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差し出がましいようですが。  作者: 花鳥 秋
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出会い

初投稿です。

拙い文章、紆余曲折する構成、右往左往な物語で、お見苦し所が多々ありますが、最後までお付き合い頂けると恐縮です。

 


 運命、と言えば聞こえは良いのかも知れない。

 ただし、この世の現実において、自分にとって都合の良い事ばかりが“運命”になるとは限らない。ーー


 ーーある春の日、昼下がりの午後の桜並木の下。

 風に乗って散る桜の花吹雪。


 そんな、正にドラマの中のようなシチュエーションが、僕、新橋尚弥(しんばし なおや)と彼女、探偵 白夜叶愛はくや かなめとの最初の出会いだった。


 風に揺れる髪に片手を添えながら、微笑を浮かべ、その道の真ん中で桜を見上げているその女性、白夜叶愛。


 白い服に同色の色合いをした長いスカートで全身を一色で染め飾った服装。

 艶のある黒い長髪。透明感すらある肌白さ。

 どこを取って表しても“清純派女性の代名詞”と言う表現がピッタリと当てはまるその風貌。



 あまりに絵になったその光景に僕は大きな封筒を片手に、思わず足を止めていた位だ。


 白夜叶愛、と称しているが、この時の僕は勿論、彼女の性格どころか、その名前すら知らない。


 彼女は僕の存在に気付くと、ハッとしながら、軽く会釈した。


 僕も慌ててぎこちない笑顔で会釈を返す。


 その後、僕は彼女に近づき、勇気を出して声をかけてみた。



「綺麗ですよね…あの、桜が…」



「そうですね、とても」



 なんとも違和感なく。

 柔らかい笑顔を浮かべたまま、桜を見上げた状態で彼女は答えてくれた。

 僕はと言えば、ぎこちない事この上ないが。



「あ、この道はよく通るんですか?」



「いえ、初めてです。

 今日はたまたま、仕事で近くに来たものですから」



 いきなり話しかけたにも関わらず、僕の問いに快く答えてくれる。



「あぁ、なるほど」



 と、答えながらーー仕事?と、思った。

 どっからどう見ても私服に見えるその格好。

 なんなら、お洒落すらしているように見える。


 ーー何の仕事だろう?

 これでまさか、会社員って事はあるまい。


 そう考えていると、彼女は僕の方に身体を向け、きょとんとした様に眼を見開く。


 その後にすぐにクスっと笑う。



「“この人、一体なんの仕事をしてるんだろう?”ですか?」



「え?」



 僕は心中を当てられ、思わず驚きの声を漏らすと



「どうして分かったんですか?僕の考えてた事が」



 と、すぐさま聞き返していた。

 彼女は僕が片手に抱える大きな封筒をチラッと見てから「ふーん…」と、声に出さずに何度か頷き、今度は僕の顔をまじまじと観察する。



「あの…何か?」



 僕が訊く。

 すると彼女はスッと姿勢を戻し、両手を前で重ねてニコっと笑いー「いえ、何も」と、答えてから、こう続ける。



「随分、お疲れのようですね。

 お見受けした所、新人作家さん、と言ったところでしょうか。

 かなり寝不足のご様子で」



「あ、いえいえ、そんな…って、だから、何で分かるんですか?」



 危うく普通に返事をするとこだった。

 でも、ここは聞き逃せない。

 内心だけではなく、次は職業まで当てられたのだ。

 ーーこの女性は何者だろう?

 その疑問が益々深くなる。



 すると彼女はスカートのポケットから、真っ白のカードケースを取り出す。

 長方形のケースの真ん中に小さな金色の梟が装飾されている。



 彼女はそのケースをぱかっと開き、一枚の名刺を取り出し、両手で僕に差し出す。



「申し遅れました。私、こういう者です」



 僕は慌てて封筒を脇で挟み、その名刺を両手で受け取る。


 ーー白夜探偵事務所 所長ーー


 と、彼女の名前より真っ先に飛び込んできた名刺に記された彼女の肩書き。


 僕はすぐに名刺に落としていた視線を彼女に当てた。

 彼女、白夜叶愛は名刺入れをポケットに直してから、僕の視線に気付く。



「? 何か?」



「え、あ…探偵?」



 と、既に脳が処理した情報を確認するように、僕は尋ねた。

 彼女はニコっと笑う。



「はい。あ、白夜探偵事務所所長の白夜叶愛と申します」



 これが、彼女の名前を初めて知った瞬間だった。



「ご依頼の際はいつでも、そちらの事務所の方にご連絡ください。

 事務の者が担当対応させていただいております。

 ただし、ナンパのお誘いなどは営業妨害にも当たるのでご遠慮ください」



 笑顔のまま、すらすらと言葉を並べる彼女には正に取り付くしまもなかった。



「そんな事しませんよ、ナンパなんて」



 やっと返せた言葉はそれだけだ。

 すると彼女はまた、きょとんとした顔で眼を丸く見開く。



「あ…あぁ、そうでしたか。私はてっきりそういうつもりで声をかけてこられたのかと」



 確かに。

 と、妙に納得してしまった自分が恥ずかしい。



「でも、それなら安心ですね。

 それでは、失礼します」



 僕が押し黙った隙にーーという言い方もないと思うが、彼女は軽く会釈を済ませ、僕の横をすり抜け、堂々とした姿勢を保ったまま行ってしまった。


 勝手に話しかけたのはこちらだが、一方的に会話を遮断された気分は何とも言えない後味のような感情を残していた。



 僕は何気なく振り返り、桜並木の一本道を歩いて小さくなっていく彼女の背中を眺めた。


 今思えば、この日じゃなければ僕はこの道を通ってはいなかっただろう。

 前から書いていた小説が出来上がり、出版社に持って行くーーそれは昨日だったかもしれないし、明日だったかもしれない。

 たまたま、今日だったのだ。


 そして、今日、この道を通っていなければ彼女と出会う事もなかった。


 更に言えば、出会ったからと言っても彼女が僕の眼を奪う程の美人でなければ、普通にすれ違っていただけかも知れない。


 この日の彼女との出会いはたった一瞬だったかもしれない。

 だが、奇しくもこの出会いがこの後の僕の人生を大きく左右する事になる。



 この時、彼女の背中を見送りながらーー結局、彼女はどうして僕の考えていた事や職業を言い当てられたのだろう?まぁ、もう会うこともないだろうし、この謎は迷宮入りだなーーなどと考えていたが、それは大きな間違いだった。



 この後、僕と彼女はお互いの運命(と言って良いかは解らないが)によって、実に早く巡り会うことなってしまう。


 ベタな言い回しから入る物語なのかも知れないが、少しだけ付き合って頂けると幸いである。

  これはそんな僕と彼女の出会いの物語だ。



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