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真夜中のトリックスター  作者: mysh
転覆の日
168/181

真っ向勝負

     ◇


 城壁じょうへきえて、中央ちゅうおう広場ひろばにほどちか建物たてものに下り立った。屋上おくじょうから市街しがい見渡みわたすと、様相ようそう一変いっぺんしていた。


 さっきまではまったくなかった人影ひとかげが、かく通りに多数たすうある。数多あまたいわ巨人きょじん闊歩かっぽする中、決死けっしの思いで通りを横断おうだんする様子ようすが見られた。


 また、人間にんげんかゾンビかの見分みわけはつかないものの、敵の手にかかったと思われる死体したいが、そこかしこに確認かくにんできた。


「今よ! いそいで!」


 眼下がんかから女性じょせい大声おおごえが上がった。見下みおろすと、路地ろじにいた女性魔導(まどう)が、敵の目をぬすんで、住人じゅうにんたちの誘導ゆうどうをしていた。そばに下りて事情じじょうを聞いた。


「建物の中はゾンビだらけみたいです。岩の巨人がいるから、できるかぎり外へ出ないように言っているんですけど、どうしても出てきてしまうので、こちら側の建物へ避難ひなんさせているところです」


 レイヴン城の収容しゅうよう力の問題もんだいから、付近(ふきん)住民じゅうみん大半たいはんが市街にのこっている。また、防衛ぼうえい上の観点かんてんから高層こうそうの建物へ集中しゅうちゅう的に避難させたため、それが裏目うらめに出た。


「ゾンビをさきにどうにかすべきなんですが、ひがし地区ちくや西地区も同様どうよう状況じょうきょうで手がりません。岩の巨人のせいで、思うように身動みうごきがとれませんし」


「今はどういう方針ほうしんなんですか?」


「岩の巨人は後回あとまわしで、ゾンビへの対処たいしょさい優先ゆうせんにするという話になってます。どっちにしろ、岩の巨人は私たちの手にえないんですけど」


「わかりました。だったら、岩の巨人は僕がどうにかします。そのすきに住民の避難をおねがいします」


「……岩の巨人をですか?」


 目のとど範囲はんいだけでも三体の岩の巨人がいる。そのうちの二体はだいぶ距離きょりがある。敵の視界しかいに入らないよう注意ちゅういしながら、一番いちばん近くの一体いったい接近せっきんこころみる。


 この手で岩の巨人を残らず始末しまつする。つよ決意けついがあっても、特別とくべつさくがあるわけではない。


 ジェネラルがそうしていたように、水路すいろ落下らっかさせるのが一番の近道ちかみちだろう。けれど、みなみ地区ちくの水路までは相当そうとうの距離がある。


 近くにレイヴン城を取りかこ水堀みずぼりがあるけど、岩の巨人をしずめるだけの水深すいしんがない。さらに、市街側の斜面しゃめんがゆるやかなため、水から上がればなんなくのぼれる。


 魔法まほう単独たんどくでどうにかならないか考えた。手始てはじめに、〈悪戯〉(トリックスター)強化きょうかした魔法をたたき込み、どれほどダメージを受けるか確かめることにした。


 距離をとった状態じょうたいで、けた敵へ『かまいたち』をはなつ。そして、相手が振り返るのを待たずに、つぎ攻撃こうげき準備じゅんびへ取りかかった。


「おい、よせ!」


 近くの路地から制止せいしの声がぶ。確かに、自分じぶん行動こうどう――ただの魔法で、正面しょうめんから岩の巨人にいどむのは無謀むぼうきわまりない。その上、使おうとしているのは、もっと相性あいしょうの悪い風の魔法だ。


 岩の巨人がこちらに向かって突進とっしんを始めた。援護えんごするためか、付近にいた魔導士数人が脇道わきみちから姿をのぞかせた。


 オーソドックスな『かまいたち』は全長ぜんちょう一メートル足らず。ふとさは人間の腕よりほそく、そのぐらいなら自分は一秒とかからずに形成けいせいできる。


 たとえ身がまえていても、人間ならその場でこらえるのが困難こんなんなほど威力いりょくがある。ふんばれないゾンビなら、五メートルはき飛ばすことができる。


 けれど、その程度(ていど)では巨体きょたいをようする相手にとっては、にさされたようなもの。体勢たいせいをくずすかも疑問ぎもんだ。


 普通ふつうの『かまいたち』ではダメだ。十秒近い時間をかけ、〈悪戯〉(トリックスター)によって増幅ぞうふくされたエーテルを、ありったけかき集めた。


 その結果けっか、全長と太さは自身(じしん)の体を数段すうだん上回うわまわった。薄緑うすみどり色にかがや巨大きょだい『かまいたち』を、せまり来る相手()がけて撃ち放つ。


