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差し出がましいようですが。  作者: 花鳥 秋
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それぞれの在り方

 

 裏口に回ると、聞いた通り、僕達の視界にはすぐに石上三登志の姿が映った。

 煙草を右手の中指と人差し指で挟んだまま、空を仰いでいる。


 彼女を視界に入れた時点で桜井結は再び仕事モードに切り替わる。

 僕も余計な事を言ってしまわないよう口を噤んだ。



「すいません、ちょっとお話いいですか?」



 ある程度の距離を詰めてから、桜井結から話を切り出す。



「ん?あぁーーさっきの探偵さんか」



 僕達を横目に確認してから、首を起こし、煙草を吸う彼女。



「ん。ーーそれで?今更、あの子の何が聞きたいんですか?探偵さん」



 石上三登志は煙草の煙を斜め上横に向けて吐き出す。

 正面に居る僕達に煙がかからないようにとの配慮だろう。


 風見若菜の時と変わらずに言葉を返すのは桜井結だ。



「当時の事をどんな事でもいいので教えて欲しいんです、些細な事で結構なんですが」



「うーん…当時の事ねぇ。

 それはいいんだけど、その前に一つ質問していいかい?」



「何でしょう?」



「今更、あの事件の何について調べてんのさ?当時はそりゃ、この店のアルバイトが自殺したってもんだからさ、マスコミなんかにも一斉に叩かれたしね、ない尻尾掴まれて、ウチはブラックだったんじゃないかとか散々近所にも噂されて、客足も遠のいて、社長にも叩かれて、若菜君も大分気に病んでたんだ。

 それをまた今更嗅ぎ回られて、掘り返されたんじゃこっちとしてはたまったもんじゃない。いい迷惑なんだよ」



「我々にも守秘義務がありますので、何についてーーかはお教え出来ませんが、双方の利益に害なすものではありません。

 快く協力していただければ、私達も相応に、早々とこの場を立ち退かせていただきます。

 ですので、江利香さんの事について、お話聞かせていただけませんか?」



 どこまで本当の事を言ってるのかは分からないが、なるほど、この話術と言うか聞き込みは白夜叶愛には出来ない芸当だ。

 白夜叶愛が野外調査においてそのほぼ全てを桜井結に任せているのも得心である。

 下手、下手に回る桜井結の話術は僕にだって真似出来たか分からない。


 石上三登志は煙草の灰を指で弾いて落としながら小さな溜息を吐いた。



「ーー分かったよ。って言っても、そんなに悪い子じゃなかったよ。いつも笑顔の明るい子で、他のバイトにも慕われてた。

 私から見ても可愛らしいバイトの一人だったよ」



「自殺する前、何か変わった事はありませんでしたか?」



「さぁねぇ。

 あぁ、あの事件が起こる数ヶ月前から“辞めたい”って愚痴を他の人に漏らしてたなんて話なら聞いたよ」



「辞めたい…ですか」



「そ。まぁ、本人から聞いた訳じゃないから理由までは知らないけど、南條さんや康太君辺りなら知ってるんじゃない?」



 南條哲。

 この飲食店の社員。

 同じく、折原康太(おりはら こうた)

 その名前も桜井結から貰った紙に書いてあったので知っている。


 この二人の人物は江利香から直接相談を受けていたということなのだろうか?



「そうですか。分かりました、ありがとうございました」



「ん?もういいのかい?」



「はい」



 桜井結は終始笑顔で締め括り、会話を修了させた。


 そして、またもや僕の腕を引っ張りその場から颯爽と離れる。


 駐車場まで出て、手を離された所で僕は疑問を口にした。



「結ちゃん、あれでいいのか?」



「ん?何が?」



 道路に向かって歩きながら、こちらにチラッと顔を向ける。

 僕も後ろに続いて歩いている。



「いや、まぁ、僕が捜査の邪魔してる感が否めないっていうのもあるけどさ、あの二人に対する聞き込みはあれでいいのか?全然何も聞けてないじゃないか」



「うーん…」



 歩道まで来て、僕達は立ち止まる。

 右へ左へと車が行き来する道路を渡った先にあるアパートを視界に入れながら。



「大丈夫ですよ、尚弥君。

 あの二人から得られる情報は多分、あの程度だと思うから。

 多分あれ以上はないよ。

 もう年月が経っているからって言っても、探偵って名乗る相手に店長や副店長が多くを語ったりはしないと思う」



「あぁ、なるほど」



「それでも、貴重なお話は聞けたと思うよ」



 そう言ってニコッと笑う桜井結。

 そのすぐ後に「今だ!」と言って、車の通りが途切れた隙に道路を駆け渡る。


 ーー出遅れた。

 仕方がない。

 次のチャンスまで待つとしよう。


 道路を渡り切った反対側の歩道では桜井結が笑顔で両手を振っているのだった。




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