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真夜中のトリックスター  作者: mysh
転覆の日
162/181

転覆の時(前)

     ◆


 ウォルターとトランスポーターが出会であったのは、レイヴン城の正門せいもんにほどちか場所ばしょ戦闘せんとうが始まったのもそこだった。


 しかし、まばたきさえゆるさない、壮絶そうぜつな追いかけっこが展開てんかいされた結果けっか、二人はひがし地区ちくのはずれまでやって来ていた。街なみは様変さまがわりし、周囲しゅういには民家みんかえた。


 ウォルターは意識いしき的に『かまいたち』を攻撃こうげきもちいた。どうしても空中くうちゅう飛行ひこうに風の魔法まほう必要ひつようなため、それがもっともスムーズに攻撃へうつれるからだ。


 通常つうじょう属性ぞくせいの切りかえには一秒もかからないが、多少たしょう神経しんけいを使う。風の魔法が一番いちばん使いなれていたことにくわえ、そのつぎ得意とくいとする火の魔法は、人家じんか引火いんかする危険きけんがある。


 しかし、もはやの言っている状況じょうきょうではない。『かまいたち』はけ、敵にあたえるダメージも脅威きょういも小さい。威嚇いかくによって、敵をひるませるため、火の魔法に切りかえた。


 にえたぎるマグマのような『火球かきゅう』がびかい始めると、トランスポーターの表情ひょうじょうから余裕よゆうが消えた。今は苦悶くもんに近い表情さえ垣間かいま見せる。


 ウォルターは足を止めることなく、がむしゃらに敵を追いかけた。相手の鬼気ききせまる表情に、トランスポーターはのよだつ思いを感じた。


本格ほんかく的に嫌われちゃったかな)


 協力きょうりょく関係かんけいむすびたかった相手だけに、後悔こうかいねんがあった。たとえつかまっても命ごいをすればいいと、たかをくくっていたが、このままではころされかねないとあやぶんだ。


 ウォルターの様子ようす常軌じょうきいっしている。それがさきほどの挑発ちょうはつを受けてのいかりなのか、巫女みこの敵に対するものなのかは、はっきりしない。


 トランスポーターの脳裏のうり退却たいきゃく二文字ふたもじがチラついた。そんな時、彼にすくいの女神めがみあらわれた。ウォルターにとってはの悪い横槍よこやりとなった。


『ウォルター? スージーです』


『……何?』


学長がくちょうがですね、今にも殺されそうだから、〈とま〉の最上さいじょうかいまで来てほしいって』


 手の放せない状況でも、ながせる内容ないようではない。ただ、物騒ぶっそうな内容のわりに、スージーの声に切迫せっぱく感がなかった。


『どんな状況なの? 今は一緒いっしょにいるの?』


『今、一緒に階段かいだんをのぼっています』


『わかった。今から、そっちに行くとつたえて』


 ウォルターが相手ににらみをきかせた。トランスポーターはひといきつけたことで、安堵あんどの表情をうかべた。


「何か、あったみたいだね」


 ウォルターはいかけに答えず、未練みれんたっぷりの視線しせんとうじた後、やむなくレイヴン城へ足をけた。


     ◇


 〈止り木〉の頂上ちょうじょう――鎮座ちんざへ向かう途中とちゅう、スージーと『交信こうしん』をかさねた。


くわしく状況をおしえて』


『よくわかりません』


『学長と一緒にいるんじゃないの?」


『一緒にいますけど、どんどんさきに行っちゃって、話しかけられる雰囲気ふんいきじゃないんです』


『敵はいないの?』


『私には見えません』


 スージーからは歯切はぎれの悪いコメントしか返ってこない。ただ、敵の能力のうりょくしゃが一緒にいると見当けんとうをつけた。


 〈止り木〉の頂上付近(ふきん)まどが見えるので、空中飛行で直接ちょくせつ向かうことも考えた。けれど、遠目とおめからでは人間にんげんが通れるかどうか確信かくしんが持てない。


 地上ちじょうから向かうことにし、うんざりするほどながい階段をのぼって、鎮座の間の前に到着とうちゃくした。スージーはとびら正面しょうめん位置いちする窓から、一人で外をながめていた。


