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姫様転生 -運命の歯車をぶち壊せ-  作者: ねこねここねこ
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目的地へ 

―ガルムの貸し出し舎―


 ガルムって何?

 

 僕は依頼を受けてくれた女とともに酒場から遠ざかり、街の外れの乗り物を貸し出す店の前に来ていた。

 

 「遅かったな。閉まるギリギリだ。ウェルチ。」


 モンクのようなガタイのいい男が仁王立ちしていた。


 「めんごめんご。これレンタル料。」


 「あいよ、確かに。今貸せるのはうちで3番目に足の速いこの子くらいだ。頭はいいから必要なくなった場所で乗り捨ててくれればいい。勝手に帰ってくるからな。6日くらいの距離なら問題ないだろう。」


 「わかった。じゃ、それ借りる。」


 随分と慣れたやり取りである。この世界では普通の事なのかもしれないが。

 車のレンタルの貸し出し契約のような物なのだろうか?ただしこれが。

 

 「どうかした?」


 「え・・・と。これに乗るの?」


 「ん?あたりまえ。馬で行ったら10日後の夜になってしまうもの。」


 やはりこれに乗るらしい。

 僕はこれを見上げる。

 頭が二つある犬?にしては大きいそれを見上げる。

 あと一つ頭があったらケルベロスって大層な名前がつきそうなんですけれども。


 「ほら、乗るよ。馬のように鞍に跨りなさい。ほれほれ。」


 そんな当たり前のように普通に言われても前世でも馬に乗ったことがないのですよ。

 城では乗馬はマナー研修に目途がたったらと言われていたのだ。

 馬は人を見ますからね。今の貴女では無理でございます。とはメイド長のお言葉である。


 ウェルチの後ろに乗る。この人そういや、ウェルチっていうんだ。説明されたような気がするが覚えていないのは何故だろう。(解:妄想中に説明をされていた為。)


 「うわっ、獣臭っ!」


 「当たり前。魔獣の背中に乗っているんだ。」


 「魔獣!え、魔獣!大丈夫なのこれ?」


 「何を言っている。それにしても変な奴。貴族の下男だったなら世話とかしてなかったの?大抵の貴族の家にはいると思う。」

 

 「いやいやいや、魔獣=敵でしょ?」


 「家畜と同じ。魔獣だって、モンスターだって害のないやつはいる。魔獣はそもそも魔法が使えるから魔獣であって、こいつは野良の狼よりも賢い分、ちゃんと躾ければ人のいう事も聞く。犬が賢くなって魔法が使えると思えばいい。犬と人間の友好的な関係に、信頼した人間を守ろうと魔法を使ってくれるより忠犬な存在だと思えば関係がわかりやすい。ペットね。」


 異世界ショックである。どう見ても、とあるゲームに討伐レベル中級くらいで出てくるであろうボスにしか見えない。

 それに魔獣と共存というのはファンタジー的にどうなのよ。魔獣=全部敵の方がわかりやすくない?

 それに帰りは乗捨ててってこんなのに道端で逆方向から向かって来られた側はどう思うよ。

 パニックどころか冒険者なら剣抜いて臨戦態勢だろう?


 「それ、行くよ。」


 声をかけるとそれに反応し、ガルムが立ち上がる。

 

 「ワンッ!」「ヴォォン!」


 おい、普通の犬が一匹紛れているぞ。どっちの首だ。

 

 「それじゃ、出発だ。」


 ウェルチの声とともにガルムが歩きだす。あ、これ3時間もお尻が持たないかもしれない。

 


―5時間後―


 深夜深くの街道。魔物は出るかもしれないが、大丈夫だろうとの事で休憩をもらう。

 トイレというのもあるのだが、今の僕の歩く姿勢は老人そのものである。

 これ、絶対に尻の皮剥ける。あと数時間乗ったら間違いなく出血する。

 ウェルチに一人で大丈夫だといい、少し離れた川の近くで用を足す。


 「近くにウェルチがいるのがわかっていても、この体勢は怖いな。」


 いい加減に女の体には慣れたものの、野外でのトイレというのは・・・

 

