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差し出がましいようですが。  作者: 花鳥 秋
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出会い

 

 僕がそんな事を思いながら彼女の背中を見ていると、夢見家の玄関から出てきたその女性が僕の存在に気付き、声をかけてきた。



「あら、もしかして尚弥君?」



 僕は視線を彼女からその女性に当てる。

 少し濃いめの化粧で歳を誤魔化してはいるが、優しそうな顔立ちをした御婦人。

 江利香の母親、夢見沙奈江ゆめみ さなえ)さんだった。



「お久しぶりです」



 それだけ言って、頭を下げる。

 沙奈江さんは今にも泣きそうな顔で僕を見ているが、大人らしく、そこはグッと堪えている。



「なんだか逞しくなって…もしかして尚弥君が?」



 沙奈江さんはそう言いながら、白夜叶愛の方に視線を戻す。

 白夜叶愛はニコッと笑顔を見せた。



「はい、彼こそが、毎年ーーこの三年間、江利香さんのお墓に菊の花束を供えていた人物です。

 今日は例の墓地の前を通り過ぎた所でばったり遭遇した為、此方にお連れさせていただきました」



 あれをばったり?

 いやいや、なんならその墓地の中まで来てたじゃないですかーーなんて、口が裂けても言えない。

そういう空気じゃない。

 沙奈江さんは大変満足したような笑みを見せながら白夜叶愛と僕を交互に見て「どうぞ、取り敢えず上がっていってください」と、僕ら二人を家の中へと招いてくれた。




 居間の一室に通された僕達。

 古風な雰囲気が何処と無く漂い、床が畳であるのはこの家のこの一室だけだ。

 幼い頃、此処で江利香とスイカを食べたり、テレビを観たりしていた記憶が鮮明に残っている。


 小学生、中学生、高校生と毎年の様にーー

 なんだかんだ、言ってはいたが一番楽しかった時期でもある。


 そんな思い出が敷き詰められた懐かしい部屋で、僕は初めて江利香の仏壇を目にした。

 江利香がこの世を去ってから、僕は一度もこの家に訪れなかったのだから、当然と言えば当然だが。

 仏壇に飾られた写真の中でセミロング程の黒髪の女性が満面の笑みを浮かべている。


 僕は沙奈江さんがお茶を淹れに行ってくれてる間にそっと仏壇の前に腰を据え、写真の中の江利香を見つめた。

 白夜叶愛はと言えば居間の真ん中に置かれた少し長方形の机の前で、綺麗に正座してお茶を待っている。


 僕はそんな彼女の背後に位置している状態。



 と、そこで湯呑みが三つ乗ったお盆を手に、沙奈江さんが居間に入ってくる。



「あら、尚弥君。良かったら御線香あげてやってね。

 尚弥君が久々に来てくれて、きっと江利香も喜んでるわ」



 仏壇の前に座っていた僕にそう言いながら、湯呑みを机の上に置く沙奈江さん。


 僕は黙って手前に置いてあった線香に火をつけ、仏壇に供え、眼を閉じて手を合わせた。

 今日、墓場で言いそびれた事を、出来なかった事を此処でーー



 僕がそうこうしてる間に、机を挟んで向かい側に座った沙奈江さんに白夜叶愛が問いただした。



「お気を悪くされる質問かもしれませんが、彼女…夢見江利香さんはどうして亡くなられたんですか?」



 白夜叶愛の問いに沙奈江さんは少しだけ口籠もってしまっていたように感じる。


 そして、僕が手を合わせ終え、眼を開けたと同時位に沙奈江さんは口を開いた。



「ーー自殺、だったんです…」



 僕の胸にその言葉が棘として刺さる感覚を覚えた。


 目の前の仏壇に飾られた江利香の笑顔が直視出来ない。

 僕はそのまま、顔を逸らすように、体制を沙奈江さんの方に向け、視線を沙奈江さんに当てた。


 すると白夜叶愛がチラッと僕の表情を窺う。いや、僕の隣にある仏壇に眼を向けたのかも知れない。

 そして、そのまま話し出す。



「お見受けした所、江利香さんは人柄もよく、色んな人に愛されていたように思います。

 純粋無垢な笑顔、とは、正にあのような笑顔の事を言う事でしょう」



 と、そこから視線を仏壇から沙奈江さんに戻す。



「お話を聞く限り、とても自殺をするような女性ではない。ーーそう感じ取る事が出来ました」



 どんな話を聞いたのかーー恐らくは前回に依頼された時に色々と話したのだろうが、そこは僕の預かり知らぬ所での話なので何とも言えない。



 が、白夜叶愛はここで一旦、唇をきゅっと結び、眉を八の字に曲げ、悲しげな表情で沙奈江さんの反応を黙視していた。

 沙奈江さんはこれに対し、口元を手で押さえて隠し、静かに涙を流し始めた。





 

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