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差し出がましいようですが。  作者: 花鳥 秋
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偶然の本質

 

「新橋さんは“運命”というものを信じますか?」



「本当に変わりましたね。ーーえっと、運命ですか?僕はどちらかと言うならば、信じていたい派ですかね」



 信じてる派じゃなく、信じたい派だ。

 この違いは大事である。

 白夜叶愛は「ふぅん…」と小さく何度か頷く。



「つまり、信じてはない、って事ですね?」



「そういう言い方をされれば…そうですね」



「因みに運命と言えばどういうものを運命として想像します?」



「うーん…」



 中々難しい質問である。

 どう言ったものを…

 運命…天命を帯びた人間の性。

 偶然や必然を凌駕する超自然的な支配力をもった巡り合わせ。



「やっぱり、ベタにはなりますけど、本屋で同じ本を取ったり、街中でぶつかったりするような出会い方…ですかね?」



「随分と自分の見方に偏った傍迷惑な運命ですね」



 グサッと心を槍で突き刺された。



「だってそうでしょう?

 同じ本の取り合いや、前を見ずに急にぶつかってきたりなんて偶然の産物、もしくは必然的な嫌がらせ以外の何物でもないじゃないですか」



 それは言い方の問題だ!と心の中からツッコミをいれた。

 声には出さない。

 卓球のスマッシュの如く跳ね返されて終わりだから。

 僕にそのスマッシュを打ち返す器量などない。



「では一つ、差し出がましいかも知れませんが良い事を教えて差し上げましょう」



 白夜叶愛は背を椅子に深く預けながら、微かな笑みを浮かべて言った。



「偶然が偶然として成立するのは三回まで。

 同じ物事に関係して偶然が三回重なればそれはもう必然です。

 四回も重なれば何者かによる意識的な策謀。

 そして、偶然が五回も重なろうものならば、最早それこそが、運命と言えるんじゃないでしょうか」



 これは私の持論ですが。ーーと彼女は最後に付け足した。


 僕はおぉっと思い、口を馬鹿みたいに開け放っていた。

 なんだか知的な論理の話を聞いたような気分である。


 雑談にもある程度の区切りがついた所で、白夜叶愛は椅子に背を預けたまま天井を見上げ、口を開いた。



「さて、そろそろ話を戻しましょう」



 ここで閑話休題。

 僕としては思いの外楽しかった雑談である。



「えー、新橋尚弥さん」



 改めてフルネームで名前を呼ばれる。

 同時に彼女の視線が天井から僕へと下りてくる。



「貴方の推理は一見すれば正しい」



 ですがーーと、彼女。



「完全に的を外しています。

 見方が偏ってるーーと言いますか、

 相手の事を見ていないんですよね」



「相手?」



「貴方側からすれば全体の真実、関係図を私に聞いたのですから、全てを知っていて当たり前でしょう。

 ただし、相手がそうだとは限らないんです。

 貴方が問題の解き方を知っていても、相手は知らない。

 相手も分かるだろうと思っている問題は、実は貴方にしか見えていない。

 貴方にとっては簡単だと思う刀の扱い方も、相手は知らないんです」



「どういう事ですか?

 相手って誰です?」



「南條哲さんですよ。

 南條哲さんと貴方の関係図に関しては浮気されていた男性という点では同じなんですよ」



 ん?えっと…それってつまり…

 頭の中で出かかってる答えが、後一歩で出てこない。



「貴方が舞さんに浮気されていた、と言うなら、南條哲さんも舞さんに浮気されていたと言えてしまうという事です。

 貴方の推理は南條哲さんが貴方と舞さんが付き合っていた事を知っていなければ成立しませんよね?

 でも南條哲さんはそれを知ってはいなかったんですよ」



「あ……」



 そう言えばそうだ。

 この探偵は最初からそんな事は言ってはいなかった。

 南條哲が僕の存在を知っていた、などとは一言も言ってはいなかったではないか。


 つまりだ。

 つまり、僕の推理は根底から崩れる事になる。

 南條哲が僕を知らないのであれば、僕の浮気調査に雇っていた白夜叶愛の話を、舞が南條哲にする確率など皆無ではないか。



「あぁ、それと新橋さん」



「はい」



「こそこそと交際していたのがーーみたいな話を推理している段階で仰っていましたが、お二人は別にこそこそ何てしてませんでしたよ?

 先にもお話しましたが、映画館や服屋巡りなど、寧ろ堂々とデートもしています」



 そう言えば、そう言っていた。

 なんと、僕の推理は穴だらけじゃないか。

 だとしたら、南條哲はどうやって白夜叶愛が探偵である事を知ったのか。

 その部分から話が振り出しに戻ってしまう。



「それにもし、舞さんが南條哲さんの過去を知っていたと仮定するならば、そもそも結果関係なしに探偵を雇った事そのもの自体の事実を隠す筈です。

 “探偵を雇ってまで浮気調査をする女”となれば、離婚した奥さんと変わらない訳ですから、寧ろ南條哲さんの最も嫌いなタイプの女性と言えるでしょう。

 そんなアピールを自分から恋人にしてしまうような女性はいませんよ」



 僕の推理、全否定である。

 どこら辺に50点をいただけたのかそろそろ聞きたい所だ。



「白夜さん、それじゃあ僕の推理は全部間違ってるって事じゃないですか!」



「いえいえ、それがそうでもない部分もあるんです」



「はい?」



 白夜叶愛は微笑を浮かべる。



「言い直します。

 ーー着目点は良かった、と言うべきでしょう」



 僕の頭の中の思考はもつれた釣り糸の如くこんがらがっている訳だが、彼女は何食わぬ顔で続ける。



「桜並木の下で出会った事が悪かった。

 ハッキリと正しかったのはそこだけです」



 訳が分からない。

 意味が分からない。

 最早、意味不明。



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