 「男と違って周りを警戒してできないのが怖いな。茂みとか立ってれば何か見つければ、即逃げたりできるけど、この体勢だと茂みから出てきたやつと目線が同じになるよな。色々とこの体勢は怖いものがあるな。」


 用を足すとガルムの待つ場所まで行く。


 「思ったよりも、時間がかかるかもしれない。これは少し不味いかな。」


 ウェルチがその辺に落ちていた木の枝で地面に何かを書いている。


 「これは?」


 「ん?来た道の時間と場所の位置の特定、あとはどれくらいで休憩を取りつつ進むかを計算していた。」


 「予定の5日後の昼には着かないと。」


 「まあ、貴方が我慢してくれれば行けるけど。無理でしょう?」


 「無理ですね。」


 即答する。


 「わかった。近くにホドの村というのがあるからそこで夜を明かして朝になったら動き出しましょう。貴方の主が追手を差し向けると面倒になりそうだから早く国境を越えたかったのだけど。不思議、今の所、どちらにも追手が来ない。」


 「まー、追手は来る時は凄いのが来そうですね。」


 「おーそんな凄いの来そうなの?カリエス子爵の所にそんな刺客なんていたっけなー。名前が売れてる奴ならちょっと戦ってみたいかも。」

 

 見た目の容姿と違いこの独特なテンポの喋り方を聞くと全然はしゃいでいるように見えないが、目がキラキラと戦ってみたいと訴えてきている。


 「そこそこ有名かもしれません。クライムとかだったらどうします?」


 「なーんだ。脅かすならもっとましな名前出しなよ。国の最強が下男なんて追手来ないよ。でもそんなの来たら私でも一瞬で殺されかねないよ。」


 「そうなんだ。」


 「そりゃそう。この国の剣聖なのよ?」


 馬鹿にしたような態度であるが、これが来ないと言い切れない所が申訳ない。

 一応はこの国の王女らしいのです、この下男。


 「ん?今なんと言いました?」


 「へ?国の最強がクライム?」


 「もうちょっと後です。」


 「クライムがこの国の剣聖?」


 「なんてこった!習うべきは城に居た天敵のイケメンだったのか!」


 目標があれだったとは。強いとか自分で言っている奴は早々に倒される死亡フラグ持ちかと思っていたのだが、最強とか・・・。


 でも、剣術を教えてくれないのだから仕方がない。

 

 そういえば、下男って事になっているんだよな。

 今後、日中に行動する際にいつまでもフードを被っていたら怪しく見られるかもしれない。

 でもフードの下の外見を知られていたら足が着くかもしれない。

 日中は取ることになると考えると少しは容姿を変えていた方がいいかもしれない。

 この長い髪くらい切っておくか。


 「あの。ちょっとだけその短刀借りられます?」


 「何に使うの?基本、普通の冒険者や暗殺者は自分の獲物(道具)を他人には貸さない。」


 「髪を切りたくて。少しでも足が着きにくいようにしたいんです。どこかの街に入った時にフードを外したらと思うと、下男のくせに髪が長いので。特徴的過ぎるでしょう?」


 「髪が長い下男ね。もしかして、仕えていた男の趣味?いるのよね・・・そういう変態貴族。そりゃ貴方も逃げたくなるわね。今度詳しく教えてね。」


 残念ながら男×男ではないのですよ。でも、どこの世界にも変態はいるんですね。


 「これなら使ってもいい。」


 「ありがとうございます。」


 「なんなら切ってあげようか?暗いし切りにくいと思う。」


 (げっ、バレないだろうか?でも、顔を知られてなければ・・・暗いし大丈夫か?)


