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差し出がましいようですが。  作者: 花鳥 秋
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出会い

 僕は店内の、カウンターの向こう側の壁にかけられた時計を見る。

 かけ時計に違いはないが、振り子が付いているタイプで時計と振り子の中間に木製の梟が装飾されている。


 時計の針は午前十時を示しており、僕が白夜探偵事務所に電話をかけてから約二十四時間が経過しようとしていた。


 思わず、また溜め息がでる。


 丁度、そのタイミングで喫茶店のドアが開く。

 見た訳じゃない。

 ドアが開いた時に鳴るカランコロンッーという音を右側から捉えたのだ。



 マスターがすかさず「いらっしゃいませ」と対応する。



「おぉ、(ゆい)ちゃんか。どうぞお好きな席へ」


 カウンター越しにマスターが適当に席を指す。

 その客は入り口からレジを通り過ぎて、僕の後ろを通ると、僕から二席程空けてカウンター席に座った。

 そこで初めてチラッとその客の姿を視界にいれる。


 名前から想像した通り、その人物は女性だった。

 しかも、随分と若く見える。ーー恐らく、二十二、三歳位だろう。黒髪のボブカットと言った髪型で、小柄で“可愛らしい”という印象を受ける女性。


 マスターはその女性の前まで移動していき、水を差し出す。



「今日は一人?」



 そう訊かれ、女性はニコッと笑う。



「はい。今日は私だけ別件で」



「そう。大変だねえ。ーーいつものでいいかい?」



「はい、お願いします」



「あいよ」



 マスターは気さくに答えるなり、カウンターの中を動き出す。

 すると、そんな二人のやり取りを見ていた僕の方にその女性が振り向いた。



「あ、どうも」



挨拶され、僕も「どうも」と、軽く会釈する。

 そこで彼女をハッキリと認識する。


 全体の格好はお洒落な春服、と言った感じ。とは言っても、僕は女性の服装にあまり詳しい訳ではないので、それが世間一般的にはどれほどお洒落なのかとかは実際はよく解らない。

 露出は控えめで薄茶のストールを肩にかけ、丈の長い白いスカートを履き、茶色いブーツ。


 こんな可愛い子がこの喫茶店の常連にいたのか。

 僕は二十歳の頃からーーつまり、五年前から此処に通っているが、彼女の姿を見た記憶がない。

 なので


「よく来られてますよね、此処」



 彼女にそう訊かれた時は正直面食らった。



「えーーあ、僕の事を知ってるんですか?」



 自分を指差して、僕にとっては初対面(のつもり)の彼女に問い返す。

 彼女はクスっと笑う。



「はい、何度か店内でお見かけした事が」



「あ…あぁ、そうですか、すいません、全然記憶になくて」



「いえいえ、いつもテーブルの方で何か書き物をされながら集中してたみたいですから、仕方ないですよ」



 何故だろう?

 言われてみればーーかもしれないが、彼女の声は確かにどこかで聞いた覚えのあるような声だった。


 僕が彼女の言葉に答えようとした時、彼女の前に僕とはまた違うコーヒーカップが受け皿に乗って差し出された。



「はい、いつもの」



 と、マスター。



 そこで僕も区切りをつけ、自分のコーヒーカップを手にとった。

 ついでに時計を見る。

 十時十分ーーそろそろか。


 僕はいっそ残ったコーヒーを飲み干すと、席を立った。



「マスター、じゃあ僕はこれで」



 言って、代金をカウンター越しに手渡す。

 小銭が丁度あったので、コーヒー一杯分ピッタリだ。



「あいよ、丁度だね。これからどっか行くのかい?」



「はい。ーー昔の友達と会う約束が」



 僕は少し笑みを浮かべながらそう答えた。



「そうか、気をつけてな。いってらっしゃい」



 マスターの言葉に僕は軽く会釈で返した。

 ついでに、カウンターに座ってる彼女とも軽く会釈を交わし、彼女は最後にニコッと笑顔を向けてくれた。



 そうして、僕は喫茶店、“Happiness”を後にしたのだった。

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