ホド村 武器を買おう!
-ホド村―
「ん・・・ここは?」
穴だらけの天井が目に入る。
日本では考えられない家だよな。
昨晩が雨でなく本当によかったと思える作りである。
贅沢は言わないがもう少しスプリングのある寝床にして欲しい物である。
そういう意味では王宮のベッドは異世界の物としては良質であった。
この世界は中世のヨーロッパと衣、食、住がやや進歩した程度の技術と生活水準であるようだ。
魔法がある世界であるため、魔法を使える人間自体は少ないが村に2人といれば火や水、医者変わりの魔術師という便利な道具のような存在扱いされるのは当然だろう。元の世界に比べ科学の発展が遅いのはそういった背景がありそうだ。
大きく伸びをすると起き上がり光の差し込んでくる入口へ向かう。
体が痛い。
寝床が藁を引いただけのような簡素な作りのせいだけではなく、夜間を4時間も犬の背中に乗って走り続けたせいであろう。
(まだ、お尻がヒリヒリする。)
入り口を出るとすぐ正面の大衆食堂?のような店の前にウェルチがいた。
「ようやくのお寝覚め。」
待ってましたという表情をしているウェルチに目を向ける。
「おはようございます。随分と早いんですね。」
「ん、職業がら3時間寝れば大丈夫。あとちゃんと美味しい物を食べれれば。」
指を指されたテーブルの先目を向けるとナンのような生地のパンと蜂蜜と得体の知れない卵の目玉焼き?が置いてある。
まあ、鳥の卵よりも少し大きいだろう目玉焼きがなんの卵なのかが気になるが、あえて聞くような事はしないが予想よりも大きい事から決して鶏ではない事は確かである。
「これ?これはね、鳥ガエルの卵。」
「・・・あえて聞かなかったんですが。」
「そう。あえて言ってみただけだから気にしないで。」
・・・そうですか。救いはその鳥だかカエルだかわからないそのものを見ないで済んでいることである。
カエルの卵って普通アレだよね。それが目玉焼きサイズとは想像だけで絵面を想像する描写はちょっと遠慮しときたいと思う。
曲がりなりにも目玉焼きのような物である以上、カエルのような声をした鳥とかであって欲しいと切に願うばかりである。
(まあ、カエルがこの世界でもカエルと言うとは限らないし深く考えないようにしよう。)
「ほら、食べて。おごりだから。カオルの。」
「それって、おごりって言わないですよね?もしかして会計を一緒にするために僕が起きるまで待ってました?二人分の朝食まで頼んでおいて。」
ため息をつきながら席に着く。
ウェルチさんは相当名の知れた人のようなのにセコイのである。この旅が終わるまでは一銭も出す気がないらしい。
モナとの契約で交されていた経費の取り決めがこちら持ちであったようなので仕方がないが・・・
ふと王城より持ってきた高めの金銀財宝や宝石のありったけを頭に浮かべる。
未だにこの世界の金銭感覚が分からないのだがこの二つの袋で旅が終わるまで足りるのか少し心配である。
モナは十分過ぎますよ・・・ギルト上位の人の装備をフルセットで三セット以上は余裕で買えます。これだから王族はと呟いていたのだが、未知の体験というのは人に大丈夫だと教えられていたとしても不安な物である。
宝石類は一般の店には交換材料とか売却とかに出さないようにと注意されたが、両替しない事にはこれをそのまま店に出すしかないわけで・・・。
(そのうちウェルチにでも宝石を売買できる場所にでも連れて行ってもらおう。)
