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差し出がましいようですが。  作者: 花鳥 秋
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出会い

 


 唐突として投げつけられた彼女の言葉の弾丸に、僕は切り返す言葉を見失い、視線は彼女から逸れて宙を漂った。


 その反応を見てか、見ずか、一呼吸置いた後、彼女はニコッと笑い



「それでは、本題に入っても大丈夫ですか?」



 と、口にし、そのまま「えっとですねーー」と、江利香の自殺事件について、質問に転じようとするのを慌てて遮る。



「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください!」



 話の出鼻を挫かれ、白夜叶愛は瞼を何度か開閉させ、本気で驚いてるかのように今度は眼を丸く見開いて硬直する。


 僕はそんな彼女の反応を、無駄に可愛いな、とか思いつつも、一旦脇によける。



「あの、さっき、何て言いました?」



「さっき?」



 随分と惚けた声で僕の言葉を繰り返す。

 僕は唾を飲み込み、思い切って切り出す。



「そうです、さっきです。

 って言うか殆んど今です」



 別に彼女が、自身の毒舌を何事もなかったように流そうとしているのは、それで構わないと言えば構わない。


 ただ、なんとなくーーと言う言い方もおかしいかもしれないがーー相手が誰もが羨む絶世の清楚系美女であったとしても、本日二度も言われっぱなしで終わるのは僕の男としてのちっぽけなプライドが良しとしなかったのだ。


 我ながら、会話の流れを堰き止めてまで過ぎた話を掘り出そうとしている僕は、実に小さい男だろう。

 それ位は自分でも分かっている。


 白夜叶愛はそんな僕を見ながら、小さく首を傾げ



「何か言いましたっけ?私」



 と、問いかけてくる。

 僕は自分が怒声を放ちそうになるのを、慎重に堪え、ツッコミ寄りの口調で返答した。



「言いましたよ!言ってたじゃないですか!

 ほら、さっき、僕の事をウザいって言いましたよね?ウザいって!

 って言うか僕ら会ってまだ二回目ですよ?

 それなのにいきなりウザいって…」



「いや、今も十分ウザいですよ?」



 反撃にいったら、まさかのさらなる追撃を食らった気分だった。

 だが、僕もここまで話を切り出した以上は止まる訳にもいかない。

 ーーと言うか、火に油を注がれた気分である。



「ほら!また言った!あのですね、僕はただコミュニケーションっていうかーー空気を和ませようとしてですねーー」



 に、白夜叶愛が被せてくる。



「いや、頼んでませんし」



 失笑気味に返されたその言葉は、大洪水の如く、僕の中に燃え盛る業火を一瞬で攫い流した。

 まさしく、僕は撃沈。

 戦意喪失とはこの事だ。


 不意打ちをくらい、マシンガンを浴び、反撃をくらい、一刀両断されたのだ。


 最早、言い返す言葉も気力も奪われた。

 吐き出す言葉を失った口は、餌を欲した金魚のようにパクパク動いた後、僕はすっかり項垂れてしまった。



「大丈夫ですか?」



 と、心配そうに白夜叶愛が問いかけてくる。


 元はと言えばあなたのせいですよ!

