ホド村 謎の少年との賭け
金髪の少年がそこにはいた。
見た目の歳は同じくらいに見えるのだが物腰というか雰囲気というかがもう少し年上のように感じる。全身を黒で纏った少年は牢屋の錠を見るとどうしようか?と首を傾げる。
「助けてくれるんじゃないの?」
「ん?んーそれでもいいんだけど・・・・自力で出られないの?」
「何も持ってないんだから出れるわけがないだろ!」
「そんな言葉づかいは止めた方がいいよ?女の子なんだから。」
「そんなのどうでもいいから早く開けてくれよ!」
「あのねー。助ける側の気分にもなってほしいな。捕らわれのお姫様を助けるっていう図が台無しだよ。」
やれやれと言った仕草をワザとらしくとるとブツブツと何かをいい錠に手をあてる。
「さっきから隠れて見ていたけどまるで男の子みたいな仕草だね。少しは自分を知った方がいいよ?」
「・・・うるさい!僕は僕なんだ。」
「これ、君の剣だよね?」
取られたはずの剣を少年が持っている。取り返してくれたようだ。
「何か勘違いをした目をしているけれどもこれは僕のモノだよ?」
「違う!それは僕が武器屋から買った物だ!」
「いいや、違わない。どうやら根本から君の考え方を変えないといけないようだね。これは予想外に大変そうだ。」
何を言っているのかはよくわからないが剣を返してもらおう。剣があれば何とかなるかもしれない。
「わかりやすい目をしているね。まず、今の君の感じだと剣を渡したとしてもこの牢から出ることは出来ないと思うよ?君がもっと色々な事を知れば話は別だろうけど。」
「意味の分からない事ばかり言ってないで早く助けろ!」
「ならば僕と賭けをしないかい?僕に勝てば君を助けてやろう。そしてなんでもいう事を聞いてあげよう。」
そういうと、剣を投げてよこす。
「君が負けたらどうする?」
少年は結果がわかっているといわんばかりの表情だ。呆れ顔をしている。
そこまで馬鹿にされて引くわけにはいかない。剣聖を目指す身としては剣さえあればなんとかしてみせないといけないだろう。
「じゃー僕もなんでもいう事を聞くよ。」
「やっぱそうきたか。困ったお姫様だね・・・・世界を知らなさすぎる。内容はわかっているんだろ?時間は5分だ。異論は?」
「・・・ない。絶対に僕ならできるはずだ。」
「あっそ。んじゃ、始めてくれ。僕は先に君の荷物を用意しておくよ。」
スタスタと左手に見える頑丈そうな扉の方にいくと何やらブツブツと言い始める。
僕は剣を鞘から抜くとまずは軽く格子を歯の横で叩いてみる。見た目よりも堅そうだ。次は思いっきり切り付けてみる。
ガキンッという金属音と共に反動で後ろに飛ばされる。
「お先に~」
狙ったかのようなタイミングで少年は頑丈そうな鍵のかかった部屋へと侵入していく。
(あいつ、あの扉が簡単にあけられるって事はこの錠も簡単に開けられるはずなのに!)
二度目・・・三度目・・・・四度目・・・五度目・・・・
最後にはガキンッと鈍い音がしかけていた刃からさらに少し破片が飛んだのが目に見えた。刃をかけさせてしまったらしい。
「はあ、はあ、はあ・・・」
膝に手をあて息を整える。
「やれやれ・・・大前提からしてわかってないのかい。普通に切ってもこんな頑丈なもの切れるわけがないじゃないか。」
本当に僕の荷物を持って来てくれたようだ。地面にその荷物を置くと少年は胡坐をかきその場に座り込む。
「いいかい。ヒントをやろう。僕でもこの牢屋を切ることは難しい。」
(できないとはいわないんだな・・・)
息を切らしながら少年の言葉を聞く。
「その剣はどんな剣なんだい?」
「?」
そういうと少年はこちらの疑問の表情にも答えずあと1分と言い欠伸をしている。
(この剣はどんな剣なのか?・・・・あっ!)
買う際に武器屋のオジサンが言っていたではないか。
「丹田に魔力を作って剣に流すイメージだっけ?」
剣聖に魔術は邪道と思っていた僕はすっかりと剣の特徴を忘れていた。
見ると少年はニヤニヤとしてようやく気付いたかとでもいいたそうな顔をしている。ま、それでもぶっつけじゃ、無理だけどねと言わんばかりの表情である。
(ならば、見せてやる。)
集中・・・・集中・・・・集中・・・・?魔力の塊ってどんなんだ?
