表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夜中のトリックスター  作者: mysh
幽霊パーティー
103/181

幽霊パーティー1

     ◇


 ヒューゴと打ち合わせをませたので、夕食ゆうしょくの時に、話の経緯けいいやパーティーでの計画けいかくについて、みんなにけた。


「あのゾンビの話が思わぬ方向ほうこう進展しんてんしていたんだな」


学長がくちょうには内緒ないしょすすめるのね?」


「そのつもりです」


 おそらく、つたえたところで協力きょうりょくは得られない。ヒューゴにも義理ぎりだてしたい。


「人を殺しちゃうような相手なんですよね? だい丈夫じょうぶですか?」


 スージーが不安ふあんげに言った。


 言われてみれば、あそ半分(はんぶん)でいるといたい目にあうかもしれない。戦闘せんとうきの能力を持つのは自分じぶんだけだし、みんなをき込んでいいものか。


「ただ、話が本当ほんとうなら一気いっき形勢けいせい逆転ぎゃくてんだ。このチャンスをのがす手はないな。危険きけん役目やくめ全部ぜんぶウォルターにまかせればいい」


「そうです。僕に任せてください。ついこのあいだ、ゾンビ相手に死線しせんをくぐりぬけたばかりですから。普通ふつう人間にんげんなんてへっちゃらですよ」


 パーティー開始かいし夕方ゆうがたの五時半。二時間の予定よていだけど、何が起こるかわからないので、目覚めざまし時計どけい普段ふだんより一時間遅らせると取り決めた。


    ◇


 パーティー当日とうじつむかえた。


 前日ぜんじつにヒューゴと綿密みんみつな打ち合わせをし、屋敷やしき本邸ほんていはなれの位置いち関係かんけい確認かくにんした。二つの建物たてもの距離きょり的に目と鼻のさきで、わた廊下ろうかでつながっているそうだ。


 パトリックの屋敷から馬車ばしゃに乗り込み、ベレスフォードきょうの屋敷があるみなみ地区ちくへと向かう。八月のなかばということもあって、以前(いぜん)より日が落ちるのがはやくなってきている。


 僕らの服装ふくそうはというと、自分はユニバーシティの制服せいふく、ロイは仕事しごとの時に着ているローブ。コートニーとスージーは、パトリックが用意よういしたはなやかなパーティードレスを身にまとっている。


 屋敷前はあちこちから乗りつけた馬車で渋滞じゅうたいしていた。レイヴン城ではあまり見かけない、中高ちゅうこうねん夫婦ふうふが目につく。派手はでなドレスで着飾きかざ女性じょせいちがい、男性だんせいそうじて地味じみ格好かっこうをしていた。


 パーティー会場かいじょうは屋敷の西側にしがわに位置するおお広間ひろま。以前屋敷をおとずれた時には、足をふみ入れなかった場所にあった。会場は個人こじん邸宅ていたくにあるものとは思えない、巨大きょだいきぬけの空間くうかんだった。


 パーティーは立食りっしょく形式けいしきだ。純白じゅんぱくのテーブルクロスがかれたテーブルがいくつもかれ、よだれがれてくるような料理りょうりが、すでにならべられている。


 ブタやとり丸焼まるやきなど、肉料理がズラリとならぶテーブルには、男性中心(ちゅうしん)の人だかりができ、女性が集まるテーブルには、おもにパイやタルトが置かれていた。


「よし。とりあえず、相手に打撃だげきくわえるぞ」


 というわけで、まずは戦いにそなえてはらごしらえ。こんな時でしか、お肉にありつけない。コートニーとスージーは女性が集まるテーブルへ向かった。


 切りけられたうすい肉をほおばりながら、会場を見回みまわす。ベレスフォード卿の姿をなんなく発見はっけんした。かたわらにわかい女性の姿があり、ひときわ目立めだつドレスを着ている。