今の所は最終的にはこちらもちであるが、宿代を含めウェルチが支払いを済ませている。
立て替えて後ほど全てを一気に支払う事になっているので旅の最後までは考えなくてもいいのだろうが、その後の生活を考えると色々と事情には通じていた方がいいという事には違いないはずだ。
ウェルチは毎回の出費に対し細かくメモを取っている。少なく渡すことにはないだろう。逆に過剰に取られたりしないとも限らないが、今の所使ったその場でメモを取り確認をしてくる所を見ると騙す気はないと思われる。
(その分、少し高い食事にされてもわからないわけだが。)
他の席と比べると一品か二品程、品が多い気がするのだが剣の道を目指すからには体を作らなければならないだろうから先行投資として割り切れば問題ないだろう。
(元の世界で言っても100円とか200円の加算程度だろうし。)
まー直接僕が対応し、店に騙されて金を多く取られても気づかないだろうから慣れている人にやって貰うのは大賛成なのだ。使ったことはないがクレジットのような感覚だろう。利子が付くかは確認してないが。
そういう意味では朝食のように目の前で何に使うかきっちりと目の前で確認してから提示してくれるのはありがたい。
その後の会計シーンを見て何がいくらで何の金貨で支払うかメニュー表の金額と比べて見ることで学習にもなっている。
(いつまでもウェルチと一緒というわけではないのだから、この世界でも一人で生きていく術を早急に学ばなければならないからね。)
さて、出発まであと4時間ある。
ウェルチの話だとガルムは基本昼から夜にかけて活動するらしく、日が頂上に差し掛かるまでは起きないらしい。
ガルムは安全を重視した馬車などとは違い、スピード重視の夜型の乗り物の為らしい。
村をウロウロとしているとウェルチがふと立ち止まる。
「どうかしたの?」
「ほ~・・・。ん?」
どこかを見ていたかと思うと急に振り返り肩を叩かれる。
「えっと暇だから私は食料や必要になりそうな物を今から調達する事に決めたのだけれど、カオルはどうする?迷子にならないなら別れて行動する?」
「どうする?と急に言われても・・・。」
「下男だったんだし、買い出しとか自分でできるよね。自分のものとか買うといい。太陽が頂上に来たらここで合流しよう。うん。それがいいと思う。」
まさかの急展開。十五行くらい前の僕の少しづつこの世界に慣れるよう頑張ろう!の決心をあっさりと無視して放り出される事になる。
ウェルチは僕を放置してさっさとどっかに行ってしまった。
(ああ、今日は太陽が眩しいな。)
案内役のみならず、身辺警護もウェルチの仕事に入っていないのか?などと考えているうち30分くらい無駄に経過してしまう。
周りからずっと見られてるし仕方がない。行動しよう。
ようは海外に来た(でも語学は完璧に理解できる)と思えばきっとたいした問題は起きないはずである・・・・たぶん。
よし、とぐっと拳を握る。
そうと決まればやることを思い浮かべる。
「旅といえば衣服の替えだろ?あとはタオルに歯ブラシ・・・歯ブラシってあるのだろうか?あとはシャンプーとかリンスーとか・・・おや、意外と必要な物多いな。この世界にあるかわからない物だらけだが。でも城には石鹸があったからそれらしきものもあるだろう。あとは武器だな!」
待ちにまった冒険の始まりだ。剣聖への道の第一歩といったらやはり。
ここだろう!
