒煙は自分があやつっているのだろうか。もしかしたら、自分はこの黒煙に支配しはいされているのかもしれない。そんな考えさえむねばえ始めていた。

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