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真夜中のトリックスター  作者: mysh
蜂起・襲撃
134/181

デリックの蜂起(後)

     ◇


 翌朝よくあさ鎮圧ちんあつ部隊ぶたい本拠ほんきょ地とする屋敷やしき案内あんないされ、そこのテラスで戦況せんきょう報告ほうこくが行われた。


 ふとテラスからのながめに目をうばわれた。サウスポートは入り江周辺しゅうへんのせまい土地とち建物たてもの密集みっしゅうし、繁栄はんえいぶりはレイヴンズヒルに引けを取らない。


 海を目にしたのは世界せかいに来てから初めて。大量たいりょうの船がならぶ光景こうけい壮観そうかんだった。けれど、いつまでも見とれているわけにはいかない。


 ピリピリとした空気くうきの中、気を引きしめて耳をかたむける。説明せつめいは部隊のそう指揮しきつとめるジャックが直々(じきじき)に行った。


「あの小高こだかおかの上に見えるのが、賊軍ぞくぐん占拠せんきょしているクリフォードきょうの屋敷です」


 丘は海からややはなれた場所にあり、上にこんもりと森をたくわえている。傾斜けいしゃがあるため、建物はほとんど見られない。特にきたがわがけになっていて、ねずみ色の岩肌いわはだがむきだしだ。


 よく考えると、こんな人のおおい街で反乱はんらんが起こるなんて、とんでもない事態じたいだ。しかも、敵は街のど真ん中に陣取じんどっている。


「敵の数はどれくらいですか?」


「それほど多くありません。三十人以上(いじょう)、五十人未満(みまん)といったところでしょうか」


「こちらの戦力せんりょくは?」


「数の上では圧倒あっとうしていますが、未熟みじゅく士官しかんだい多数たすうをしめ、大きなことは言えない状況じょうきょうです」


 パトリックにつづき、クレアがこう質問しつもんした。


「敵はもと水夫すいふ中心ちゅうしんだって話だけど、魔導まどうはいないの?」


貴族きぞく若干じゃっかんめい見受みうけられるものの、魔法まほうを使う者は確認かくにんされていません。マスケットじゅう短剣たんけん武器ぶきにしている者がほとんどです」


 デリック・ソーンの部屋へやで大量のマスケット銃を発見はっけんしたのを思いだす。やはり、反乱のために準備じゅんびされたものだったのか。


率直そっちょくに言うと、手玉てだまに取られています。敵方てきがたはまさに神出しんしゅつ鬼没きぼつで、突如とつじょ後方こうほう出現しゅつげんした敵から、はさみちにあって、毎回まいかい部隊が瓦解がかいしています。

 たった三度の小競こぜいで、すでに三名の死者ししゃと、三十名以上の負傷ふしょう者を出してしまい、面目めんぼく次第しだいもありません」


 ジャックは頭を下げ、くやしさをにじませた。パトリックは何か考え込んでいる。神出鬼没という話を聞いて、自分じぶんもあることがひらめいた。


我々(われわれ)作戦さくせんつつぬけになっている気がしてなりません。敵は我々の攻撃こうげき地点ちてん正確せいかく把握はあくし、重点じゅうてん的に兵士を配置はいちしています。その上、的確てきかく奇襲きしゅうをしかけてくるのですから、二回目の攻撃後、内通ないつう者の存在そんざいうたがう声が上がりました。

 二日ふつか前に敢行かんこうした夜間やかんの奇襲作戦も、直前ちょくぜんまで作戦内容(ないよう)せていたにもかかわらず、結局けっきょく万全ばんぜん態勢(たいせい)むかたれました」


〈転送〉(トランスポート)を使っているんじゃないですか?」


 たまらず、話が終わる前にとなりのパトリックに耳打みみうちした。


「おそらく」


 パトリックが小声こごえおうじた。敵方に女がいるのも、戦闘せんとう協力きょうりょくしているのもまちがいない。気がかりは内通者の存在だ。


 単純たんじゅんに敵の協力者がいるのかもしれないけど、もし味方みかたになりすました敵がまぎれていたら、あいつ――ギルも敵方にくわわっていることになる。


 いや、待てよ。女は〈不可視インビジブル〉を使えるから、奇襲のみならず情報じょうほう収集しゅうしゅうもやりたい放題ほうだいか。今は僕らがいるから無理むりでも、この会話かいわをそばでみみを立てることだってわけない。