-武器屋にて―
寂れた村。
その一角にある武器屋というか防具もある装備物なんでも屋?のような所である。
ここしか街にはないようだから仕方があるまい。
「誰もいないのか?すいません!」
「あ?おお、すまねーなってなんでー。お嬢さん?いや、坊主か?とにかくガキが何のようだい?」
「ガキじゃなく客なんだが。武器と防具を見繕ってくれない?」
「いくつだ?」
「二セットくらい。似合うのを比べて決めたい。」
「ちげーよ。歳だ歳。」
態度の悪い店主である。武器屋というと荒くれ者や冒険者が買いに来る場所であるのだから店主もそれなりの見てくれと強さは必要なのだろうが・・・
「今年で11歳。」
「おいおい。冒険者ギルドに登録するにしても4歳も歳が足りてねーじゃねーか。ごっこ遊びや練習用の子供の武器はうちにゃーおいてねーぞ。」
年齢規定があるのか冒険者。
強ければ何でもいいと思っていたし、前の世界のゲームだと始めたばかりから普通に冒険者の称号を持ってたりするから気づかなかったが、そうか年齢制限なんてものもあるのかリアルにすると。
「とにかく。剣が欲しいから売ってくれ。」
「何に使うんだ?子供が。まさか復讐とか敵討ちとかいうんじゃないだろうな?え?やめとけやめとけ。」
困ったような目をして見てくる。
それもそうか。普通は11歳の子供が単身で武器屋に乗り込んで武器が欲しいなどとは言わないのだろう
。
15歳の誕生祭に結婚など色々と話が15歳を起点にしていることからこの世界では15歳というのが成人のような扱いになるのだろう。
「敵討ちや復讐なんてしないよ。僕はこれから剣を習いにいくのさ。それなのに武器の一つもないんじゃまずいだろ?それに、旅の途中に何かあった時に自分の身は自分で守りたいから武器が欲しいんだ。」
「筋は・・・通っているのか?まあ最近、盗賊団がこの近くに現れたって話を聞いたしな・・・まー金さえ払ってくれて、すぐにこの村を出ていく人間に売るんのであれば俺としては問題ないんだが・・・坊・・お客様にはちとな・・・」
「坊主でいいよ。とにかく見繕ってくれ。出来ればカッコいいのが欲しい!」
「いや、カッコいいってので武器を選ぶのは三流って坊主に言ってもしゃーないが・・」
店主はめんどくさそうにしながらも、店の奥から2本の剣と一本の短剣を持ってきた。
「金があるの前提で持ってきたがうちの最高品と普通レベルだが扱いやすい短剣だ。」
店主は二つの剣を目の前に出す。
何か言いたげな表情である。
どれどれと二つを見比べてみる。短剣かよ!というツッコミはもう少し取っておくとして。
片方は街中でもよく見る短剣である。新しく納品されたままのような状態の刃こぼれのない一品。
もう一つは、お世辞にも綺麗とはいいがたい柄の短剣である。けれど、使い慣れたというか何かありそうな気配がする。それに城の魔法使いが使っていたような杖のようなこうモヤモヤっとした感じがする。剣なのだが。
「こっちの古びた短剣が欲しい。何となくだけど。というか長剣ないの?」
「5年早いわ坊主。長剣なんぞその身長で持てると思うのか?引きずるだけの姿を想像できないのか。実用的なのは短剣だ。そもそも、長剣なんぞ振るわなければならない相手になんぞと出くわしたら諦めろ。その歳で勝てるわけがない。」
「ぐ・・・たしかに。色々と正面からは難しいかもだが・・・」
「ところで坊主、何故この短剣を選んだ?普通の坊主なら綺麗なカッコいいこっちを選ぶと思うのだが。」
「ん?だってこっちはただの剣でしょ?こっちは何かこう秘めた何かがありそうな雰囲気というか。」
「ほほう?」
両腕を組み続けろと言わんばかりの態度をとっている。
「えっと、そっちの剣は普通の剣。で、こっちは例えば魔法使いが持っている杖のような何か付与されているような?実際触ったこともないからわからないけどそんな感じがですね・・」
説明し始めるとこの感覚をどう表現したらいい物かと段々と語尾が怪しくなっていく。
「お前さん、このレベルの武器を持つ魔法使いの知り合いがいたのか!?」
「知り合いってほど知っている人はいないけど。」
「普通生まれた時に適性を神父様かシスターに見てもらうはずだが・・・お前さんの適性はなんだったんだ?」
なんだそれは、この世界の人間は適性とか皆知っているのか。
そういえば、適性なんて聞いた事なかったな。そもそも何も触らせてもらえなかったのだ。
「えと・・・聞いた事ないです。」
「そうか、仕方がないか。その歳で下男という事は孤児だったのだろう?」
憐れむ視線を向けられても見当違いもいい所なのですが一応、心の中で突っ込んでおきます。お姫様でしたので箸より重い物を持った事がありませんでした!
