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真夜中のトリックスター  作者: mysh
プロローグ
1/181

UFO

     ◇


 その日は、しくも十七歳の誕生たんじょう日だった。もっとも、帰宅きたく早々(そうそう)に「今日は誕生日ね」と笑顔えがおの母からげられるまで、自分自身すっかり忘れていたけど。


     ◇


 雨がちの六月が明けたその日。所属しょぞくする文芸ぶんげいの集まりに出るため、休日の高校へ自転車を走らせた。


 集まりといっても部活ぶかつどうではない。文芸部という性格上、休日に部活を行う習慣しゅうかんはめったになく、それは新鮮しんせん出来事できごとだった。


 その日からさかのぼること二日。事の発端ほったんは、文芸部の部室ぶしつで行われたこんなやり取りだ。


先輩せんぱい。昨日の放課ほうかUFO(ユーフォー)目撃もくげきしたんです」


 話題わだいを振ったのは、何をかくそう自分自身。相手は窓際まどぎわの席で向かい合う土井どい先輩。内容が内容だけに、話を切り出すのに勇気が必要だった。


 土井先輩は一学年上で、文芸部の部長をつとめる。メガネがトレードマークで、体型たいけい長身ちょうしん細身ほそみ知的ちてき容姿ようしたがわぬ博識はくしきだ。


 つね口元くちもとを引きしめ、表情をくずさない。寡黙かもく雰囲気ふんいきをかもし出しているけど、実はだいのおしゃべり。SF(エスエフ)とオカルトをだい好物こうぶつとしているので、この話題を振るのに格好かっこうの相手だ。


 ついでに、自分のほうはというと、勉学べんがくにも運動にも苦手にがて意識はないけど、特別(ひい)でたところもない。そんなオール4……3.5ぐらいの個性こせいの高校二年生だ。


 人前ひとまえに出ることや目立めだつことが嫌い――というか苦手だ。子供のころから、ファンタジー小説しょうせつの世界に夢中むちゅうになっていて、今でも、その世界に思いをはせてばかりいる。


 軽く鼻で笑った先輩が「UFO?」と聞き返す。冷笑れいしょうどうじることなく、真剣しんけんな表情でうなずきを返す。


「どうせ、プラズマか何かだろ」


 予想よそう外の冷淡れいたんな反応だった。話を信じるかどうかはともかく、喜んで話題に食いついてくれると期待していた。


「プラズマでもスゴいですよね。先輩はプラズマを見たことあるんですか!?」


 裏切うらぎられた気持ちになって、ガラにもなく声をあららげた。思わずムキになったのには理由がある。


 文芸部の部員は四人しかおらず、男子部員にかぎれば、自分と先輩の二人のみ。前述ぜんじゅつの通り、先輩は大のおしゃべりなので、自然と自分が聞き役にまわり、たいてい、それは一方いっぽう的なものになる。


 アカシックレコード(宇宙うちゅう誕生からの歴史を記録しているらしい)といったオカルト話から、宇宙ひも理論りろんやダークマターの正体しょうたいといった、わけのわからない話題に、これまで散々(さんざん)付き合ってきたからだ。


「そう言われるとそうだな」


 いつになく強気つよき姿勢しせいを見せたからか、先輩がとまどった様子で窓の外へ視線しせんうつす。そして、「どこら辺で?」と話の続きをうながした。


     ◇


 そのまた前日――高校の帰りがけに、となりの駅にほど近い大型おおがた古本ふるほんショップまで足をのばした。みせあとにする頃には日が暮れかけ、だいぶあたりはくらくなっていた。UFOらしき物体ぶったいを目撃したのは、その帰り道だ。


 線路せんろをはさんだ数百メートル先の上空じょうくうに、突如とつじょ目もくらむまばゆい光があらわれた。僕は自転車をこぐ足を止め、一分近く光を発し続けたそれを、呆然ぼうぜん見守みまもり続けた。


 なぞ発光はっこう物体の消失しょうしつ後、正体を突きとめようと、その方向へいっ直線ちょくせんに突き進んだ。すると、運動公園と呼ばれる場所へ行き着いた。


 そこは陸上りくじょうトラック、野球場、テニスコートなどを併設へいせつする巨大きょだい公園。近隣きんりんの学校が各種かくしゅ大会の会場として利用していて、自分自身も応援おうえんや学校行事(ぎょうじ)で、足をはこんだことが数回あった。


 入口に夜間やかん立入たちいり禁止きんしという看板かんばんがあったけど、好奇こうき心にかられ、人気ひとけのない夜の公園へ足をふみ入れた。


 けれど、ときおりカラスの鳴き声がひびきわたるそこは、あまりに不気味ぶきみだった。結局けっきょく、その日はものの数分で引き返してしまった。


     ◇


 この話を聞き終えると、先輩は目の色を変えた。


「それってA駅の先にある運動公園のことだよな?」

「はい……」


 問いつめるような調子に、気圧けおされ気味ぎみおうじると、「あそこか!」と一段いちだんとヒートアップした。


 先輩の説明によると、その公園は超常ちょうじょう現象げんしょうの目撃談が数多かずおおいそうだ。くわえて、世間せけんさわがせた大事件の舞台ぶたいになったため、オカルト界隈かいわいでは聖地せいちと呼ばれている場所らしい。


 その後、先輩の独断どくだんで、本日ほんじつのUFO探索(たんさく)の計画が立てられ、どういうわけか、女子部員の二人も同行どうこうすることになった。はんして、話が大きくなってしまった。


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