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真夜中のトリックスター  作者: mysh
転覆の日
156/181

伝承の矛盾(後)

     ◇


「前もって確認かくにんしておきたい。僕ら『最初さいしょ五人ごにん』とあの女――『転覆てんぷく巫女みこ』が、停戦ていせんのために『誓約せいやく』をむすんだ話は聞いたことあるかい?」


「ある」


 知ってはいても、みとめたくはない。それを認めることは、これまでの自分じぶん人生じんせい否定ひていするようなものだ。


「僕らはそれにより、『誓約』のメンバーにかんする記憶きおくのこらずうしない、おたがいの能力のうりょく通用つうようしなくなった」


 自分に記憶を失った感覚かんかく一切いっさいない。ただ、声をだいにして『誓約』の話を否定できないのは、敵の能力が自身(じしん)に通用しないという、厳然げんぜんたる事実じじつ存在そんざいしているからだ。


伝承でんしょうによれば、『誓約』の内容ないようは他にもある。それはあの女が一つのささやかなものをのぞく、ほぼすべての能力を失ったというものだ。

 まあ、あの女の場所ばしょがわからないかぎり、これは確認のしようがない。ただ、姿を見せないところを見ると、真実しんじつではないかと思う」


 初めて聞く話だ。能力を失ったことが身をかくしている理由なら納得なっとくがいく。


「ちなみに、あの女はまだ生きているよ。『誓約』はローメーカーの〈立法ローメイク〉によって行われたけど、記憶が消去しょうきょされた関係かんけいで、今現在(げんざい)、内容は確認できない。

 ただし、『誓約』の解除かいじょ同意どうい、もしくは死亡しぼうした人物じんぶつ名前なまえなら表示ひょうじされる。ローメーカーによれば、げん段階だんかいはどちらの状態じょうたいにもない」


 だから、どこにいるかもわからない巫女みこを、しつこくさがしつづけているのか。


     ◇


「伝承に残された『誓約』の話には矛盾むじゅん点が二つあるんだ。一つ目は『誓約』の参加さんか者でもないのに、僕らに能力が通用しなくなっている人間にんげんの存在だ。

 たとえば、〈不可視インビジブル〉の能力を持つ男は、『最初の五人』でも、あの女でもないのに、僕らに能力が通用しない。反対はんたいに、僕らの能力は彼に通用するんだ。それが、彼からり受けた能力であってもだ」


「何がどう矛盾しているんだ?」


「〈立法ローメイク〉には制限せいげんがある。一つは条文じょうぶんの内容を対象たいしょう者が実行じっこうできること。もう一つは条文の内容が対象者にとってつね平等びょうどうであることだ」


 そんな制限があるのか。つまり、誰かを命令めいれいしたがわせる能力ではなく、公平な法律ほうりつをつくるものってことか。そして、それには法の下の平等が存在しなければならない。


「例をあげよう。僕らは仲間なかま内で『盟約めいやく』を締結ていけつし、能力を共有きょうゆうしている。メンバー全員ぜんいん能力のうりょくしゃであり、個々(ここ)が能力を提供ていきょうしているのだから、これはイーブンだ。

 『盟約』にはもう一つ条項じょうこうがある。『盟約のメンバーを手にかけた者は死ぬ』。物騒ぶっそうな内容だけど、これもイーブンだ。命をうばったものが命を奪われるのだからね。かりにこれが、『約束やくそくをやぶったら』とか、『遅刻ちこくしたら』とかだったりしたら、成立せいりつになっていただろう」


 つまり、メンバーでない者にまで効力こうりょくがおよぶのはおかしいという話か。確かに、それは平等ではない。


「もう一つの矛盾も同じような話さ。さっきの『誓約』の話を思いだしてほしい。あの女はほぼ全ての能力を失ったと伝承にある。だけど、僕ら『最初の五人』は誰も能力を失っていない。これは道理どうりに合わない。この場合ばあい、〈立法ローメイク〉は不成立だ」


「……伝承自体(じたい)がまちがっているんじゃないのか?」


 言わんとすることはわかった。ただ、伝承がまちがっているとすれば、解決かいけつする話だ。巫女が能力を失った話だって確定かくていしたわけではない。


「その結論けつろんではつまらない。すじとおった答えを持っているから、とりあえず、聞いてくれないか。

 もしあの女が『誓約』で能力を失ったのなら、同じく能力を失った同等どうとうの存在がいなければならない。しかし、『誓約』の人数にんずう断定だんていされていないものの、伝承には六人の名前しか見えない。

 また話がもどるよ。解除への同意、あるいは当人とうにんの死亡で、名前が表示される話をしただろ。じつは、すでに一人だけ『誓約』の解除に同意しているやつがいる」


 トランスポーターはもったいぶるように、ひと呼吸こきゅういた。


「名前はマリシャス。伝承に名前のないそいつが、いつの間にか、僕らの『誓約』にちゃっかりくわわり、いちはやく解除に同意している」


 新事実をまくし立てられ、ただでさえ頭が混乱こんらんしていたのに、あらたな登場人物まであらわれた。第一だいいち、スゴい名前だな。悪意あくいとか、そんな感じの意味いみだっけ。


「ここからは僕の憶測おくそくだ。あの女とマリシャスが『誓約』によって能力を失った。二つの存在は同格どうかくであり、能力が釣り合っていた。僕らが能力喪失(そうしつ)の対象とならなかったのは、能力的に見劣みおとりするからだろう。

 なぜマリシャスの名前が伝承にないのか。まっさきに思いつくのが、伝承を残したのがそいつで、自分の名前を隠したかったってところかな」


「それで何が言いたいんだ」


「それなら、本題ほんだいに入らせてもらうよ。個人こじん的な話になるけど、僕は『誓約』の解除がしたい。しかし、それには全員の同意が必要ひつような上に、大きな障害しょうがいがある。それはあの女とマリシャスというはかれない二つの存在だ。仮に『誓約』を解除すれば、能力を失った両者りょうしゃが、それを取り戻すことになる。

 下手へたすれば、おぞましい怪物かいぶつ復活ふっかつという事態じたいになりかねない。これではうかつに手を出せない。ただ、幸運こううんにも障害を取りはらう手段しゅだんはある。能力を失った状態の今なら、二つの存在の抹殺まっさつだってわけない」


 トランスポーターが真剣しんけんなまなざしをけて言った。


「つまり、それを成しとげるために君の手を借りたい。さらにふみ込めば、それまでの共闘きょうとうと、目的もくてきたした後に『誓約』を解除する約束を、〈立法ローメイク〉によってかわしたい」

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