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真夜中のトリックスター  作者: mysh
転覆の日
178/181

宿命の敵

     ◆


 ネクロとの問題もんだいかたづけた後、トランスポーターはレイヴン城や市街しがいをめぐった。特別とくべつ期待きたいはせずに、気楽きらく巫女みこをさがした。


 ゾンビ出現しゅつげんによる混乱こんらんには関心かんしんだったが、依然いぜんとして活動かつどうつづけるゴーレムを見て、ネクロの生存せいぞんうたがうようになった。


 とはいえ、ネクロの死亡しぼうによって、ゴーレムが活動をやめる確証かくしょうはない。体力たいりょくがつきるまで活動を続ける可能かのう性もある。


 しかも、適当てきとう場所ばしょへネクロを『転送てんそう』したため、落下らっか場所は予想よそうもつかない。生死せいし確認かくにんするためだけに、わざわざ相手をさがすのは億劫おっくうだった。


 そんな時、ただの岩石がんせきしたゴーレムを発見はっけんした。実際じっさいはウォルターの手によるものだが、彼はそれをネクロが死んだためだとはやとちりした。


 ウォルターとの遭遇そうぐうをさけながら、市街を見回みまわっていると、中央ちゅうおう広場ひろばにいる魔導まどう一団いちだんと、その中心ちゅうしんにいる異彩いさいはなつドレスの女性じょせい――ダイアンを発見した。


 巫女だと直感ちょっかんし、慎重しんちょう様子ようすをうかがう。


 七つの能力のうりょく保持ほじしていても、彼に複数ふくすうの魔導士を相手どる度胸どきょう鉄砲てっぽうさはない。近寄ることすらできず、いたずらに時間を浪費ろうひした。


 そうこうしていると、マントをまとった幹部かんぶたちが集団しゅうだん合流ごうりゅうし始め、周辺しゅうへんを行きかう人数にんずうえた。中央広場が司令しれい部の様相ようそうをていしてきた。


 しまいには、辺境伯マーグレイヴまで姿を現し、ダイアンと会話かいわをかわし始めた。攻撃こうげきをしかける気はせたが、彼女が巫女かどうかだけでも確かめようと考えた。


 〈不可視インビジブル〉で接近せっきんするという、シンプルで安全あんぜん方法ほうほうを思いつく。それを見やぶれることはイコール巫女であることに他ならない。


 しかし、〈不可視インビジブル〉には欠点けってんがある。静止せいししていれば問題ないが、周囲しゅうい三メートル以内いない人間にんげんには認識にんしきされてしまう。そのため、人ごみの中にいる人物じんぶつちかづくのは、思いのほかむずかしい。


 どこか目立めだつ場所から、相手の注意ちゅういをひければ――。


 声をかけるのがっとりばやい。だが、声自体(じたい)は誰の耳にもとどいてしまう。また、大声おおごえを張り上げるのは気がすすまなかった。


 仕方しかたなく、相手の目が届く場所で、ジッと待つことに決めた。トランスポーターはそういう気長きながなことが苦にならないタイプだ。


     ◆


「巫女。ケイト・バンクスは見つかりませんでした」


 辺境伯がダイアンに報告ほうこくした。そばにいたクレアは、突然とつぜん再会さいかいで頭の中がまっ白になった。一方いっぽうの辺境伯は平然へいぜんとした様子で声をかけた。


「ひさしぶりだな、クレア」


「うん……」


いわ巨人きょじんをあやつっている男は?」


「その男も見つかりません。仲間なかまに聞けばわかるかもしれませんが、そいつも見つからなくて……」


 トランスポーターは〈不可視インビジブル〉を展開てんかい中のため、彼には発見できない。また、現在げんざいはおたがいに〈千里眼〉(リモートビューイング)解除かいじょしていた。


「あの、ケイトの場所ばしょならわかります。さっきまで一緒いっしょにいましたから」


「ここにれて来てくれる?」


「わかりました」


 ダイアンがからみついてくるような視線しせんに気づく。目をうつすと、見なれない服装ふくそうの男が、ただならぬ様子でたたずんでいた。


「待って!」


 クレアのかうさきにいたため、ダイアンがとっさに引き止める。


 確証が得られたことで、トランスポーターの表情ひょうじょうに光がさし込む。ついにめぐり会えた宿命しゅくめいの敵。めた性格せいかく自認じにんする彼も、全身ぜんしんねつをおびるほどの興奮こうふんをおぼえた。


「……誰かいますか?」


「そこの男、見えてない?」


 辺境伯が目をこらす。相手が使用するのは自身(じしん)の能力だが、視認しにんすることはかなわない。だが、そこに誰がいるのか、すぐに目星めぼしをつけた。


「トランスポーター、姿を見せろ」


 トランスポーターはあっさり〈不可視インビジブル〉をいた。突然の心変わりを見せた辺境伯に、いただしたいことがあった。


「やはり、お前か……」


「インビジブル。その女が『転覆てんぷく巫女みこ』か? 見つけたなら、おしえてくれても良かったのに。僕らは仲間じゃないか」


 わざとダイアンの不信ふしんを買うような内容ないようりまぜ、トランスポーターは相手の顔色かおいろをうかがった。


 辺境伯が言葉ことばにつまる。洗脳せんのう状態じょうたいにあったとはいえ、相手は数年間行動(こうどう)ともにしてきた仲間。すくなからず友情ゆうじょうねんがあった。


 しかし、彼らが巫女の命をねらっていることを、いやというほど知っている。巫女の記憶きおくのこらずうしない、行方ゆくえがわからなかった状況じょうきょうでは、抵抗ていこうを感じなかった。


 しかし、巫女の部下ぶかとしての自覚じかくを取り戻した今となっては、とうてい受け入れられるものではない。


「トランスポーター。お前とは戦いたくない。ここは退け」


「僕らの目的もくてきを、君は知っていたはずだ。理解りかいした上で『盟約めいやく』をむすんだ。それなのに裏切うらぎるのか?」


「それはお前の勘違かんちがいだ。『盟約』にくわわる時の条件じょうけんは、『転覆てんぷく魔法まほう』を解くことへの協力きょうりょくのみ。それ以上(いじょう)約束やくそくはしていない」


「それは初耳はつみみだけど、まあ、『盟約』に参加さんかしたのは君より後だからね。部分的な協力関係(かんけい)を結ぶあたり、ローメーカーらしいと言えばらしいか。それだけ、君の能力が魅力みりょく的だったということか」


「巫女に手出てだしはさせない。それでも戦うというなら、命がけのものになると思え」


「君がここまでわりはやいとは思わなかった。信頼しんらいける相手だと思っていたから、なおのことがっかりだ」


 辺境伯がダイアンの前に進み出た。その攻撃的な態度たいどによって、トランスポーターの闘争とうそう心に火がついた。


「君はわすれていないか。〈不可視インビジブル〉はもちろん、君が持つすべての能力が、僕に通用つうようしないことを。しかも、その逆は成立せいりつしない」


「お前こそ忘れるな。俺にはお前らと共有きょうゆうしていない力があることを」


 辺境伯が手元てもとで『電撃でんげき』をほとばしらせる。彼の目は本気ほんきだった。手ごわい敵が増えたと、トランスポーターは閉口へいこうした。


「ここはいったん退くよ。言いわけじみてるけど、始めから戦う気はなかった。でも、こちらがいつでも命をねらっていることを、忘れないほうがいい。うしろの女にも、君のほうからつたえておいてくれるか」

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