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真夜中のトリックスター  作者: mysh
対抗戦
116/181

ジェネラルVSギル(後)

     ◇


 ギルは大技おおわざ乱発らんぱつという稚拙ちせつ戦法せんぽうを取ることで、ジェネラルの油断ゆだんを引きだした。わるあがきに見えた連続れんぞく攻撃こうげきも、ひそかに足もとへ張った氷から、相手の注意ちゅういをそらすのが目的もくてきだった。


たんにころんだんじゃないみたい」


 クレアがその事実をいちはやく見ぬいた。


「氷か!」


 スコットも目を見張みはって、驚愕きょうがくの声を上げた。クレアは自分じぶん自身(じしん)もギルの術中じゅっちゅうにハマっていたことに気づき、表情ひょうじょうをけわしくした。


「そんなことしてもいいんですか?」


 ウォルターがとなりのパトリックに耳打みみうちした。


古典こてん的な戦法ですが、相手の移動を制限せいげんするため、足もとに氷を張ることはめずらしくありません」


 好機こうきをのがすまいと、ギルが一気いっき距離きょりをつめた。


 ジェネラルはあわてて立ち上がろうとした。ふたたび氷で軸足じくあしをすべらせるも、両腕りょううでともう片方かたほうの足でかろうじてふみとどまり、数歩すうほあとずさった。


 ジェネラルは自陣じじん領域りょういきをせばめられないように、前方ぜんぽうに氷の『防壁ぼうへき』をきずき上げていく。それを阻止そしするべく、ギルは『水竜すいりゅう』の連発れんぱつでたたみかけた。


 すでにギルはセンターラインをふみ越えていて、敵陣てきじん内で魔法まほう発動はつどうしている。


「おいおい、マジかよ。ジェネラルが追いつめられてるぞ。相手をあまく見すぎたか」


「それだけじゃないわ。お粗末そまつな戦いかたに気を取られていたけど、相手もかなりの実力じつりょくぬしよ。序列じょれつがついていないのが不思議ふしぎなくらい」


 ジェネラルは『防壁』の維持いじに手いっぱいで、反転はんてん攻勢こうせいに出る気配けはいがない。ギルが乱用らんようしたことにより、ジェネラル陣内じんないのエーテルは極度きょくど消費しょうひされた。


 『防壁』にほころびが見え始める。とおくない未来みらい決壊けっかいむかえそうな状況じょうきょうだ。はたから見ても、反撃はんげき糸口いとぐちはないように思えた。


 なくつづいた攻撃がしょう休止きゅうしすると、ギルの背後はいご巨大きょだいな『氷柱つらら』が姿を現した。ギルが回復かいふくした自陣のエーテルを存分ぞんぶんにそそぎ込み、『防壁』にあなをうがつためにつくりだした。


 『防壁』の崩壊ほうかい勝負しょうぶ決定けっていづけるのは明白めいはく。たちまちギルの魔法に取りかこまれ、ジェネラルは魔法の発動さえ満足まんぞくに行えなくなるだろう。


 会場かいじょうの誰しもがジェネラルの敗北はいぼくというおお番狂ばんくるわせを予感よかんした。


 ところが、突然ギルの耳に氷のひびれる音がとどき始めた。


 一度いちどや二度ではない。次から次と起こる耳ざわりな異音いおん不審ふしんに思ったギルが振り返ると、『氷柱』が無数むすうの小さな氷のやいばによって、怒涛どとうの攻撃を受けていた。


 『氷刃ひょうじん』はジェネラルが『風』によってギルの背後にまわり込ませた。ピンポイントにおそいかかるそのれが、『氷柱』に着々(ちゃくちゃく)亀裂きれつを広がらせ、ついには先端せんたん崩落ほうらくさせた。


 それは術者じゅつしゃのイメージの崩壊を意味いみする。ここからさい構築こうちくするのは至難しなんわざ。ギルはきばをぬかれた氷のかたまりを、やむなく『防壁』がけてはなった。


 しかし、ゴンとにぶい音を立てただけで突きやぶるにはいたらない。ギルが見せたすきじょうじて、すかさずジェネラルが反撃に出た。


 あらたな魔法の発動を阻害そがいするように、繊細せんさいかつ精緻せいちにイメージされた『吹雪ふぶき』が、たちまちジェネラル陣内を席巻せっけんした。後手ごてに回ったギルは、たまらず自陣にがった。


 対等たいとう条件じょうけんでは歴然れきぜんとした実力差があった。ジェネラルによる烈火れっかのごとく攻撃は、相手をまたたく陣地じんち奥深おくふかくへ追いやった。


「参った」


 その攻勢に耐えきれなくなったギルは、いさぎよく降参こうさん言葉ことばげた。


     ◆


 静寂せいじゃくにつつまれていた会場に、健闘けんとうをたたえる拍手はくしゅがわき起こった。これまでの試合しあいでは見られなかった光景こうけいだ。


 ひとまず、ジェネラルの敗北というだい波乱はらんがさけられたことで、観衆かんしゅう安堵あんどの表情を見せた。


 ギル――に『扮装ふんそう』したスプーは、温かい拍手に送られながら、会場を後にした。


「よくやったな」

「ナイスファイト」


 観衆から相次あいついで声をかけられたが、何の感情かんじょうもいだかなかった。


 スプーの表情はしぶかった。しかし、それはくやしさからくるものではない。ジェネラルの手ごわさが予想よそう以上(いじょう)のものだったためだ。


 たとえ最強さいきょう魔導まどうが相手だろうと、意表いひょうをついてだましちさえすれば、自身でもどうにかなると考えていた。スプーは戦略せんりゃく変更へんこう余儀よぎなくされた。


 人影ひとかげのない通路つうろまで引き上げ、かべをあずけてひといきついた。


しかったね」


 ネクロが物かげからヌッとあらわれ、ねぎらいの言葉をかけた。


「とりあえず、ムキになっていた理由を聞いておこうか?」


 スプーはジェネラルと戦う理由をネクロにつたえていなかった。直情ちょくじょう的で口の軽いネクロを信頼しんらいしていないところがある。


「私の力がどこまでジェネラルに通用つうようするかためしておきたかった。場合ばあいによっては、我々(われわれ)が『根源の指輪(ルーツ)』を手に入れなければならない事態じたいも考えられる」


 スプーらが近日きんじつ実行じっこううつ作戦さくせんの目的――それは〈とま〉のさい上層じょうそうねむる『源泉の宝珠(ソース)』の奪取だっしゅだ。そのためには、ジェネラルが所持しょじする『根源の指輪(ルーツ)』の入手にゅうしゅ絶対ぜったい条件となる。


「何をはりきっているのかと思ったら、そういうわけか。でも、それはインビジブルがやると言っているんだから、まかせておけばいいさ」


「やつは元々(もともと)この国の魔導士だ。信頼にあたいしない。それより、次はお前の番だぞ。くれぐれもすぎたマネはするなよ」


 スプーがおに形相ぎょうそうでネクロをにらみつける。まだ、さきの試合による興奮こうふんがおさまっていない。


「わかってるよ。でも、『最初さいしょ五人ごにん』については話してもいいんだろ? まあ、ねんのため、さきにあやまっておこうかな。やっぱり、直接ちょくせつ人間にんげんをあやつってる時はカッカするんだ」

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