ホド村 盗賊と現実と
ホド村(盗賊団編)
武器を手に入れた僕はスキップをするほどにテンションがあがっていた。
ようやく異世界で冒険者らしい格好に武器にと徐々に染まっている感じがたまらなく気分を高揚させる。
さっそく昔みたいに素振りを始める事にしよう。
どうしようもなく浮かれていた。
チャリンチャリンと鳴る金貨を入れた袋を腰につけているにもかかわらず。
危険と無縁の世界で生きていた事をすっかりと忘れていたのだ。
(待ち合わせの場所にはこの狭い道が近道のはずだ。)
「ちょっと待ちな!坊主。」
声をかけられて立ち止まる。振り返ろうとした瞬間に口を押えられ、首元にナイフを突きつけられる。
「おっと動くなよ?」
そういうと無理矢理に体を持ち上げられる。口に手を充てたまま片手で持ち上げられ苦しさと痛みに抵抗を試みるもより相手の腕に力が入り苦しみが増す。
「へへ、随分と金回りがいいようじゃねえか下男の格好をしてるくせに。」
「ん~!うんううう!」
「抵抗するなって別に殺しはしないさ。ここじゃーな。村に俺達が潜入してるのがバレるわけにはいかねえからな。」
(購入した武器で相手を刺すか?人を刺す・・・人を殺す覚悟・・・でもやらなければ自分が・・・)
「おいおい変な事を考えてるんじゃないだろうな?急に体が固くなったぞ。ガキの考えそうな事だ。股間でも蹴ろうとか考えてたんだろうがやめときな。蹴られた瞬間俺は躊躇せず、お前の首を刺すぜ?」
「兄貴!殺しは不味いだろ!今日の夜までこの村の奴らに気づかせるわけには・・・俺達が親分に殺されちまう!」
どうやら二人組みらしい。コイツを倒して助けを呼べば助かるだろうか。
「わーってるよ。これは変な事を考えていた罰だ。」
チクっとした痛みが首にする。生暖かいモノが首を這っていくのを感じる。これ以上奥に突き入れられれば僕の人生はまたも終わる事になるだろう。次の転生があるとは正直考えられない。
サーっと血の気が失せる。意識すればするほどに体が固くなり息が荒くなる。
盗賊の恐ろしさを実感する。小説やアニメなどの主人公なら誰でも倒せるレベルの盗賊であっても俺は最強だと言って盗賊を簡単に切って捨てることなんてリアルではあり得ないんだ。隠された能力がいきなり発現するなんてことはありえない。現実では隠された能力があろうが努力し育て磨かなければ使えるようにならない。もちろん例外はあるのだろうがそんな幸運が今すぐに起きるわけがない。
昔の体を持っていれば?たしかに迎撃は出来るかもしれない。逃げることもできるかもしれない。
でも今はこれが僕の体・・・いや、10歳の私の体と現実なのである。
これが現実の死の恐怖・・・。あの時は一瞬で痛みも感じる間もなくこの世界まで飛ばされた。
でも今度は?
「おいおい!」
男が手を放し地面に僕を落とす。逃げられる?チャンスなのに立ち上がる事ができない。足に力が入らないのだ。
(くそっ、言う事を聞け!足が・・・動かない!逃げなきゃ・・・)
「チッきたねーな。こいつ、恐怖のあまりに失禁しやがった。オラッ!!」
(逃げな・・・)
ゴンッ!という衝撃を首に受けたと感じた瞬間、意識が闇に奪われた。
「兄貴、いつまでもここにいるのは不味いですぜ!」
「わーってるよ。そこにある樽、中身はあるか?」
「何にも入ってないですぜ。ここに隠れるんで?」
「馬鹿かお前は。俺らが隠れてどうするんだ!こいつを入れて運ぶんだよ。頭目のところに土産としてもっていくんだよ。まーその前にっと。」
そういうと、男は下男が腰につけていた財布を抜き取った。
「なんだこれ!全部金貨じゃねーか!こりゃーすげー・・・これだけででかい家が買えるぞ。こいつはどこの貴族からこんなに盗んできたんだ?」
「頭目に渡すんで?」
「こんだけの金だ・・・盗賊やめた方がいいくらしができるな。今抜けるのは目をつけられるだろうから、この仕事が終わったら抜けるぞ。お前も共犯だいいな。その変わり3分の1をお前にやる。家どころか当分豪華な暮らしができるぞ?」
「ほ、本当ですかい!わ、分け前はそんなに頂けるんで?」
「ああ、一蓮托生だからな。おい!さっさとこいつを運ぶぞ。」
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(・・・しまった。依頼人が拉致された。)
一連の誘拐事件を見ていた者がいた。
「あのなりでも剣聖を目指すなんて言っていたから少しは剣が使えると思っていたのに・・・」
盗賊二人を倒すのは簡単だ。だが、少しでも少年の力量を見て起きたかったので様子をみていたのだ。
それがまさかのド素人だったとは予想外であった。
あんなに平然と財布を鳴らして歩いている子供なんてその辺のチンピラにとっては格好の標的である。
それを堂々としているのだから自信があるのだと思っていた。
(それに自信満々に剣を購入していたのにも関わらず使いもしないとは・・・)
依頼内容を思い出しため息をつく。
(モナ・・・依頼主を送り届けるまでが仕事だから。連れ帰るのは仕事じゃないからね。)
ウェルチは気づかれないように尾行をするのであった。