籠の中の鳥は隙を見つけたら抜け出すのです。
社交界より早数か月・・・
この世界に来てからすでに半年が経過していた。
初めは戸惑うことが多かった生活も少しづつ慣れてきている。
肉体の違いに初めは戸惑いもあったが、自分の体であり生活する上で毎日使う必需品であれば嫌でも慣れる。
何故か初めから言葉を喋れているなどというファンタジーにお決まりの展開に関しては今更考えても仕方がないのでそういうものだと思っている。
もしくは体が〇ラーニングのように聞いているだけで覚えてくれていたのかもしれない。
そんなこんなで異世界に来て半年も時間が経過したのだが、僕は毎日を朝起きて、食べて、勉強して、マナーを覚えて、食べて、勉強して、ダンスを覚えて、休憩して、食べて、風呂に入って眠るといったサイクルの歯車にガチガチに固められた生活を強いられていた。
そんな囚人のような僕の皆様の評価はというと以下のとおりである。
メイド長は僕の事をこう言う。
「王子様だったら立派なお方になったでしょうに。」
・・・・遠回しに女としてダメだコイツと残念がってますよね?
騎士の人々は僕の事をこう言う。
「もう少し、女らしさがあればいいのに。王女というよりも王子だな。」
・・・・18年間男だった僕に半年で何を期待しているのか。というか10歳にそれを求めるか?
両親に関しては僕が生きていてさえしてくれれば別にといった放任主義。
まあ、王や王妃には政務やらなんやら仕事が多く、構っている暇はあまりないといった様子である。
10年人形のように反応のなかった娘にどう接していいか戸惑っている所もあるのだろう。
予言から外れないように生きてさえくれれば特に言うことはないらしい。
最近の僕は周りの期待やら噂話やら生活サイクルとかに色々と鬱憤が溜まってきている。
予想していた異世界生活と違い過ぎるのである。
確かに前世での生活を考えると今の現状は十分に裕福すぎる王族という現実離れし過ぎている生活であるのだが。(性別すら超えてしまったのだし。)
けれども、それはそれ、これはこれ。
異世界に転生したにも関わらず、剣も学べない。それならばと使う興味はないが魔法のある世界に来たのだ、誰かが魔法を使っているのを見てみたくはある魔法もまともに見せてもらえないし、教えてももらえず。隠れて剣すら握らせてもらえないこの状況に嫌気がさしてきている。なによりも自由がない。
なんだこの土日も休日もない毎日地獄のローテーション勤務体系は。ブラック企業にも引けを取らない詰め込み式の受験生指導の個別監視レッスン体制ですよ。
とにかく僕は籠の中の鳥状態なのである。
興味がある剣術の稽古をしている兵の訓練場を色々と抜け出して訪れてみれば
「姫様、危ないですから落ちている剣を拾うのを止めてください。」
「枝を振り回さないで下さい!棘が刺さったら大変です。」
と言われ剣や棒切れすら扱わせてもらえず。
この世界はファンタジーだ!魔法が見たい!と魔法部隊の訓練所に忍びこもうとすると魔法を拝む前に
「危険ですからおさがり下さい!姫様は魔法なんて覚える必要はございません。有事の際は我々が全力で守ります。ですからここには二度と来ないで下さい。」
と注意されたうえに5回目に忍び込もうとしてバレた際には本気で出入り禁止されてしまった。
姫様を見かけたら即メイド長へ通報という張り紙が入口に張られてしまうありさまである。
オカシイ。僕の知識では王族でも身の危険を守るために護身術を学ぶのではなかったのか?
ライトノベルという辞書にはよく王女がなんたら国技の優秀な使い手であるとかそのような記載があったのだが。
どうしたら剣術が覚えられるだろうか?
剣術の訓練を終えたクライムをある日捕まえることにする。
「クライムさんや・・・ちょっと。」
「・・・姫様、失礼ですがなんですかその変な言葉使い。またメイド長に怒られますよ?」
嫌な予感が既にしているのかクライムは嫌そうに近くに寄ってくる。
「相談がありまして。実はちょっとでいいから剣術を教えて頂けないかと。」
ニコッと笑うと笑顔をニコッそのまま返却してくださる。
「ダメですね。」
をい!
「そこをなんとかクライム様。」
必殺DOGEZAをしてみる。
「何をしているのですか!止めてください!王女様!」
その後、あと一押しといった所でたまたま通りかかったメイド長に見つかり、王族がみっともない格好をとか頭を気軽に下げるなんてなど、みっちり2時間程の説教を貰いました。
という訳で、作戦変更。お色気作戦を実行。僕は女になったのだ!私に興味のある人に頼む作戦。
「どうしましょう。わたくし暇ですわ・・・剣術を習わないと死んでしまいそう・・・叶えてくださった方には姫様とのデート券が・・・ちらっ」
あれ?モーゼの何とかみたいにサーっと人がいなくなる。
「いやいや・・・姫様の気持ちはわかりますよ。でも可哀想だけど剣を勝手に持たせて怪我をさせたりしたら俺達は処刑もんですよ?」
「デートっていってもな・・・王妃くらいなナイスバディならともかく親子の買い物だろ腕繋いでても。」
「馬鹿、アイツが説得しているのに余計な事を言うんじゃねーよ!」
「剣術に興味あるみたいですけれど俺ら怪我でもさせたらどうなるか。姫様ならわかってもらいたいものだよな。」
・・・この生まれながらにして持たされた 称号姫 まじで使えない。
―そのまた数日後-
「作戦会議を致します。」
僕は半年で仲良くなった僕付きの新人メイドのうちの一人を部屋に呼んで夜中に会議を開いた。
彼女の名前はモナ。奴隷出身のメイドらしい。
本来ならば王宮にメイドとして迎え入れられることはないはずなのだが、僕がガチガチの宮使いのメイドが嫌いであった為、仕方がなくクライムが彼の実家から連れてきたらしい。
彼曰く、彼の父親が彼女を助けて拾ってきたらしい。
彼の家でメイドとして働いていたモナの噂を聞き国王がダメもとでスカウトした形らしい。
とにかく、僕のお気に入りのメイドである。
普通に話せる普通の女の子なのである。
一所懸命であり、時にドジでおっちょこちょいでもある彼女、そして外の世界を教えてくれる貴重な存在なのである。
見た目?メイドは優秀か美人かどちらかか、両方兼ね備えているかと相場が決まっている。
と、言っておいてなんだが彼女は普通といった感じでめちゃくちゃ美人であるわけではない。
僕よりも背も胸も体つきも大人だ。18歳らしい。そうか合法年齢か。この世界ではわからんが。
そうか・・・うむ。まったくもって問題ないレベルだな!彼女いない歴の僕にしてみれば。
だが、今の僕は女なのである!押し倒した先がない!