「ウォルター、こっちです」


 部屋へやの中へ案内あんないされると、聞いていた話とのちがいにとまどった。ある意味いみ、スージーのつかみどころのない反応はんのう納得なっとくがいった。


 こちらに背中せなかを向けたパトリックは、美術びじゅつ品でも鑑賞かんしょうしているかのようだった。そのさき巨大きょだい宝珠ほうじゅ神秘しんぴ的なかがやきをはなっていたけど、それに関心かんしんが向かないほど、奇妙きみょうな雰囲気を感じた。


 こちらの到着に気づいたパトリックがあゆみ寄ってきた。気がぬけるほど、足どりはいている。


 中へ足をふみ入れた直後ちょくごべつ人物じんぶつ存在そんざいに気づく。扉のそばで、かべをあずけていた男と視線が交差こうさした。


 服装ふくそうから敵の能力者と判断はんだんし、とっさに身がまえた。けれど、リラックスした相手の様子がまよいをしょうじさせた。


「お前がうわさのトリックスターか?」


 露骨ろこつに顔をしかめた。自分じぶん能力のうりょくめいぶのは敵にかぎられる。それにイラ立ちはつのる一方いっぽうだった。


「……誰ですか?」


くだん辺境伯マーグレイヴです」


 この人が……。〈不可視インビジブル〉のことがあるから、敵方てきがたにいることは予想よそうされていたけど、まさか敵としてここに現れるとは。防具ぼうぐをつけていて物々(ものもの)しいけど、トランスポーターと服装が似ている。


 辺境伯は身がまえもせず、何かを待つようにこちらを見ている。敵として、ここに来たんじゃないのか。一向いっこうに状況が飲み込めず、ますます頭が混乱こんらんした。


「これが何度かお話した『源泉の宝珠(ソース)』です。これによって、巫女はこの国全土(ぜんど)に『転覆てんぷく魔法まほう』を展開しています」


「はあ……」


 宝珠を見上みあげながら、気のない返事へんじをした。何だろう、こののんびりとした空気くうきは。今はそれどころじゃないのに。


「見たことありませんか?」


「……ありませんよ」


 意味いみしんな問いかけに、さぐるような目つき。何が言いたいんだ。辺境伯をくと、彼も似たような目つきをしていた。


「それより、状況を説明せつめいしてください」


「ウォルターに、その『転覆の魔法』をいてもらいたいと思い、ここへ呼び寄せました」


「えっ? ……何のためにですか?」


天地てんちを――この国をあるべき姿に戻すためです」


〈悪戯〉(トリックスター)でやるってことですか?」


「まあ、そうなるでしょうか」


 パトリックはふくみのある言葉ことばけむいた。何かをかくしている。うらがあるのはまちがいない。この非常ひじょう事態じたいに何をたくらんでいるんだ。


「もっと、ちゃんと説明してください」


「あそこの辺境伯と取引とりひきをすることになりました。『転覆の魔法』を解けば、いわ巨人きょじんを引き上げさせると約束やくそくしてくださいました」


 辺境伯を一瞥いちべつした。相手に変わった様子はない。けれど、途端とたん入口いりぐちでこちらを見張みはっているように感じられた。


「それは学長の意思いしですか? それとも、おどされて言わされているんですか?」


「どちらとも言えます」


「……そんなことできません。たとえ自分にできたとしても引き受けられません」


「理由を聞かせていただけますか?」


「それによって起こりうる結果に責任せきにんが持てません。第一だいいち、今そんなことをしてる場合ばあいじゃないでしょ。みんな戦っているんですよ!」


「『転覆の魔法』を解ければ、戦闘は終結しゅうけつします」


「攻め込んできた連中れんちゅうの言うことを信用しんようするんですか。戦場せんじょうもどります。あの人をどうにかしてほしいのなら、この場で僕がどうにかしますよ。岩の巨人だって、全部ぜんぶ自分が相手します」


 敵意てきいをむきだしにして、辺境伯をにらみつけた。


「おもしろい」


 辺境伯が壁から背をはなし、ひとみ闘志とうし宿やどらせた。


「彼をあなどらないでください。ジェネラルがなすすべもなくやぶれたそうです」


 だから、何だって言うんだ。強敵きょうてきだから、いさぎよく手を上げろっていうのか。

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