終わりは始まり side:B
「アタシってば、とんでもないことしちゃったわ!」
「今更何を言ってるんだ…」
アタシの幼なじみ、笹原まつりちゃんが星の王子様…じゃなくて星野くんから誕生日ケーキの依頼を受け、一緒にお昼を食べる約束をしてもらった次の日。
お昼休みになるや否や、アタシはまずまつりちゃんを迎えに行き、一緒に星野くんのクラスへと向かった。
「昨日はなかなか寝付けなかったわ…」
「あぁ、それでそのクマか」
恋する乙女としたことか、この日のアタシは珍しく大きなクマを作っていた。
普段はお肌に悪いから夜更かしなんてしないから、クマなんてできたのもホント何年ぶりかしら…。
約束といっても、恐らく星野くんにとってはケーキの打ち合わせのついでのようなもの。
アタシにとっては、正直バスケ部部長の誕生日ケーキなんて、テストの点以上にどーーーでもいいことだけど。(まつりちゃんもみたいだけど、アタシもこの人実はちょっと苦手なのよね)
でも、あの人のおかげでこんなチャンスができたんだもの。少しだけ感謝しておくとしましょう。
「気は確かか葵…」
「え?」
星野くんのクラスの前まできたところでまつりちゃんに顔を覗きこまれた。
「さっきから一人で百面相して随分愉快な顔になっているが…」
「アラヤダッ!ちゃんとしないと!」
アタシは思いっきり自分の頬を叩いて顔を作り直した。
「大丈夫か……?頬真っ赤だが…」
「これは気合が入っている証よ…」
ちょっとやりすぎた。
結構痛いわぁ、コレ。
「…気合入れたならほら、王子に自分から声かけろ」
「えっ」
星野くんの席は教室の入り口から一番遠い、グラウンドが見える窓際の一番後ろ。
アタシは何度もそこに座っている彼を見かけたことがあったから、知ってる。
そちらに視線を移すと、そこには星野くん……を彼を取り巻く男女数人。
しかも結構派手な見た目。
「む、むりむりむりむり…」
アタシはそこで怖気づいてしまった。
「は?いや、昨日王子を誘った根性はどこ行った?」
「いや…だってだってぇ~」
「だってじゃない。ここで私が声をかけたら意味がないだろ」
まつりちゃんがそう言って、アタシの背を押してくれているのは分かってる。
「頑張りたいって思ったから、私に打ち明けたんだろう?」
「………」
でもね、まつりちゃん。
アタシ、恐いのよ。
しばらくアタシが黙り込んでいるとまつりちゃんは「つべこべ言わずに行け!」と言って、アタシの背を押した。
コレは物理的に。
「わぁ!?」
しかも結構力強く押すもんだから、アタシは大仰に顔からすっ転んだ。
「いったぁあぁ~いぃ~っ!んもう~、ヒドイじゃな~いっ!」
「すまん…。あまりにもまどろっこしくて…」
まつりちゃんが手を差し出してくれたのでその手につかまったところで、ふと彼のいる教室内は小さな話し声であふれていることに気づいた。
「なぁ、あの笹原といる男って…」
「あぁ…」
あぁ、まつりちゃんはやっぱり美人だから、注目されちゃうのねぇ。
「オネェなんでしょ?」
本当、こればっかりはどうしようもない。
「葵…」
どうやらまつりちゃんもその声に気づいたらしい。
気遣うようにアタシの名前を呼んだその声は、普段より静かだった。
「え?オカマじゃないの?」
「なんで笹原さんといるの?」
ねぇ、まつりちゃん。
アタシはやっぱり、まだ恐いのよ。
「えぇ~、てか女の子に押されて倒れこむって」
「ウケる」
他人に否定されることも。
「なんで一緒にいるんだろな」
まつりちゃんを巻き込んでしまうことも。
それでもね。
「おいっ、お前ら――――」
皆がそうであるように、アタシはアタシであってどうしてダメなのか、好きなものを好きって言って何がいけないのか、どうしても分からなかったの。