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差し出がましいようですが。  作者: 花鳥 秋
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出会い

 


「仰る通りです。江利香は…江利香は本当によく笑う子でした。

 どうしてあの子が自殺をしたのか…

 私達家族は未だに誰もあの子の自殺に納得する事が出来ないんです」



 栓をしていたのが外れたかの様に、涙を流す沙奈江さんの言葉は僕の胸にも十分と染み渡り、危うくもらい泣きしてしまう所を此処寸前で堪えた。


 沙奈江さんが言った事は事実で、江利香は本当によく笑う女性だった。

 ずば抜けて可愛かったり、美人だったりした訳ではないが、童顔で愛嬌があって、本当に笑顔の似合う女性だったという記憶が今も脳裏に焼き付いている。


 人懐こく、真面目で、礼儀正しかった江利香はその性格から周りの人によく慕われ、愛されていた。


 そんな彼女が自殺したと聞いたのは、僕が隣町に引っ越し、一人暮らしを始めてから二年後の事だった。


 当時の僕自身も信じる事は出来なかった。

 それが現実に起きてしまった事だと理解するのにどれ位の時を要しただろうか。


 だがそれ以上に、沙奈江さんを初めとする夢見家全員の抱えた苦悩は僕の想像さえぶち破る事だろう。


 今もまだ、江利香が自殺したという事実を受け止められないその気持ちは僕も同じだった。



 と、ここで再び白夜叶愛が口を開いた。



「遺書は見つかったんですか?」



 だが、沙奈江はすっかり号泣してしまい、話す事が出来そうにない。

 ただ黙って首を振るだけだった。


 なので、僕が代わりに答えた。



「遺書は見つかってないんです。

 ただ、当時、この事件の捜査をした警察の見解では自殺と断定せざるを得なかったらしくて…」



 これを聞いた瞬間、白夜叶愛の顔つきが変わったのが見てとれた。

 僕の方に顔を向け、八の字に分かれていた眉が、今度は眉間にぐっと寄せつまり、急に難しい難問を睨みつける様な顔になったのだ。



「つまり、江利香さんの死は警察の見解が“自殺だった”それだけの理由で、自殺だと?」



「は、はい。どれだけ捜査しても事件性はない、と判断がくだったそうです」



 僕からそこまで聞くと、白夜叶愛は再び沙奈江さんの方へと顔向きを戻す。



「沙奈江さん、よく聞いてください。

 そして、よく考えた上でご決断ください。

 警察が江利香さんの死を自殺と断定した以上、確たる捜査の上で確たる根拠のもと、記された事実だという事になります。

 今更再捜査をした所でその事実がひっくり返る事はないに等しい確率だと思われます。

 ただし、ご家族の方々が現状に納得出来ないご様子であるならば、江利香さんの死の背景に何があったのか…それだけでも、再調査をしてみる気はありませんか?」



「再調査…?」



 沙奈江さんが白夜叶愛の言葉に反応し、涙を拭って顔をあげた。


 白夜叶愛が小さく頷く。



「もし、沙奈江さんご自身が望まれるのであれば、私が必ず、皆さんの納得のいく真実を此処に持ち帰る事をお約束します」



「本当に…本当に娘が何故、自殺をしたのか…その事実を調査してもらえるんですか?」



「はい。私はそんじょそこらの探偵とは格が違いますので」



 その自信はどこからーーと、喉元まで出かかって飲み込む。



「ーーでは、お願いします。どうか、どうか娘が何故自殺をする事になったのか…それだけでいいんです。私達はそれが知りたいんです」



 と、再び涙を流す沙奈江さん。


 白夜叶愛は改まって背筋を伸ばし、こう答えた。



「かしこまりました。この謎の全て、必ず解き明かしてご覧に入れましょう」





 ーー午後七時。



 夢見家を出た僕と白夜叶愛は事の成り行きで一緒に夕食を取る事になり、住宅街を少し離れた所にあるファミレスへと来ていた。



 事の成り行きというのも、白夜叶愛に“江利香の事についてもう少し詳しく知りたい”と言われたのがきっかけだ。

 それを餌にした訳ではないが、そこでファミレスを提案したのは紛れも無い僕自身だ。



 この際、少々の毒舌位は眼を瞑ろうじゃないか。

 こんな美女と二人で食事出来る機会など滅多にあったものじゃない。



「ーーって言うか、よくあそこで大口切りましたね。どうするんですか?これから?」



 適当な席に腰を着けながら、白夜叶愛に一言。



 白夜叶愛は黙ったまま、着席するなりメニューを取って顔を隠す。

 反応が返ってこない為、僕はもう一言投下してみた。



「それより、どうやって調べるつもりなんですか?江利香の自殺事件。

 そりゃ、図書館に行けば当時の記事くらいあるかもしれないですけど…」



 と、そこで、白夜叶愛が持っていたメニューがパタンッと机の上に倒れる。



「失礼ですが、新橋さんーー」



 彼女から言葉が返ってきたので、僕は「ん?」と、耳を立てる。



「ウザい」



「は…?」



 彼女の口から出た予想すらしてなかった一言に僕は眼を点にして固まる他なかった。

 そんな見るからに石化した僕に彼女はマシンガンを撃ち込むが如く喋り出す。



「何なんですか、さっきから。

 “お前は記者か!”ってツッコミ待ちですか?

 質問があるのはこちらです。

 聞きたい事があるのも私です。

 別にあなたのくだらない質問に答える為に設けた時間じゃありません。

 ーーそれにしてもファミレスですか。

 意外に財布の小さい男性なんですね。

 これから多少はデリケートな話もする事になるかもしれないというのに、考慮も配慮も見受けられません。

 この時間帯のファミレスなど人が多くて当たり前。

 誰がどこで何を聞いているかもわからないのに、住宅街からそんなに離れている訳でもないこのファミレスで、私達の会話が誰かの耳に入り、ご近所に変な噂がたち、夢見さん一家が気まずい陰口を叩かれるかもしれないと言う事は考えましたか?

 考えませんよね、明らかに頬は紅潮し、その筋肉も緩み、鼻の下を伸ばしきってる猿同然の顔をしている。

 明らかに“何も考えていませんでした”とでも言わんばかりの間抜け面です。

 一度席を立ち、今の顔を保ったまま鏡を見てくると良いですよ。

 自分の頭の悪さに少しは気付く事が出来る筈です」



 早口すぎてツッコミを入れる隙もない。

 ーーどころの話じゃない!!

 どうやら彼女の悪癖を僕は少し甘く見過ぎていたようだ。


 くどいようだが、顔は美人なのだ。

 綺麗に整った顔立ちは正に芸能人レベル。

 いや、それこそ、そんじょそこらのアイドルを相手にしても、頭一つ飛び出る美貌がある。


 このような女性を隣に連れて歩けたら、誰もが憧れ、羨む事だろう。


 そうーーこの毒舌さえなければ、だ。






 

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