 ーーと、返す元気もすっかり無くなってしまった。



「あの、白夜さん」



「何でしょう?」



 何とか絞り出した元気ない僕の声に彼女が答える。



「やっぱり、後日にしましょう。

 江利香の自殺事件について話をするのは」



 僕がそう言いだしたのがあまりに意外だったのか、白夜叶愛は再び眼を見開いた。


 僕はすかさず続ける。



「いや、やっぱり白夜さんの言う通りですよ。ここじゃ誰が聞いているかも分かりませんからーー明日、時間あります?」



「明日ですか?ちょっと待ってくださいね」



 と、どこからともなく、真っ白のカバーがつけられた携帯電話を取り出し、画面を指でスライドしながらスケジュールを確認する。


 そして、顔をあげ、携帯を直しながら



「大丈夫です」



 と、答えてくれた。



「じゃあ、明日、隣町にあるーー喫茶店Happinessって分かりますか?」



「はい、分かります」



「じゃあ、明日のお昼、二時位にそこで話しましょう。

 そこの人間なら信頼も出来ますから誰に聞かれても心配する事はありません」



「明日の午後二時に、Happinessですね。

 分かりました」



「はい」



 と、いう事で、江利香の自殺事件については日を改める形になった。


 そこで白夜叶愛が一言。



「じゃあ、取り敢えず何か食べます?」



 既に店内に居座っていた為、このまま出て行くのは無礼講極まりないだろう。

 僕は彼女の提案に素直に賛同し、メニューを確認し直すのだった。





 ーー翌日。


 その日の僕の寝覚め具合と言えば、最悪という言葉を他に置いては説明出来ないものがあった。


 まずは夢だ。

 前日の濃厚過ぎる一日が僕の過去の記憶を色々と弄り、強烈な悪夢を引っ張りだしてきたのだ。


 それは僕が見ていない、知るはずのない、自殺をしている江利香の姿ーーその光景だった。


 続け様にお葬式にまで出てきた。


「どうして」「何故」


 と、言った言葉の数々が、悲しみと言う雲が発生させる大雨に紛れ、あちこちを飛び交っていた。



 それらが僕の頭の中に響き渡る感覚を覚え、四時間と睡眠も取れないまま、僕は全身に嫌な汗をかき、目覚めてしまった。

 

 そこから、江利香との思い出などを恐ろしいほど鮮明に思い出し、それにつられるように色んな事に思考を巡らせている内に今度は逆に寝付けなくなってしまったのだ



 こうなっては仕方ない、と、僕は再度眠りにつく事を諦め、前日に僕を盛大に振り回してくれた例の探偵、白夜叶愛の事を思い出し、考えていた。



 思えば、一番最初に出会った時とは随分と印象が変わってしまったものである。

 そもそも、最初に出会った頃から彼女をそこまで知っていた訳ではなかったから、当然と言えば当然なのだが。



 しかし、人のイメージとは勝手なもので、僕のイメージは彼女に最初に出会ったあの一瞬で、殆んど確立させてしまっていた。

 いや、あの場合は、“自分の理想を押し付けて、そこに当てはめようとしていた”ーーそう言った方が近いかも知れない。


 実際は彼女の二つ三つの毒舌で理想も何もかも全てひっくり返された訳だが。


 それでも、僕は、彼女には何か惹きつけられるような魅力を改めて感じずにはいられないでいた。





 時刻はあっと言う間に過ぎ、午後一時半。


 結局、早朝四時半過ぎに眼を覚ましてから一睡も出来なかった僕は、その足で行きつけの喫茶店“Happiness”へと向かっていた。


 本日で三回目の白夜叶愛との対面。

 最初に出会ったのは五日前。

 現時点であの日からは実にもう六日目となる。


 そう言えば最初に彼女に出会った時、彼女は僕の考えている事や職業をズバリ当てて見せた事を思い出す。


 あの時はもう二度と会う事もないと思っていたから、さほど気にせずに忘れていたが、あれも彼女が探偵である故の推理によるものだったのだろうか?


 そもそも、僕はそれ以降に彼女の事務所に電話をかけているのだ。

 その僕の用件はちゃんと彼女、白夜叶愛本人に伝わっているのだろうか?



 そんなこんなと頭の中で考えながら、歩く事、15分。

 僕は目的地に到着する。



 外から見ると、中々古風な味を醸し出し、周りの建物と比べ十分な存在感を放つ喫茶店“Happines”。

 煉瓦造の壁に設置された木製の扉を手前に引く。


 同時にカランコロンっと音がなり、例によって中から元気なマスターの声が飛んでくる。



「いらっしゃい!」



 声の方に顔を向けると、真っ先にカウンターにこの前の女性が座っているのが眼に入った。


 その後すぐに、カウンターの中にいるマスターも視界に入れる。



 この前の女性ーー確か結さんーーは僕に気付くなり、この前の席と同じ位置からニコッと可愛らしい笑顔で会釈してくれた。



 僕もそれに対して、軽く会釈をしてから、奥に足を進め、カウンター席とマスター達を背中に、本棚の裏側とも言えるテーブル席の空間を確認する。


 マスターも、その女性も、そんな僕に対して何も話しかけてこず、僕が目的とした女性は既に店内のそのテーブルで優雅にコーヒーを嗜んでいた。



 僕から見て左奥、窓側に位置する四名掛けのテーブルで、その上にはティーカップが受け皿とセットで一つ。


 相も変わらず、全身真っ白のコーディネートで、今日はスーツにスカートといったピシッとした格好をしていた。


 彼女の綺麗な長い黒髪はその白装飾の上で見事と言わんばかりに映え、存在感を強調している。



 僕は少し唾を飲んだが、ちょっとした覚悟を喫して彼女、白夜叶愛のいるテーブルに近づいた。



「お待たせしました、白夜さん」



 と、声をかけられ、やっと僕に気付く。


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