・・・はあ。
そんな事情を知らないモナは緊張しているようだ。
「マリア姫様、私が姫様と寝室を共にしたというのがバレたら・・・」
「私が、全力でモナを守ります。気にしないでください。何だったら愛人と言いますので。早く布団に入りなさい。メイド長が見回りにでも来た時にモナが立っていたら面倒です。暗殺とか思われかねない。」
「え、暗殺!?全力で守ってください!中盤の愛人というのはちょっーと複雑と言いますか・・・できたら男の人に愛されたいですけれども、マリア姫様だったらでもと考えちゃう自分が・・・」
「本題からそれています。黙りなさい。」
デコピンをして現実に引き戻す。
「あうっ。」
痛そうに額を押さえている。涙目になることはないだろうに、軽くしたのだから。
「あと、この場ではマリアと呼び捨てにしてください。」
「うう~だってマリア姫様はマリア姫様じゃないですか・・・・」
「デコピン」
「あうっ、あうっ、わかりましたから連続は反則なのです。」
「マリアさ・・・ごめんなさい!だからデコピンは・・・マリアは何を決めたいのですか?」
涙目になりながらモナがロクな事を言い出さないようにと祈っているかのような顔をしている。
「それはですね・・・って」
モナはベッドに上がり、布団に入りこむと直前の表情をコロッと忘れたようで、こんななのですね!姫様のベッドはと嬉しそうである。警戒されるよりはいいのだよ。こんな程度で女の子に喜ばれるなんて嬉しくはあるのだが。
「だから、会議なの!議題をいうの!き~く~の~!」
おっといけない肉体年齢相応の態度をとってしまった。
はっ、いけないと表情を戻してモナが真剣にこちらを向く。お互い横になり見つめ合う形である。
「ゴホンッ。では第三回、剣術を習うにはどうしたらいいか。を始めたいと思います。」
「第三回ですか?」
「気分です。お気になさらずに。」
「はあ・・」
「単刀直入に言うと僕は剣術とか習ってみたいのです。」
それは、ちょっととか言わない。
変な会議に呼ばれてしまったとか今更後悔したという顔をされても遅いのだ。
「でも、この城の方ですと誰も教えてくれないのでは・・・」
「そう!そこです。なので、私はこの城を抜け出そうと考えております!家を出ます!」
「へっ?ふえ~!!」
「ちょっ、声でかい。あの地獄耳のババアが来ちゃうだろうが!」
「ん~・・・んん~!」
この世界に来て久しぶりに素が出ちゃったではないか!本当に怖いんだからなあの冥土長。
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
!!
!?
ギ―・・・
エスパーか!デ○ルイヤーか!
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
モナの頭を布団に無理矢理仕舞い込み抱き寄せる。
ちっちゃくなれモナ!頼むから!
冥土長という共通の敵とわかってくれたらしいモナは死んだように大人しくなっている。
モナの事だから本気で恐怖のあまり失神しているかもしれないが・・・本当に生きてます?
「よくお休みのようですわね。マリア姫様の声が聞こえたような気がしたのだけれど。気のせいですわね。失礼致します。王女様。」
ギー・・・・パタリ
コツ・・・コツ・・・コツ・・・・
「もういいぞ。モナ。」
・・・・・
「モナ?」
ギー・・・
「ひっ!・・んぐ。」
悲鳴をあげかけた口を布団から伸びてきた手に塞がれる。
「ふむ。私も老いたのかしらね。感が外れるとは・・・今度こそおやすみなさいませ。」
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
・・・・
・・・・
「ふう。もう大丈夫みたい。もう、マリアがあんなこと言うから。」
「び、びびった。チビリカケタヨ。」
「さすがですね。メイド長。」
少し楽しそうにモナが笑う。あ、この笑顔は妹が何か隠しながら企んでいる時の顔にそっくりだ。
けれどこの藪をつついて蛇以外が出た記憶は皆無である。なのでスルーしよう。
あ、ちなみに生前は両親と妹一人の四人家族でした。過去形ですが。
「あの~さっきのマリアがこの城から抜け出したいというのは本気ですか?」
「本気も本気です。ジョブチェンジを希望します。」
モナは何やら真剣に考えているようだ。ただしジョブチェンジの意味は解らなかったらしい。
「もし、この城を出れるとしたら、私に何をして頂けますか?」
「何か欲しいものでもあるの?」
「はい。もっとも物ではなくて呪いの類、契約魔法の解除なのですけれど。」
モナはそういうと静かに答える。
「奴隷契約書の解除です。」
リアルの仕事が・・・書く暇をオクレ・・・