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真夜中のトリックスター  作者: mysh
転覆の日
171/181

スカイダイビング(前)

     ◆


 トランスポーターは辺境伯マーグレイヴ視界しかいつうじて、鎮座ちんざ様子ようすをうかがいつづけた。しかし、どういうわけか、相手の視点してんがフラフラとさだまらない。


 ウォルターとパトリックの二人が、口論こうろんを始めたのはわかったが、足もとへ目を落とす時間がながく、まった状況じょうきょうがつかめない。見続けることに苦痛くつうを感じて中断ちゅうだんした。


 『転覆てんぷく魔法まほう』が解除かいじょされたとはいえ、すぐに巫女みこ発見はっけんできると考えるほど、彼は楽観らっかん的でなかった。


さきにあっちをかたづけるか)


 彼はターゲットを切りかえた。作戦さくせん開始かいし前から、ひそかに画策かくさくしていた計画けいかく一応いちおう目的もくてきたし、相手との敵対てきたいをためらう理由がなくなった。


 ターゲットは自身(じしん)市街しがいまで送り届けた。そのため、だいたいの場所ばしょはわかっている。〈転送〉(トランスポート)屋根やねをつたって、その場所ばしょかった。


 『転覆てんぷく』によってゾンビが始まり、通りに人が出てきていた。その途中とちゅう悲鳴ひめい断末だんまつのようなさけび声が、ひんぱんに耳にとどき、何度も足を止めた。市街では本格ほんかく的な殺戮さつりくが始まっていた。


 肩をいからせながら通りをすすむゴーレムを、苦々(にがにが)しく見下みおろす。心情しんじょう的にあれを仲間なかまと思いたくなく、心のそこから嫌悪けんおしていた。


 ターゲットを送り届けた場所――みなみ地区ちくの小さな一軒いっけん到着とうちゃくしたが、屋内おくないにも屋外おくがいにも、その姿はなくなっていた。


 とはいえ、相手は〈転送〉(トランスポート)を使えない。そうとおくない場所にいると考え、周辺しゅうへん重点じゅうてん的に捜索そうさくした。


 すると、不審ふしん一体いったいのゴーレムを発見した。それは路上ろじょうすわり込んで微動びどうだにしない。真上まうえへ目をうつすと、ターゲット――ネクロを発見した。


 そこは周辺の建物たてものより、ひときわ大きく、三階()てで屋上おくじょうもある。屋上のへりに腰かけたネクロは、外へ投げ出した両足をブラブラとゆらしていた。


 護衛ごえいのゴーレムが待機たいきしているからか、身をかくしていない。鼻歌はなうたでも歌っていそうな様子で、街をながめていた。


 トランスポーターはちかくまで移動し、背後はいごからしずかにあゆみ寄った。ネクロは接近せっきんする足音あしおとに気づいたが、後方こうほうをチラッと見ただけで、すぐに視線しせんを前に戻した。


「ご苦労くろう様です。見事みごとにやりおおせたようですね」


「やったのはインビジブルだ。僕はトリックスターとあそんでいただけさ」


「そうですか。私にしてみれば、どちらでもかまわないんですけどね」


「それで、そっちの状況はどうなんだ?」


順調じゅんちょうです。始めは苦戦くせんしましたが、ひとたびくずれるとモロいものですね。今はコソコソとまわ魔導まどうどもを、ハンティングしているまっ最中さいちゅうです。この手で魔導士どもをひねりつぶすのは、えも言えぬ体験たいけんですよ。ぜひ、あなたにも味あわせてあげたいです」


 相手が背中せなかを向けているのいいことに、トランスポーターは敵意てきいをむきだしにした。


「それにしても、こうもあっさり『転覆の魔法』を解くとは。インビジブルはよほど有能ゆうのうなお方らしい。この国の魔導士だったとは思えませんよ。それで、肝心かんじんの『あの女』は見つかりましたか?」


「それはわからないな。十数年間、いくらさがしても見つからなかった相手だ。箱をひっくり返したからといって、簡単かんたんに見つかるとは思えない。これから気長きながにさがせばいいだろ」


「それもそうですね。ただ、『あの女』の捜索には手をせませんよ。さすがのゴーレムも、見ず知らずの人物じんぶつをさがしだすことはできないのです」


 最初さいしょから期待きたいしていなかったため、トランスポーターはどうでもいいといった様子でそっぽを向いた。


「これからどうするつもりだ?」


「ここで引き上げるのもバカらしいですから、しばらく遊んでいきます」


「そうすると、このまま無益むえきな殺戮を続けるつもりか?」


「無益かどうかは見解けんかい相違そういがあります。魔導士どもは『あの女』のいぬですから。だったら、こうしましょう。普通ふつう人間にんげんはともかく、魔導士どもは皆殺みなごろしにする。それでどうですか?」


 ネクロはゲスなみをうかべ、相手を一瞥いちべつした。トランスポーターはたくらみを気取けどられないよう、とっさに顔をそむけた。


     ◆


「そうだ。君に見せたいものがあるから、ちょっと一緒いっしょに来てくれないか」


 トランスポーターはそう言って近づき、ネクロの腕に手をかけた。自身の〈転送〉(トランスポート)き込むためには、同意どういを得るか、五秒以上(いじょう)接触せっしょくしなければならない。


「かまいませんよ」


 ネクロは怪訝けげんそうにしながらも、素直すなおおうじた。


 二人がレイヴン城の方向ほうこうへ移動をくり返す。ネクロがれてかれたさき城壁じょうへきすみ位置いちする城壁じょうへきとうのてっぺん。そこは足場あしばが一人分しかない。


 地上ちじょうからのたかさはおよそ三十メートル。トランスポーターはかけていた手の逆の手でむなぐらをつかみ、ネクロをほそい一本の腕でちゅうづりの状態じょうたいにした。


 ネクロが苦笑くしょうしながら、眼下がんかを見下ろす。ほぼ垂直すいちょくに切り立った城壁に足がかりはなく、真下ましたには水堀みずぼりが見えた。


 トランスポーターは〈一極集中コンセントレート〉をもちいているため、腕への負担ふたんはほとんどなく、すずしい顔をしている。


「どういうつもりですか? こんなことをされてよろこ趣味しゅみはないんですが」


 以前(いぜん)から、敵意を感じていたためか、ネクロの動揺どうようすくない。ジタバタとムダな抵抗ていこうをせずに、相手の腕に身をゆだねた。


「もう私は用済ようずみってことですか?」


 意味いみしんな笑みを見せたが、トランスポーターは何も答えない。それが頭にきたのか、ネクロは口調くちょう声色こわいろ一変いっぺんさせた。


「誰の意思いしだい? 心よりの軽蔑けいべつを送りたいのだが、誰に送ればいいのかな? 君でいいのかな? それとも、ローメーカーに送ったほうがいいのかな?」


「どうだろうな」


「いや、これは君の独断どくだんだ。あの賢明けんめいな男が、げん段階だんかい我々(われわれ)を切りてるとは考えづらい。我々の力をノドから手が出るほどほっしがったのは、あの男じゃないか」


 トランスポーターは鼻で笑うにとどめ、あんみとめた。


「始めからえない男だと思っていたが、ここまで大胆だいたん行動こうどうに打って出るとは予想よそうしていなかったよ。しかし、ローメーカーは落胆らくたんするだろうな。君のことを一生いっしょうゆるさないかもしれない」


「それならそれでかまわないさ。元々(もともと)、彼とはりが合わなかった。それに、先に約束やくそくやぶったのは彼のほうさ」

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