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真夜中のトリックスター  作者: mysh
転覆の日
158/181

巫女への執着(後)

     ◆


 トランスポーターは本来ほんらい役割やくわりたすことに決めた。ひそかに周辺しゅうへん視線しせんを送り、〈転送〉(トランスポート)のためのマーキングを始める。


 内心ないしんでは後悔こうかいしていた。むかしから、できるかぎり戦闘せんとうをさけ、それに追いつめられた時点じてんで負けとさえ思っていた。


「話がつうじる男と勘違かんちがいしてもらってはこまる。目的もくてきのためなら、手段しゅだんを選ぶつもりはない。本望ほんもうではないけど、あの岩のかたまりと手をむすんででも、この手で障害しょうがいを取りのぞかせてもらう。

 ただ、君をどうこうしようという気はさらさらないよ。ジャマをするというなら、たとえかつての仲間なかまだとしても容赦ようしゃしないけどね」


 鉄製てつせいの火かきぼう――腕とどう程度ていどながさのそれが、路地ろじのほうからフワフワと上昇じょうしょうしてきて、トランスポーターのそばをただよい始めた。


「この能力のうりょくは〈念動力サイコキネシス〉。この火かき棒はさっきそこでひろった」


 トランスポーターがもっと警戒けいかいしているのは〈悪戯〉(トリックスター)による能力無効(むこう)化であり、〈転送〉(トランスポート)ふうじられることだ。


 さいわいにも、彼がいる建物たてもの屋根やね傾斜けいしゃがあり、たいらな面が片足かたあしける程度(ていど)しかない。一つしかない煙突えんとつも彼が占拠せんきょしているため、接近せっきん危険きけんすくない。


(まずは、これで能力の有効ゆうこう範囲はんい確認かくにんするか)


 右手のさきにただよう火かき棒を、投げつけるように操作そうさした。それが回転かいてんしながら、ウォルターがけてんで行く。どの程度の距離きょりで操作不能(ふのう)になるかで、有効範囲を見きわめるつもりだ。


 しかし、ウォルターは予想よそう外の行動こうどうに出た。空高そらたかったかと思うと、さっそうと反対はんたい側の建物へ飛びうつり、すかさず『かまいたち』で攻撃こうげきしてきた。


 意表いひょうをつかれ、トランスポーターは〈転送〉(トランスポート)を使うヒマさえなかった。〈一極集中コンセントレート〉で頭上ずじょうへ飛び上がり、着地ちゃくち前にべつの建物へ移動した。


「それがうわさ魔法まほうか。話に聞いていた以上(いじょう)だよ」


 〈そと世界せかい〉で魔法を使う人間にんげん辺境伯マーグレイヴぐらいしかいない。ただ、〈侵入しんにゅうしゃ〉から話を聞かされていたので、知識ちしきはそれなりにあった。


(十メートルもあれば、安全あんぜんけんってところか……)


 能力を無効化させなかったことから、さきほどまでの位置いち関係かんけいは、有効範囲の外であると仮定かていした。


 ウォルターはやすむヒマをあたえない。三発の『かまいたち』をたてつづけにはなった後、相手のいる建物へ飛び移った。


 〈転送〉(トランスポート)には時間をようする。攻撃をたたみかければ、移動先をしぼり込めることを、彼はサイコとの戦いで知った。


 トランスポーターの姿が消えた。その姿をちかくの建物にあっさり発見はっけんするやいなや、すかさず追撃ついげきを行う。そして、そっぽを向いていたのも見逃みのがさなかった。


 ふたたび姿が消えたのと同時どうじに、目星めぼしをつけた建物へ先回さきまわりした。けれど、敵はそこにあらわれず、ほどなく見当けんとうちがいの方向ほうこうから声が上がった。


「こっちだよ」


 トランスポーターは先ほどまでいた煙突の上にいた。わざとべつ方向ほうこう凝視ぎょうしすることで、ウォルターの誤認ごにんさそった。


 間髪かんぱつ入れずに、『かまいたち』をはなつと、相手は数十メートルはなれた建物へ移動した。予備よび動作どうさがないわりに、とおくへ移動しすぎていると、ウォルターはあやしんだ。