 けれど、自分で切ってあんまりにもギザギザのバラバラのヘアースタイルにするのも嫌である。

 剣道部時代、面を被るのに長い髪がウザったくて自分で短めに切ったら後ろがとんでもないことになり、行った先の床屋ではこれはひどいねと言われたのちに揃えてあげると言われた結果が坊主にするまで床屋に切られるという事件が過去にあって以来、信用できない床屋と極力自分で切るのは嫌なのである。

 迷うが・・・この国の普通のヘアスタイルというのをそういえば知らない。城とか長い髪の人しかいなかった気がするし。

 

 「・・・お願いしてもいいですか?」


 「ええ、任せなさい。こう見えても上手よ。昔はモナの髪も切っていたしね。えへん。」


 「へ~」


 僕はフードを脱ぐとウェルチに背を向ける。

 

 「少し、暗いわね。火は使える?ぽち。」


 「ワン!」


 辺りが照らされる。


 へ?


 どっちの首かわからないが、犬が火の球を作り浮かせているのだ。


 「優秀だね、君。少しの間そのままにできる?あとでご褒美のお肉を進呈しよう。」


 当然だと言わんばかりにワン!と吠えるとその火を維持している。


 ・・・・バレるんじゃね?これ。思ったより光が。


 「へー綺麗な髪をしているね、シルクみたいな髪触りだよ。確かにこれを伸ばしたままにしたいという貴族の考えはわかる気がするわ。それに珍しいね。赤い髪してるんだ。」


 「そ、そうですか?僕の故郷では普通でしたよ。」


 「確かにこれを切るのはもったいない。長くさせてた気持ちもわかるわね。本当にいいの?」


 「はい。バッサリと。具体的には肩くらいにはして欲しいですね。」


 「仕方がない。切った髪はもらっても?髪の収集家がいてねー」


 「お願いですから止めてください。」


 この世界に鑑識なんて発展した化学技術はないだろうが魔法がどこまでできるのか僕にはわからない。

 収集家の男が髪を集めるだけでなく、魔法でその人を特定でき妄想で色々とやらかすなんて事も考えられるのだ。少しでも危険性は排除した方がいいだろう。


 「そう、それは残念。」


 言いながらも手を動かしているウェルチさんは本当に慣れているようでザクッザクッと髪を切り落としていく。


 (自分の髪だが触り心地いいな。この髪一房取っておこうか。)


 そうこしているうちに、終わったらしい。

 

 「ありがとうね、終わったわよ。」


 ありがとうと言葉をかけられワン!と吠えるガルム。確かに頭がいいらしい。

 火を消してお座りをしている。


 「はい。ご褒美。」


 ウェルチさんはガルムに肉を与える。

 漫画肉です。骨付きです。普通に美味しそうです。

 ガルムは美味そうに両手で骨を持ち、喰らいついている。

 こうして見ていると犬にしか見えない。


 「感想は?」

 

 懐から鏡を貸してくれる。暗くて見えずらいが自分の顔がはっきりと写しだされる。


 「お、なかなかいい感じ。」


 「そうだろ。そうだろ。」


 両サイドの髪が少し長くしてあり肩にかかるくらい、後ろはそれよりも短いがうまく短く揃えてある。

 女性向けのショートヘアで中央よりやや右から髪をわけて軽くサイドに流した感じで、それに横から二本の長い髪が生えている感じ。

 うん、男のヘアスタイルというより女性のヘアスタイルのような気がする感じの仕上がりだけど普通に上手いなカット。うん、可愛いな。


 「そうそう、あと5日間も一緒にいることになるんだ。仮の名前でいいから教えてくれない?」


 「そういえば、まだ名乗ってませんでしたね。」


 「まー名乗らない依頼者の方が多いんだけどね。私の仕事柄。暗殺が多いから。」


 笑顔でそんな事をサラッと言わないで頂きたい。


 「僕の名前は、カオルで。」


 「わかったカオル。宜しくね、さっそくだけどもう少し我慢してねカオル。村に着いたら少し長く休みをとるから。」


 「わかりました。」


 僕は頷くとヒリヒリするお尻に鞭を入れガルムに跨るのだった。








 

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