「そうか・・・生きていく上で剣を学んで冒険者になりたいってわけか。でも、盗みはダメだぞ。金があるとか言っていたが。」
「そういえば、大抵の物は金貨一枚で足りると言われたのですがそれで足りますか?」
「金貨一枚とは大金じゃないか!ん?子供の金貨一枚?お前さん。」
「いや、出ていくときに貰った選別みたいなものですが・・・(盗んだともいえなくはないが。あのまま過ごしていたら未来的には私のだったはずの・・・私の物みたいな物でもないような?あれ?どうなんだろう。)」
「やはり金貨一枚の選別か!仕方ないこれは金貨一枚と銀貨5枚相当だが銀貨分はまけてやる!強く生きろよ坊主!いや嬢ちゃん!辛かったろうに。」
「いや、全額払えますが。」
「いやいや、それ以上は取っておけ少ない生活費だろ?うんうん。金貨一枚さー出した出した。その身なりからして貴族から追い出された娼・・いや言うまい。辛い一年を過ごしたのだな。その歳で。それによく生き延びたな。あの隣国の変態王子から」
「いやいやいや、まだこれを買うとは。それに何を想像した!?」
「いいんだ坊主。いや嬢ちゃん。武器の説明しておくとこれは魔力を込めると込めた魔力だけ剣から魔力の刃が伸びるというユニーク武器でな。見た目は短剣だが、魔力を込めると短剣と長剣の間くらいの長さまで伸びるんだ。魔力だから伸びた刃分には重さを感じないという優れものでな。魔法の魔の字も知らないだろう坊主では10センチも伸びるかわからないし切れ味も魔力の質で変わるらしい。いい武器だが魔術の素養がないと宝の持ち腐れな人を選ぶ武器でな。少し刃こぼれしているから金貨一枚!この値段で構わんよ。刃を修復できる者がこの村にいなくてな。中古品感が見た目からしてあるがそれでもこの値段以上の価値のある剣だと俺は思う。大事にしろよ。」
(もういいやこの剣で。確かに少しずつ大きな剣にしていけばいい話だしな。)
この前の酒場での一件を思いだし、今の身長と自身の筋力を冷静に判断する。
「うん、決めたよ。おじさん、この剣をください!」
「よし!まいどあり!少し使い方を教えておこう。この剣を感覚で魔力が通っていると感じたんだ、魔術師の素質がありそうだから使えるようになるだろう。俺は魔力はからっきしで説明しかできないが聞いた話だと、こう丹田?とかいう所で練った魔力の元をその武器まで力を流して伸びろと念じる。すると刃が出るらしい。すまんなこんな程度の説明で。」
「ありがとう。それに僕は短剣として元々これを使うつもりでいたんだ。購入を決めたんだ。魔力の刃?が出なくても少し刃こぼれしててもこれで物を切れるのなら問題ないよ。少しづつ練習してみるけどね。」
僕は剣を鞘にしまうと早速服の上から腰に巻き付けてみる。
「違う違う、剣を見せびらかしたいのはわかるがお前さんの歳でその身なりで身に着けるのならば服の中だ。いざという時の為に持つのならば相手にわからない方がいい。お前さんの歳なら盗賊に捕まっても身体検査なんぞされないだろう。逃げる為、守る為の力として使うなら隠し持っておけ。それに都市や関所の警備兵にでも見つかってみろいい笑いのネタにイジメられるに違いない。」
堂々と冒険者のようにしていたいのだが、子供が刃物をぶら下げている光景を思い浮かべる。
日本のように警察・・・警備兵とかに職務質問されれば確かに厄介な事になる。
「わかった。ありがとうございました。」
武器を調達。目標をまずはクリアした。なんか思い描いていた異世界の冒険と色々と違うがこれが現実なのか・・・まだ時間はありそうだし村でも散歩しがてら買い物してるか。