「彼らの目的もくてきは何でしょうか。何か、要求ようきゅうみたいたものは?」


「それがわかりません。屋敷の死守ししゅ血道ちみちをあげるばかりで。あそこを打って出て、我々に攻撃をしかけるでもなく、逃亡とうぼうをはかろうとする様子ようすもありません」


「ゾンビのような敵があらわれたことは?」


「ゾンビですか……? いえ、そういったものは」


「わかりました。おそらく、我々が追っていた能力のうりょくしゃが敵方にいます。いたずらに不安ふあんをあおるため、これまで機密きみつにされてきました。結果けっか的にそれが、みなさんに苦難くなんいることになり、まことにもうしわけありません」


 それから、パトリックが女の能力のうりょくについて説明した。能力の詳細しょうさいはクレアですら聞かされていなかったようで、ほとんどの人間にんげんが息をつめながら、耳をかたむけていた。


 瞬間しゅんかん移動いどう遠隔えんかく操作そうさ透明とうめい化・怪力かいりき遠隔えんかく透視とうし列挙れっきょすると、全知ぜんち全能ぜんのうかみかと思えてくる。この五つ以外(いがい)に、あと二つ存在するのだから末恐すえおそろしい。


普通ふつうなら手にえないと思うかもしれませんが、幸運こううんにも、それらの能力は私とここにいるウォルターには通用つうようしません。きっと事態は打開だかいできます。みなさん、希望きぼうを持って事にたりましょう」


 もうあの女は恐れるにらない――とまでは言いきれないけど、先日せんじつとっておきの秘策ひさくみだした。それはパトリックの協力で実証じっしょうみ。ゾンビをあやつる男がそれにづかせてくれた。


     ◇


 ひと通り報告が終わり、休憩きゅうけいに入った。コートニーとスージーは別室べっしつ待機たいき中だけど、ロイはパトリックの従者じゅうしゃをよそおい、一緒いっしょに報告を聞いていた。


学長がくちょう〈転送〉(トランスポート)は移動先を気軽きがるに決められるものなんですか?」


 ロイが質問した。自身(じしん)が移動する場合ばあいは、その地点を見つめるという話だったけど、他人たにんの場合はどうなのだろう。


「〈侵入しんにゅうしゃ〉の証言しょうげんによれば、さじ加減かげんむずかしいらしく、トランスポーターは毎回同じ場所に『転送てんそう』させていたそうです。地中ちちゅうにめり込んだりはしないそうですが、空中くうちゅうに『転送』すると、落下らっか危険きけんがあるというのが理由です」


「それなら、丘の上から街をながめながら、あのあたりに送ろうだとか、適当てきとうなやりかたはできないということですね?」


「まあ、おそらくは……」


「元の場所に戻すことは?」


「戻せるのは一人だけです」


「そうなると、敵の能力者は奇襲のために送り込んだ仲間なかまを、回収かいしゅうに来ているかもしれませんね」


「おお、そうですね」


 ロイの推理すいり感嘆かんたんの声を上げた。〈不可視インビジブル〉の能力を使えば、鼻歌はなうたまじりに仲間を回収できるけど、そこまで行くための手間てまがかかるわけか。


奇策きさくを思いついたが、それには君の決死けっし覚悟かくご必要ひつようとなる」


「回収に来たところをたたくんですか?」


「いや、それは確実かくじつ性が低い。敵もバカじゃないし、逃げられたらもともない。その役目やくめは学長でもできるしな」


 いや予感よかんがしたものの、とりあえず、聞こうと思った。


「君が敵陣てきじん――つまり、丘の上の屋敷へ突入とつにゅうする。目には目を、奇襲には奇襲をだ」


 空をんでいくということか。確かにできる。屋敷へ行くだけならわけもない。でも、じゅう武装ぶそうした敵が大量にいるところへ突っ込む……?


「マスケット銃は弾丸だんがんをこめるのに時間がかかる。連射れんしゃ性能せいのうはゼロ。接近せっきん戦では役立やくだたず、ぎゃくにボロを出す。敵も魔法に太刀たちちできないとわかっているからこそ、あんな窮屈きゅうくつな丘の上に立てこもって、出口でぐちの見えない抵抗ていこうをしているのさ」


 これまで通りの戦い方では、いたずらに犠牲ぎせい者をかさねるだけ。どこにいたって敵の弾丸は飛んでくるわけだし、そのぐらいの大胆だいたんさと度胸どきょうが必要か。


「わかりました。やります」


「そうか、さすが僕の見込みこんだ男だ。学長に責任せきにんは負わせられません。自分の口から提案ていあんさせてもらえませんか?」

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