 〈転送〉(トランスポート)自身(じしん)適用てきようする場合ばあい二通ふたとおりの発動はつどう方法ほうほうがある。移動先を一定いってい時間凝視し続ける方法と、事前じぜん登録とうろくした座標ざひょうへの移動だ。どちらにせよ、距離におうじた時間がかかるのは変わらない。


 しかし、前もって登録した座標への移動は、凝視の手間てまがはぶけることにくわえ、移動先の先読さきよみができる。先読み終了しゅうりょう後なら、タイムロスなく移動できる。


 ただし、保存ほぞんできる座標は三つまでで、二ヶ所を同時に先読みできないなど柔軟じゅうなん性はとぼしい。三択さんたくの移動先を的中てきちゅうされたら一巻いっかんの終わりだ。


「さっきもそこへ移動しただろ」


「そうだったっけ?」


 トランスポーターはとぼけた様子ようすで答えた。相手の接近をゆるしたが最後さいご余裕よゆうを見せながらも、綱渡つなわたりの状況じょうきょうにあるのを自覚じかくしている。


 ウォルターにしても、有効範囲におさめて、能力無効化を展開てんかいすれば敵の足を止められるが、建物間の移動に〈悪戯〉(トリックスター)手助てだすけが必要ひつようなため、話はそう簡単かんたんではない。


 トランスポーターは相手の目をぬすんでは、登録座標の書きかえをまめにすすめた。自身の能力だけあって、欠点けってんを知りつくし、サイコよりも数段すうだん使いこなしている。


 しばらくの間、イタチごっこがくり返された。ウォルターは相手の動作から移動場所を推測すいそくしたが、ミスリードさせるものがおお不調ふちょうに終わった。


「そっちはまわるだけか」


 挑発ちょうはつするだけで、攻撃らしい攻撃をしかけてこない。ウォルターはイラだちとあせりをつのらせた。


じつを言うと、僕にせられた役目やくめは君の足止あしどめなんだ。君を倒そうだとか、手傷てきずわせようとか、これっぽっちも思っていない」


 思いも寄らなかった内容ないように、ウォルターが口元くちもとをゆがめた。手をこまねいていると、遠くで歓声かんせいのようなどよめきが起こった。それには怒号どごう悲鳴ひめいもまじっていた。


 そちらの方向へ二人して目をけると、大通おおどおりにゴーレムが姿を現した。


 まだ一体いったいを取り逃がしただけでは――ウォルターの願望がんぼうはすぐに打ちくだかれた。一体、また一体と遠目とおめに発見し、さらに、付近(ふきん)からも地響じひびきのような足音あしおとが聞こえてきた。


「どうやら、事態じたいが動きだしたようだね」


 満足まんぞくげに言った相手を、ウォルターがキッとにらみつける。


「あのゴーレム、僕なら止められるよ? それでもなお、君はあの女のナイトを気どり続けるのかい? 国のいち大事だいじにもかかわらず、コソコソとかくれ続ける薄情はくじょう者のために、どれだけの命を犠牲ぎせいにするんだ」


「何度も言わせるな! お前とは手を組まない!」


 トランスポーターはうんざりしたように肩をすくめた。


「さっきも言ったように、僕の目的は君の足止めだ。結局けっきょくのところ、逃げることしかしない。だから、仲間のところへ加勢かせいしに行ってもいいよ。ただ、背中せなかには十分じゅうぶん注意ちゅういをはらったほうがいい」


 後回あとまわしにされかねないことを見越みこして、先手せんてを打った。心理しんり的なかけ引きでも、トランスポーターが一枚いちまい上手うわてだ。


 目の前の敵を野放のばなしにはできない。だが、打開だかいさくを見つけられないまま、いたずらに時間を浪費ろうひするわけにもいかない。その板ばさみによって、ウォルターの表情ひょうじょう苦渋くじゅうちた。

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