 本来ほんらいなら、『かまいたち』を物ともしない岩の巨人が空中くうちゅうった。どよめきが聞こえたかと思うと、周辺しゅうへんの建物から歓声かんせいがわき起こった。


 ただ、自分としては落胆らくたんする内容ないようだった。敵の巨体を吹き飛ばした上に、見事みごと転倒てんとうさせた。


 しかし、距離はたかだか五メートル程度。ダメージも見受みうけられず、渾身こんしんの力をこめて、時間かせぎにしかならないようなら、先行さきゆきはくらい。


 もっと吹き飛ばせる距離をかせげれば、石のかべ衝突しょうとつさせるなり、水路といった場所ばしょへ突き落とすなり、選択せんたくはばまれる。


 他に策はないか。魔法と〈悪戯〉(トリックスター)わせた有効ゆうこうな攻撃手段(しゅだん)は――。棒立ぼうだちのまま、考えをめぐらせた。


はやく逃げろ!」


 顔を上げると、目前もくぜんにせまった岩の巨人が右腕みぎうでを振りかぶっていた。とっさに上空じょうくうへ舞い上がり、間一髪かんいっぱつなんをのがれた。


 相手の背後はいご着地ちゃくちしたものの、あっさり発見はっけんされた。態勢(たいせい)ととのわないうちに、追撃ついげきがくりだされる。


 万事ばんじきゅうす――見守みまもっていた人々(ひとびと)はそう思ったかもしれない。けれど、空中を舞っている最中さなか、あるアイデアがひらめいた。


 『かまいたち』と重力じゅうりょく無効むこう化を組み合わせられないか。


 空中くうちゅう飛行ひこうは、地面じめんに向けた『突風とっぷう』と重力無効化を組み合わせる。前述ぜんじゅつの通り、この手法しゅほうは敵にたいしてもちいれない。自身への反動はんどうが大きい上に、相手がすぐに有効ゆうこう範囲はんいからはずれてしまうからだ。


 『かまいたち』ならどうなるか。ぶっつけ本番ほんばん実行じっこううつした。かがんだ状態で重力を無効化し、立ちはだかる敵を見上みあげながら、『かまいたち』をはなった。


 予想よそう以上(いじょう)の結果だった。岩の巨人が空中を回転かいてんしながら吹き飛ばされる。さきほどよりも、速くかつとおくまで飛ばせた。自分も派手はでしりもちをついたけど、反動は思ったより小さかった。


 次のアイデアは、石の壁に思いきり衝突させ、その衝撃しょうげき破壊はかいすること。交差こうさてんかどにある頑丈がんじょうそうな建物に目をつけた。後方こうほうへ飛びすさって、近くまで相手を誘導した。


 そして、限界げんかいまで引きつけてから、『かまいたち』で建物にたたきつけた。目論見もくろみ通りにいったものの、岩の体がけるといったダメージは見られなかった。


(この程度の衝撃じゃダメか……)


 起き上がろうとした相手に『豪炎ごうえん』を放射ほうしゃした。すさまじい火力かりょくでも、ほのおにうかび上がった敵のシルエットは、かまわず動きつづけた。


 効果こうかがないと見て『電撃でんげき』に切りかえた。〈悪戯〉(トリックスター)たすけをりたため、威力だけは絶大ぜつだい。しかし、所詮しょせん散漫さんまんこう範囲はんいに飛びり、ねらいもさだまらない。


 未熟みじゅくな『電撃』では、動きをにぶらせるのが限度げんどだった。普段ふだんはもっぱら風と火の魔法を使う。これはこのみでなく、二つの属性ぞくせいが、始めからおどろくほどたかいレベルで使いこなせたからだ。


 対して、他の三つの属性は、ヒマを見つけてコツコツと練習れんしゅうかさねたものの、目に見えて上達じょうたつすることはなかった。


 やぶれかぶれとなり、今度こんどは『氷柱つらら』を形成した。巨大ではあったけど、寸胴ずんどうでいびつなかたちをしている。『氷柱』というより、氷のかたまりという表現ひょうげんただしい。


 連続れんぞくして形成したそれを、続けざまに敵へたたきつける。自分ですらゾッとするような衝撃音が、何度もひびいた。それでも岩の巨人は沈黙ちんもくしなかった。


 まだ敵を一体もしとめられていない。あまりにふがいない。なさけなくてしょうがなかった。


(もっと力が――もっと力がほしい)


 せつに願った。すると、その思いに呼応こおうするかのように、不吉ふきつ黒煙こくえん体内たいないからもれだしていた。

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