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真夜中のトリックスター  作者: mysh
転覆の日
152/181

頂上決戦(中)

     ◆


 普段ふだんならおおくの人出ひとででにぎわう中央ちゅうおう広場ひろばも、今はゴーストタウンのように人っ子一人いない。レイヴンズヒルのランドマークたる記念きねんをはさみ、円形えんけいのフィールドで両雄りょうゆう対峙たいじした。


『もしお前に勝ったら、俺をジェネラルにって話がどうしても出てくるだろ。俺はだい自然しぜんの中で、ゾンビとたわむれているほうがしょうっているんだよ』


 ジェネラルとの試合しあいこばつづけた辺境伯マーグレイヴが、かつて口にした言いわけだ。これを口上こうじょうと断ぜられたら、どれだけ気がらくだったろうか。


 一度いちどはついえた夢だった。自身(じしん)超越ちょうえつしているかもしれない男との直接ちょくせつ対決――夢にまで見た頂上ちょうじょう決戦けっせんが、とうとう現実げんじつのものとなった。


 ジェネラルの体はふるえていた。それはいかりでなく、よろこびによってだ。部隊ぶたい仲間なかまたちが、今もなお命がけで戦っている。一刻いっこくはやく、この勝負しょうぶかたづけなければならない。


 それにもかかわらず、むねをおどらせている自分じぶんに気がついた。われわすれるほどの戦いへの渇望かつぼう――勝利しょうりへの欲求よっきゅうが、これほどまでに自身のうちにねむっていたとは――。


 ジェネラルは自身にあきれながらも、思わずみをこぼした。


「ずいぶん、うれしそうじゃないか」


 ジェネラルは胸のうちを見すかされ、気を引きしめ直した。だんじて敗北はいぼくゆるされない。かつての仲間をあらためさせるには勝利しかない。そうきもめいじた。


「言い忘れていたが、俺が勝ったら『根源の指輪(ルーツ)』をもらい受けるぞ」


ねんのため、『根源の指輪(ルーツ)』をほっする理由を聞いておこうか」


「この国を夢から目覚めざめさせるため」


「笑わせるな。ライオネル、目をますのはお前のほうだ!」


 ジェネラルが語気ごきを強めて言いはなった。


     ◆


 魔法まほうの試合をした頂上決戦が、今始まりをげた。先手せんてうばったのはジェネラルだ。


 『吹雪ふぶき』がまたたくき起こった。それは相手の魔法発動(はつどう)抑制よくせいすることにくわえ、攻撃こうげき相殺そうさいすることができる。言わば、うすいシールドの役割やくわりたす。


 無論むろん、自身の魔法も影響えいきょうを受けるが、はらわなければならない代償だいしょうだ。攻撃スピードが速い『電撃でんげき』は、発動されてから対処たいしょしていては手遅ておくれとなる。


 辺境伯の得意とくい戦法せんぽう速攻そっこうぐ速攻。相手に反撃はんげきすきすらあたえないのがあじだ。一瞬いっしゅん油断ゆだん命取いのちとりになることを、ジェネラルはいたいほど知っていた。


 『電撃』の攻撃力は『氷柱つらら』と同等どうとう。しかも、発現はつげんには『氷柱』ほど時間はかからず、スピードも段違だんちがい。氷の魔法は攻撃面で圧倒あっとう的におとっている。


 反面はんめん防御ぼうぎょ面ではがある。『電撃』では氷の『防壁ぼうへき』をやぶることはできないし、『氷柱』を完全かんぜんふせぐこともむずかしい。


 ジェネラルは小さな『氷柱』で牽制けんせいしながら、自身の前方ぜんぽうへ『防壁』をきずき上げていく。正面しょうめんきっての攻撃の応酬おうしゅうではがない。


 ただ、『吹雪』と『氷柱』を併行へいこうして発動しているため、形成けいせい速度そくどはゆるやかだ。牽制として放った『氷柱』も、『電撃』でたやすく崩壊ほうかいさせられていく。


 辺境伯が天才てんさい的にけているのは、魔法発動を阻害そがいする技術ぎじゅつ。相手の魔法へピンポイントに同等のものをぶつけ、ことなる属性ぞくせい同士(どうし)で相殺させる。


 それは相手が魔法を発動できないと錯覚さっかくするほどで、辺境伯はエーテルのながれを読め、それをあやつることができると、まことしやかにうわさされた。


 その先読さきよみはまるで予知よちひとしく、動物どうぶつ的な卓越たくえつした嗅覚きゅうかくがなせるわざだった。


 彼は一度伝説(でんせつ)を作った。それはジェネラルを凌駕りょうがすると評判ひょうばんが立つキッカケとなった試合。序列じょれつつきの実力じつりょく者を相手にしながら、彼はただの一度も魔法らしい魔法を発動させずに勝利したのだ。


 『吹雪』と『氷柱』のかた手間てまとはいえ、『防壁』の形成がなかなかすすまない。あまりに時間がかかりすぎていた。相手の魔法が干渉かんしょうしているとしても、常識じょうしきをはるかにえている。


 通常つうじょう、魔法発動は手元てもとちかければ近いほど有利ゆうりだ。その距離きょりの差をくつがえすほど実力に開きがあると、ジェネラルはみとめたくなかった。


 『防壁』の形成にかまけるジェネラルを見て、辺境伯は一気いっきに距離をつめた。そして、まだまどガラスほどのあつさの『防壁』を、あろうことかコブシで打ちった。


 予想よそう外の行動こうどう意表いひょうをつかれ、ジェネラルは棒立ぼうだちとなった。最初さいしょにのびてきた右腕みぎうでは振りはらえた。しかし、すかさずふところにもぐり込んできた相手に対応たいおうできず、あざやかに背負せおい投げをされた。


 ジェネラルは地面じめんをころがるいきおいで起き上がり、『水竜すいりゅう』を放って相手との間合まあいをとった。辺境伯は追撃ついげきを行わず、落胆らくたんした様子ようすで相手を見すえた。


「ジェネラル。お前、勘違かんちがいしているんじゃないか。能力のうりょくは使わないと言ったが、魔法しか使わないとは一言ひとことも言っていないぞ」


 認めざるを得なかった。長年ながねん試合というぬるま湯につかった結果けっか、戦いかたが体にこびりついていた。


「これは試合ごっこじゃない。引きけも場外じょうがい負けもない、本気ほんきの戦いだ」


 〈そと世界せかい〉において、辺境伯は生死せいしをかけた戦場せんじょうに身をき続けた。ジェネラルですら萎縮いしゅくするほどの、血にえた戦士の目をしていた。


「お前も思いちがいするな。おどせば、俺がおじ気づくとでも思ったか」


 ふとジェネラルは思いだす。この国が『転覆てんぷく』する前――人狼じんろう族とのだい戦争せんそう最中さなかには、自分もこんな目をしていたと。

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