「やっぱりね。後、30秒くらい!」
適当なカウントダウンが始まる。
惑わされずに何事もイメージが大事なはずだ。剣道の7段の教士(剣理に熟達し、識見優秀な人)が言っていたではないか。
「よし、まずは落ち着こう。」
1番落ち着ける体制をとることにする。剣を鞘に入れて左脇に置く。
「たぶん15秒。なんで正座?」
瞑想。
心を無にする。完全に無に出来た時にキーンと微かに耳鳴りのようなモノが鳴る。
そこで少し丹田に意識を移し、身体にエネルギーがあるとしたらどういう形をイメージするのが分かりやすいかを考える。そしてそれは丸い球体だろうと決定づける。身体の内側に何かが集まり渦巻いてくるのを感じる。
「あと5秒。・・・もう少しいいか後、10秒。」
外の音はもう聞こえていない。
丸い球体を確かに体の内側に感じる事ができた。
ゆっくりと目を開く。
不格好でもいい。今は自分が慣れている動きで慣れた動作でそれを剣へと流し込む。
正座の状態から剣を左手に取るとゆっくりと膝を立て蹲踞の姿勢をとる。(膝を折り立てて腰を落とし背筋を伸ばした立膝)
その体制のまま剣を抜き、正面に構える。
ゆっくちと立ち上がりながら丹田にある丸い玉から立ち上がりながら上半身に力を流し、立ち上がる時にはそれを両手から剣へと力を流す。
イメージが出来ると丹田からゾワゾワッと体内を駆け巡る感じがする。
「とっくに過ぎてるけど、面白そうだから後5秒・・・4・・・3・・・」
剣に流れ込んでいく力の奔流を感じる。
「2・・・って思ったよりちゃんと魔力が流れてる気が・・・魔力の刃が思ったよりながいような。」
目標を固定する。
「げっ!ちょっと不味いかも!」
カオルは呼吸を止め、ピタッと剣を振り上げた状態で静止すると流れるように剣を真っ直ぐに振り下ろした。
無駄な力を抜き、振りぬいた短刀から伸びた刃が3m先の岩にあたり真っ二つにする。
「あぶなっ!まさかこの歳でこれ程の魔力を宿しているなんて。それに一瞬だけど剣の極みの境界にも入りかけてたような。」
「・・・・」
「もしもし?」
「・・・・・」
カオル?となのった少女の瞳が虚空を見ている。
「ヤバ!加減を知らずに全力で流したな!」
実は既に解錠を済ませていた金髪の少年は急いで牢に入り、腰の袋に入れていた緑色の液体の入った瓶を口に含みむ。
カオルの口を無理矢理こじ開け口移しで流し込む。
「立ったまま死ぬ寸前まで魔力を流し込むとか!これだからシロウトのくせに変に才能のある奴は!」
最高級品の魔力回復役が消えていく。滅多に手に入らない一品なのにだ。
「ご、ゴホッ」
魔力が補填されたカオルが目を覚ます。
「あっぶね、アイツに殺される所だったわ。おい、しっかりしろ。」
「大丈夫・・・・あれは僕が?」
「ああ。そうだ、剣の使い方は分かったみたいだな。でも、無茶をするなよ?この剣はあんな切れ味を出す為のモノじゃない。少し伸ばした状態を維持しつつ切る為の道具だ。あんな瞬間技みたいなマネをするもんじゃない。初めて見たわ!あんな飛び道具みたいな使い方するなんて。無茶苦茶な魔力しやがって。」
「やった!できた。出来たんだ。痛っ!」
金髪の少年が拳を頭に落とした。
「これだからガキは・・・」
少年は立ち上がるという。
「いいか。賭けの内容は牢屋から出る事だ。あの岩を切ることじゃない。」
「え、ああそういう話だったっけ。でも満足だからいいや。」
「・・・・あの時言ったのは一つだったが、お前の命を救う為に俺は貴重なポーションを一つ失った。言わば命の恩人でもあるわけだ。」
「命の恩人?」
言われてから唇に変な感触が残っている事に気づく。そして、転がっている小瓶とくればカオルにだって察しはつく。
(前世でも女の子にキスされた事なかったのに・・・ファーストキスがこんな少年とは。あれ?おかしくはないのか?今は女なわけだから???)
