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真夜中のトリックスター  作者: mysh
中央広場事件
129/181

侵入者の正体

     ◇


 チーフの話が終わった。すでに話を知っていたのか、ジェネラルを始めとして、まった動揺どうようしていない人物じんぶつすくなからずいる。


 けれど、衝撃しょうげきを受けている人もどう程度ていどいて、表情ひょうじょうを見れば、初めて知ったかどうか判別はんべつがついた。


 自分じぶんもその一人だけど、話の途中とちゅうから、交渉こうしょう相手の『高齢こうれいの男』のことが気になってしょうがなかった。あいつと似ている。そう思った。


 パトリックが話を引き継いだ。


「〈樹海じゅかい〉から生きてもどれたのはネイサンのみです。後日ごじつ捜索そうさくで、辺境伯マーグレイヴ、ダレル、イェーツきょうの三名をのぞく六名の死体したい発見はっけんされ、イェーツ卿の死体も、数カ月後に〈樹海〉の外で発見されました。

 お聞きの通り、機密きみつあつかいにされたのは同士(どうし)ちだったからです。敵にやぶれたわけでなく、味方みかた同士でころし合ったがため、おおやけにすることができなかったのです」


 パトリックはいったん話をくぎった。たちまち、議場ぎじょう沈黙ちんもくにつつまれた。


 機密あつかいにされたのはもっともだ。ただ、あの能力のうりょくを知った今となっては、たんなる仲間なかまれと結論けつろんづけるのは短絡たんらく的だ。


 パトリックが顔を上げて、一同いちどうの顔を見渡みわたしながら言った。


「しかし、みなさん。もう一度いちど、話を振り返ってみてください。すでに気づいている方もいらっしゃると思います。ウッドランドにあらわれたイェーツ卿、突如とつじょ仲間を手にかけたダレル。そして、命を落としたはずなのに、一時いちじてきによみがえったサム。これらのなぞすべて、昨日きのう現れた〈侵入しんにゅうしゃ〉の能力によって説明せつめいがつくことに」


「そうだな」


「確かに」


我々(われわれ)は敵の策略さくりゃくにハマったということか」


 元老院げんろういん議員ぎいんたちが口々(くちぐち)に言った。


「それをうらづける決定けってい的な証拠しょうこもあります。〈侵入者〉の能力は、どういうわけか、私とそこにいるウォルターには効果こうか発揮はっきしません。そのため、片割かたわれのギル・プレスコットという男が、我々の目には別人べつじんうつっていました。

 生前せいぜんの彼と面識めんしきがなかったため、全く気づけなかったのですが、関係かんけい者に確認かくにんしたところ、体格たいかく、髪の色に顔立かおだち、たかめの声など、ダレル・クーパーの特徴とくちょう完全かんぜん一致いっちしていました」


 途端とたんに議場がざわついた。ギルには初めて会った時から違和いわかんがあった。全くの別人をよそおっていたならたりまえか。


「ダレル・クーパーが犯人はんにんだったってこと?」


 クレアがいかけた。


「私はそう考えていません。外見がいけん他人たにんに似せられても、人格じんかくまで偽装ぎそうできるとは思えません。実際じっさい、その男は外見といにひどくギャップがありました」


「だったら、〈侵入者〉はなぜダレル・クーパーの姿をしていたのかね?」


「よく思いだしてください。もう一人の〈侵入者〉がトレイシー・ダベンポートの姿をしていたことを。ウォルターの証言しょうげんによれば、二人の〈侵入者〉は普通ふつう言葉ことばをかわしていたそうです。

 このことから、どちらかがもう一方いっぽうをあやつっていたと考えるべきではありません。にわかには信じがたいですが、ここは彼らが死者ししゃの体を乗っ取れると考えるのが自然しぜんではないでしょうか」


 パトリックの仮説かせつ納得なっとくできる。実際、自分もそうとしか考えられなかった。それを否定ひていすると、トレイシーを〈侵入者〉あつかいしなければならない。


 けれど、人間にんげんの体を乗っ取れる存在そんざいはなかなか受け入れられず、大半たいはんの人が怪訝けげんな表情をしていた。つぎに声を上げたのはジェネラルだった。


「私も学長がくちょうの説に乗りたいと思います。事実じじつ、我々は二人のトレイシー・ダベンポートをこの目で見ていますし、彼がそのような男でないと知っています。ダレル・クーパーにしても同様どうようです」


「私はダレル・クーパーを手にかけたのは、イェーツ卿の同行どうこう者だったアカデミーの研究けんきゅう員があやしいと思っています。こちらがわ行動こうどうつつぬけになっていたことからも、内通ないつう者がまぎれ込んでいたと見るべきです」


「その研究員が他人になりすます能力のうりょくしゃで、交渉相手がゾンビをあやつる能力者ってことね……」


 クレアがつぶやくように言った。あの二人は五年前から一緒いっしょに行動していたのか。


「それで、彼らの目的もくてきは何だったのかね?」


「その後の動きが五年間も途絶とだえたことを考えると、首をかしげざるをえませんが、商談しょうだんのためだったとは思えません。最初さいしょから、我々を攻撃こうげきする目的だったのではないでしょうか」


 確かに目的は見えない。それから、悪事あくじはたらいていないようだし……。〈樹海〉の戦闘せんとうかんする話は、そこでひと段落だんらくついた。


 ふとチーフに目をけた。そこに見なれた気力きりょく上司じょうしの姿はなかった。チーフは肩をふるわせながらこう言った。


「そうか……。裏切うらぎり者も、頭がおかしくなったやつもいなかったんだな。よかった……。本当ほんとうによかった……」


 チーフはすくわれた思いだったろう。かつての仲間にあらぬうたがいをかけたり、裏切り者のレッテルを必要ひつようがなくなったのだから。


 仲間のかたきを討つことだってできる。その考えにいたったのか、ふいにチーフのひとみ情熱じょうねつがともった。そして、りょうのコブシをギュッとつよくにぎりしめた。


     ◇


「もしかすると、中央ちゅうおう広場ひろば事件じけんもそいつらの犯行はんこうなのか?」


 議員の一人が声を上げると、議場がどよめいた。


「そうか!」


「辺境伯もぬれぎぬだったか」


 その意見いけん同調どうちょうする声がたてつづけに上がった。けれど、表情をくもらせたパトリックが、ためらいがちに切りだした。


「中央広場事件については、唯一ゆいいつ目撃もくげき者である私から、説明させていただきます。あらかじめことわっておきたいのですが、あの事件の犯人が辺境伯であったことに、私は一片いっぺん疑問ぎもんもいだいておりません」


 みずをあびせる発言はつげんで、議場がしずまり返った。パトリックをいぶかしげに見つめる人が相次あいついで現れた。


 他人になりすませる能力があれば、つみをなすりつけることも朝飯あさめしまえだ。断言だんげんするからには、それだけの確信かくしんがあるのだろう。


「とはいえ、証拠はなく、それを証明しょうめいするだい三者さんしゃがいるわけでもありません。あくまで私だけが体験たいけんした事実であり、それが真実しんじつであるかどうかは、みなさんの判断はんだんにゆだねたいと思います」


 パトリックはそう前置まえおきしてから、本題ほんだいへ入った。

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