 れいの男と婚約こんやくしたという娘だろうか。談笑だんしょうする相手は老齢ろうていの男二人。黒髪くろかみの若い男としか聞いていないけど、あの二人ではないだろう。


 目についた料理へかたっぱしから手をのばしたので、さすがにきてきた。特別とくべつなイベントもなく、パーティーの趣旨しゅしがわからない。出席しゅっせき同士(どうし)交流こうりゅう目的もくてきなのだろうか。


「今のうちに、離れを偵察ていさつしておくか」


 ロイが提案ていあんした。コートニーを会場にのこし、三人で離れの下見したみへ向かった。


     ◇


 屋敷の中庭なかにわめんする廊下へ入った。ここは以前来た時にとおったので、記憶きおくに残っていた。会場への帰り道がわからなくなったていで廊下を進む。


 出席者がることを想定そうていしていないからか、廊下は会場とくらべものにならないほどくらい。


「二人とも。あれが離れだな」


「離れというより、普通にお屋敷ですね」


 離れは中庭をはさんで本邸と平行へいこうっていた。スージーが言ったように、パトリックの屋敷ぐらいの大きさはある。


「男の部屋へやは二階の中央ちゅうおうらしいです」


 一階のひと部屋からかりがもれているものの、二階の部屋はすべくらだ。


「こちら側は目立つので、反対はんたい側にまわりましょうか」


「そうだな。一階には人がいるようだし、空をんで二階へ直接ちょくせつるか」


 すこし歩くと、以前訪れたサロンの前を通りかかった。巫女みこのえがかれた絵画かいがが、ここにかざられていたのを思いだす。確か、題名だいめいは『出陣しゅつじんしき』だったかな。


「せっかくだから、あの絵画を見ていきませんか?」


「これからおお仕事しごとひかえてるというのに、君は余裕よゆうたっぷりだな」


 サロンには屋敷の人がいた。白々(しらじら)しく会場への帰り道を聞いた後、ことわりを入れて見物けんぶつさせてもらった。


 一度いちど見ているとはいえ、夢中むちゅう見入みいった。あらたな発見はないか、作品さくひん隅々(すみずみ)へ目を走らせる。


「何の絵なんですか?」


「ウォルターのおもびとがえがかれた絵さ」


「巫女ってことですね」


「こうして見ると、スージーと体型たいけいが似ているな」


「ダイアンとも似ていますよね」


 ロイとスージーの会話かいわでハッとなった。言われてみると似ている。ただ、髪型かみがた全然ぜんぜん違う。いや、髪型なんていくらでも変えられるか……。


 その時、コートニーから連絡れんらくが入った。会場で動きがあったようだ。早々(そうそう)に切り上げて会場へもどった。


     ◇


 コートニーのもとへ向かう途中とちゅう、何かを目線めせんうったえかけられた。そのさきに目を向けると、三人の男の集団しゅうだんがいた。


 一人はヒューゴだ。人のこと言えないけど、ユニバーシティの制服を着ているので目立っている。彼と神妙しんみょう面持おももちで話しているのがデリック・ソーンだろうか。


 体は大きくない。いかにも仕事ができそうな知的ちてき顔立かおだちをしている。表情がとぼしく神経しんけいしつそうで、聞いていた通り、ひといが苦手にがてそうだ。


 ヒューゴもこちらに気づいた。あごをクイッと動かして、ゴーサインを送ってきた。三人ですぐさま引き返し、ふたたび会場を後にした。


     ◇


 離れとつながる渡り廊下のそばまで来た。ここからなら離れを一望いちぼうでき、建物内の動きはもとより、本邸から離れへ向かう人も確認できる。


 離れへの侵入しんにゅうは僕とロイが行い、スージーはこの場に見張みはり役として残って、それを〈交信〉(メッセージング)で伝えてもらう算段さんだんだ。


「もし何をしているか聞かれたら、『パートナーがお花をつみに行っている』と答えるんだぞ」


「わかりました。ねんのため、お花をつんできてくださいね」


 それは、こっちの世界の人につうじるのだろうか。スージーも勘違かんちがいしているようだし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