「おい、キスしたのは悪かったが不可抗力だ。死ぬよりゃいいだろう。で、その貴重な薬を命を助ける為に使ったんだ。言う事をちゃんと聞いてもらうぞ。あんまりにも聞き分けが悪いと呪いの契約っていう魔法で結ぶからね?」
「・・・ちっ。しょうがない。」
命の恩人で魔力の剣のコツを教えてくれた相手だ。この際、ファーストキスの件は目をつぶっておくとしよう。
金髪の少年はこめかみをピクピクっと動かすとため息をつく。
「あと二つ言う事を聞いてもらおうか。命を助けた例と賭けの代償の二つ。それにこれはお前の為でもある。」
僕の為?ていうか一つ増えてるぞ!
「一つ目は自分を欺くのを辞める事。具体的にはお前は男として振る舞っているがそれを今すぐに辞める事。」
「ヤダ。」
「拒否権はねーんだよ。負けたんだからな!」
「いあたたたた!わかった!わかりましわから!」
こめかみを両方から押されグリグリとされる。女言葉でいろという罰ゲームのようなものか。これを一生というのは辛いものがあるのだが、元が女なのだからそれは別におかしくないだろう。普通の事をお願いされたと思えば軽い罰ゲーム程度のものである。
「いいか、お前の為だ。お前は女だ。どうやっても女としてしか生きられない。お前の行動はどうも変に男くさい。男として振る舞おうとして動きに無駄や無理がある。それは成長していく上でデメリットにしかならない。己を知り己を認めない限り成長はない。」
鋭い観察力をしているようだ。元が男だと言っても信じないだろうが、確かに昔のままの自分のつもりで剣を振っていた気がする。・・・痛い所をついてくる。
「いいか、男にあって女にない武器は色々とある。力はないがしなやかさがある。男性よりも女性の方が魔力が高い傾向にある。強くなりたいなら言葉遣い、振る舞いから見直せ!と言う事で一つ目は女として生きる事だ!」
そんな事は言われずとも昔と同じ事をしても出来ないし、男の体よりも力が足りない事はこの一年で薄々とは感じていた事なのだ。女であることを認めて女として生きろ・・・・か。
(そうだよな死んで転生しているんだよな。僕。いや、もう私なのか。)
「わかった。認める。ぼ・・・私は今から女として剣聖を目指す。」
「ん?剣?今なんて?・・・まあいいや、女として生きてくれるなら本題はクリアだ。あと一つはお願いだな。」
「あと1つは何?」
なかなか慣れず背中が痒くなりそうだが、約束通り言葉から意識しよう。
「あの技は使わない事。そして、毎日魔力を練る鍛錬をする事。」
「それ2つじゃないの?」
「いや、結果的には一つだ。魔力を自分の裁量で操れるようになればあの技は解禁してもいい。やるのは先程の練った魔力に色を付ける練習をする事だ。」
「色?」
「そうだ。いいか、時間がないから一度だけだ。」
言うと、掌に丸い魔力の球を産むと赤い色を灯し次に火となった。
「これが赤、火だ。これの派生系がファイヤーボルトやフレイムウォールなどの術となる。」
魔力を消すとその火も途端に消える。
「これが緑、風だ。これの派生系がウインドカッターやトルネードなどの術となる。」
魔術か・・・あんまり気が乗らないのだが。
「僕が見せられるのはこの二つだけだが、青が水、茶色が土となる。出来なくてもいいから毎日練習しろ。それが二つ目の命令だ。」
(仕方がない。負けた身で文句は言えないだろう。それにあの力を利用すれば魔法剣とかで炎の剣とか出来るのではないだろうか?剣の範囲内だよね。)
「わかった。約束だ。」
「・・・・・・」
「わ、わかったわ。約束は守る・・・わよ?」
「よろしい。じゃ、僕は先に抜けるから。時間ないと思うから逃げるなら急ぎなよ?」
そういうと、金髪の少年の体が横にブレたと思った瞬間、目の前から姿を消していた。
(これも魔術なのだろうか?少しは魔術も知らないと対策が練れないな。)
「そういえば、名前を聞くのを忘れたな。」
ホド村盗賊編はひとまず後一話で終了です。マリアのこれからの成長にご期待を・・・後は私の成長のなさにご了承を・・・




