すきなもの。 side:B
「さぁ、昼食も済んだところだし、ケーキの打ち合わせといこうじゃないか」
星の王子さま…星野くんはそう言ってその場を仕切る。
さすがバスケ部エースで次期部長とも噂される人ね…とアタシは関心してしまった。
「部長はフルーツが好きなんだけど、フルーツたくさんのショートケーキってできそう?」
「できるが………顔に似合わないな…」
バスケ部の部長のことはアタシもよく知らないけど、顔と噂くらいは知っている。
風貌はまぁ、いわゆるバスケ部部長!って感じでがっしり系。なんだけど…。
なかなか残念…というか…。
学校内の美人を見ればかたっぱしから告白していくっていう残念系。
(そして皆それを知ってて断っていくから、彼の告白のループは止まらない…)
部長やっているくらいだから、普通にしていれば慕われるタイプだと思うんだけどね…多分。
「他にご注文は?」
「ご注文はってまつりちゃん、お店屋さんじゃないんだから…」
「え?特にないよ?」
星野くんはけろっとした顔でそう答えた。
「え?だって打ち合わせしたいって言ってただろ…?」
「あぁ、あんなの口実に決まってるじゃん」
彼はいつも通り笑顔で答えた。
「は?なんの?」
「まぁまぁ」
「まぁまぁって…なぁ…」
口実?口実って、何の口実かしら?
とにかくこのままでは星野くんと仲良くなる折角のチャンスが台無しだ。
出した勇気も水の泡になってしまう。
それはなんとしてでも食い止めなければなのよ!!
「あっ、フルーツでも特に好きなものとか…教えてもらえたらいいかな…なんて…」
フルーツのショートケーキといっても、どのフルーツを重点的に使うかによって色彩が変わったりする。
星野くんの中でのフルーツケーキのイメージがどんなものか、深く知っておきたいと思った。
「あぁ、ベリー系が好きだよ」
「ベリー系……」
「女子か」
ベリー系といえば、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリーが定番かしらね。
う~ん、あの部長さんの顔には似合わない…。
…なんて、アタシが言ったらダメね。
アタシだって、男のクセに女の子のように可愛いものが好きで、甘いものが好き。
スポーツ観戦するより恋愛ドラマを見るほうが好き。
何なら、部長さんと一緒でベリー系のフルーツは大好き。
…こんなアタシが、他人のこと言えるタチじゃない。
言ったらいけないのよ。
反省反省。
「あ、あとベリー系以外には…」
「さくらんぼとか」
「さくらんぼ…」
「女子か」
また可愛らしい…アタシもさくらんぼ大好きよ。
食べるのも、身につけるのも。(さくらんぼ柄ってかわいいわよね!)
「マンゴーも好きだったかな」
「マンゴー…」
「女子か」
女の子はマンゴー大好きよね。
「ていうか多分フルーツ全部好きだよ」
「…………」
「女子か」
えぇそうね。
女の子はフルーツ全部大好き。
あ、でもまつりちゃんは違ったっけ。
まつりちゃんももちろん、フルーツは大好きよ。
でもね、すっぱいやつはちょっと苦手みたい。
キウイとかは特にね。
キウイは基本、結構すっぱいでしょ?
だからフルーツケーキを食べる時は、いつもキウイを避けてアタシにくれるの。
ふふ、可愛い。
「どうした葵、にやにやして」
「え?あ、ううん!なんでも!」
いけないいけない。また顔に出てたのかしら。
まつりちゃんに指摘されて、アタシはニヤけた顔をしっかりと直した。
変なの、星野くんとこんなに近くにいるのに、まつりちゃんのこと考えちゃうなんて。
「星野くんは……。その。どの、フルーツが好き、です、か」
アタシはなけなしの勇気を振り絞って、言葉につまりながらもそう聞いた。
すると星野くんはう~んと唸りだした。
そんなに難しい質問だったかしら…?
「う~ん、どれも、特には……。あぁ、まぁどれも…。うん、全部すき、かな。うん、全部、好き」
「なんだその曖昧な答えは。男ならはっきりしろ」
まつりちゃんのその言葉に、星野くんはたじたじになっていた。
よーし、アイディアがまとまってきた。
アタシはお弁当と一緒に持ってきていたノートとペンを出して絵を描きだす。
「鈴村くん…?」
「しっ、邪魔するな」
2人が何か会話してるような声も聞こえたような気がするけれど、今はそれどころじゃない。
フルーツをふんだんに使ったショートケーキ。
土台のスポンジの形はやっぱり円形がいいわね。
かわいいから。
側面は生クリームで波立たせるの。
なんだか脈動感があって、スポーツ好きなら好きそうじゃない?
てっぺんの部分は、ベリー系が好きならイチゴ、ラズベリー、ブルーベリーを使った赤中心の彩り。
マンゴーやキウイも一緒に添えて。リンゴを使ってもいいかも。
そうこう考えているうちに、ノートにケーキのデザイン画を描き上げていた。
あぁ、楽しい。
「すごいね…」
星野くんが関心する声が聞こえて、はっと我に返った。
あ、アタシってば…。
アタシには集中すると、周りの声が聞こえなくなるクセがある。
今もここまで完成するまで、星野くんの声とか何も考えてなかった。
「お、男のクセにこんなの…キモイ、よ、ね…」
昔からのクセで、かわいいものを考え付くとつい集中して絵にしてしまう。
それを「キモイ」って、「男のくせに」って、言われたことも何度もある。
いつもならこんな感情的に先走ったりしないのに、幼なじみのまつりちゃんがいるからか、つい気が抜けていた。
恥ずかしい…穴があったら入りたい。
考えれば考えるほどどんどん顔がうつむいていった。
だけど星野くんは何も言わない。
不信に思って顔をあげると、まず先に誇らしげな表情をしたまつりちゃんの顔が目に入った。
「すごいだろう?もっと褒めてやってくれ」
「え、あ、あの…」
「ぜひこれを作ってほしいなぁ」
アタシは再度「キモくてごめんなさい」と謝った。
「なんで謝るの?俺はそんな風に思ってないよ?」
星野くんはいつもの優しげな口調より、少し強めにそう言った。
怒ってるのかしら。
怒らせてしまったのかしら。
「本当に…?」
「俺さっき「くだらない」って言ったよね?つまりは、「気にしない」ってことだよ」
そう言って星野くんはアタシの描いた絵を手にしてまじまじと見る。
「君のそういうところは前々から噂に聞いてたけど、気にしたことなんてない。それが君なんだから、そういればいいと思うよ」
「それに」と言って星野くんは絵を置いてどこか遠くを見て頬杖をつく。
「こんな特技があるなんてすごいじゃないか。羨ましいよ」
静かに、とても落ち着いた声で星野くんはそう言った。
どこか悲しげな表情も気になったけど、それよりも今は星野くんがこんなアタシを受け入れてくれてることを知って気分が高揚すると共にほっとした。
星野くんはアタシのこういうところ、気にしないのね…そっか…。
アタシの好きなモノ。好きなコト。
否定されるのはとても多かった。
受け入れてもらえるのはとても少なかった。
もちろん、否定されるのは仕方ないことだって分かってる。
だけどやっぱり認めてもらえたらすごく嬉しい。
だって認めてくれたってことは、少なくてもアタシが嫌いじゃないってことでしょう?
そう思うと安心して、泣きそうになってしまうのよ。