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姫様転生 -運命の歯車をぶち壊せ-  作者: ねこねここねこ
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終わりと始まり

 僕の人生の最後の瞬間はあっけないものだった。

 

 雨の日の交差点、信号が青になった瞬間の出来事であった。


 トラックが赤信号を無視して直進。

 25歳くらいの女性が目の前を知らずに歩いていく。


 「馬鹿!戻れ!」


 「えっ!?」

 

 ああ・・・間に合わない。


 頭ではわかっていたのだが、体が助けようと動いていた。

 彼女の手を引いて身を引き寄せようとしたが、迫りくるトラックの恐怖に彼女は怯えて固まってしまう。

 引き寄せた手を反射的に拒絶し、逆に引っぱられてしまう。

 一秒の躊躇が命取りになる状況でその思わぬ行為に固まってしまう。


 「あ・・ちがっ!」


 彼女が呟いた最後の言葉。


 でもそんな言葉はもう何の意味もない。彼女は既に視界から消えている。


 次は僕だろう。


 最後の瞬間がこんなにもスローモーションだなんて。彼女とほぼ同じタイミングのはずなのに・・・なんて嫌な最後の思い出だ。


 僕の18年の生涯は見知らぬ女性と手を繋いだまま・・・人助けに失敗し巻き込まれて死んでしまうのだ。


 こんな事ならば相手を突き飛ばしてしまえば助けられたのだろうか?

 僕だけは死ぬかもしれないが助けられただろうか?


 拒絶された事に一瞬怯んでしまったが無理矢理引っ張れば彼女の腕や足の一本で済まなかったのだろうか?


 あの交差点に寄らなければ・・・・


 トラックさえいなければ・・・・


 雨が降らなければ・・・・


 ゴリンッ!


 (ああ、過去に戻れたら・・・僕のまま人生をやり直したい・・・全国優勝の夢が・・・)


 ブツンッ


 意識が黒く染められた瞬間、何かが千切れる嫌な音が後から追ってきたきがした。


 繋いでいた左手の感触だけがやけに最後まで残っていたな・・・もうどうでもいいけど。



 


 ―さあ、目覚めるといい―


 沈んでいた意識が浮かび上がる。

 

 (ここは・・・)


 ―邪魔が入ったか。魂が予想外に完全な状態で召喚されてしまったようだ。転生先での行動に問題がなければいいが―


 (誰かいるのか?)


 -それに巻き込まれた子もいたか・・・可哀想だが悪いけど後戻りはできないんだ。彼の魂は・・・―


 (・・・さっきからぶつぶつと誰なんだ?)


 -ああ、起きたのかい?おはよう。こんばんはかな?どうでもいいか。オレの名前くらいどうでもいいよ。ここは朝も昼も夜もないただの通過道であり異空間だよー


 (?)


 ―わからなくていいよ。この空間の事もオレの事もね。(特に後半部分はね。オレは君達にとって諸悪の権現だろうし。)―


 (よくわからないけどいいか。どうせ僕は死んだのだし。)


 ―それなんだけれど・・・君を殺すわけにはいかないんだ。異世界に君の魂を召喚させて貰うよ―


 (異世界?召喚?僕はまだ死んでないのか?)


 ―厳密には死んだのだけれど、魂だけ持ってきたというか―


 (異世界に魂だけ飛ばされた?じゃあ転生ってことか。)


 ―まあ、転生と言えば転生なんだけど・・・先に謝っておく。すまないね。-


 (は?なんで謝られる必要が・・・)


 ―まあ、起きればわかるよ。とりあえず、頑張って人生を謳歌してくれ。たぶん、落ち着いたら誰かが説明してくれるはずだから―


 目の前が薄く輝き始める。どうやら時間がやってきたようだ。


 (転生を促してくれるのは女神様だと思ってたのに男だったのはショックだけど。死んでいたところを助けられた。僕の自我を保ったままで、異世界に転生できるんだ。何を謝られる必要があるのかわからないがありがとうと言わせてもらうわ。)


 ―まあ・・・うん・・・そう。そういってもらえると助かる。(事故の原因はオレだけど。)-


 (ん?何か言ったか?まあ、ばっかりで歯切れが悪いなー。じゃあ、時間みたいだから行ってくるわ。)


 光が体を包み込む。


 ―えと、月の日には気を付けてね。暗殺多い日でもあるから。魔法使えないからその時は―


 (魔法がある世界!ファンタジーか!でもやっぱ転生するなら勇者だよな!それか凄腕の剣士になりたいんだが!剣術大会で優勝とかな!)


 彼の魂が行くべき所に向かったようだ。


 -誰かに頼るんだよって、もう遅いか。―


 彼の居なくなった場所を見る。

 

 あの性格と魂の欠損の無さを見ると少々不安である。

 記憶喪失と都合のいいシナリオの刷り込みにより運命の歯車を狂わす忠実な道具でいてくれる事を期待していたのだが・・・意識もはっきりとしているようだし予定とは大分違うようだ。

 必要なのは彼の魂とその魂の欠片だけなのだが。


 -やはり100%思う通りになんていかないものだね・・・生前も生後も―


 後の事はその時代に生きるモノたちがどうにかすればいいだろう。オレはここまで助け船をだしてやったのだ。


 -いずれにしても・・・賽は投げられた―


 ―オレにできることはもう何もない。死ぬことも許されないこの牢獄で神か悪魔に裁きを受けるまで永遠の眠りにつくとしよう。-


 遠い記憶の彼方に浮かぶ故郷の風景を思い描きながら。


 -せめて、オレ達の愛したあの世界に『先』が生まれる事を―










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