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魔女

「私を弟子にして!」


 金髪の少女は言う。その声は、嘆願だった。まるで、最後の希望に縋りつくような。


 「無理」


 だけど、俺は断った。これは、正しい判断のはずだ。いくつか理由はあるが、一番は面倒くさいことになりそうだったからだ。


 「お願い! 無茶なことは分かってるの。でも、私は力が欲しいのっ!」


 再度、少女は懇願してくる。むぅ、小さい子のお願いを無下にするのは忍びないが、これはマナーでもあるのだ。


 「無理なものは無理だ。それに、お前も分かってるだろ。こういう時は、お互いのことに首を突っ込むのは駄目だってことを」


 地球という世界は、何千年の歴史を経て、混沌とした世界となっている。


 騎士がいて、魔女がいて、陰陽師がいて、超能力者がいる。まだ、他にもいろいろいるが、これらはお互いに干渉しない。宗教や信条がお互いを受け入れようとしないからだ。


 しかし、排斥しあっていれば魔を持つものに負けてしまう。だから、これらのグループはお互いに干渉しないことを条件に許容している。


 過度に干渉すれば、この世から排除されかねない。お互いに避けた方が身のためなのだ。


 「まぁ、だから頼るなら、お前のグループの先輩にでも頼むんだな」


 俺は立ち去ろうとする。早く帰って、宿題を片付けなければならない。


 「帰れない。強くならないとヴァルハラには帰れないの……」


 少女は、か細い声でつぶやく。本当に小さい声で俺の耳が少しでも遠ければ聞こえなかったかもしれない。しかし、聞こえてしまった。


 ……ヴァルハラだと?


 俺の足が止まる。


 「お前は、ヴァルハラの魔女か?」


 「……え? うん、そう……。」


 俺が質問してきたことが意外だったのか、少女は呆気にとられたように答える。


 そうか、ヴァルハラの魔女か。


 俺は空に向かって息を吐く。


 —―参ったな。助けないといけないじゃないか。


 「弟子の件はともかく、話は聞いてやる。ついてこい」


 俺がそういって歩き出す。しかし、後ろから気配がない。振り返ると少女は、「え? なんで?」と言いたげな顔でいまだに座り込んでいた。


 「聞こえなかったのか? 話は聞いてやるからついてこいって言ったんだ。こんなところにずっといたら補導されかねんからな」


 そう言って再度歩き出す。これでついてこなかったら知らん。そう思って歩いていると、後ろから慌てたようについてくる気配がした。


 *


 場所は変わって、俺の部屋になった。古いアパートの二階。実家から遠い高校に通ううえで、俺に宛がわれた部屋だ。


 六畳の部屋に、金髪の少女と二人きり。時間は夜の十時を過ぎている。


 これって犯罪じゃね? 


 そんなことを思いついてしまったため、なかなか話を切り出すことができない。なんてことだ。「ついてこい(キリッ)」とか言いながら、なんで無言なんだよ。


 ていうか、普通に生きたかったんじゃないのかよ俺。何でこんなに関わっているんだよ。けどなぁ、できるだけ助けてあげたいよなぁ。


 「……えっと、あのー……」


 そんなことを苦慮していると、少女が話しかけてくれた。助かった。


 「なんだ?」


 「なんで、話を聞いてくれる気になったのですか? 私が言うのもなんですが、あまり無関係者が干渉すると良くないっていうか……」


 申し訳なさそうに問いかけてくる少女。……少女か、言いにくいな。


 「名前は?」


 「え?」


 「いや、名前知らんから」


 「……フェルニカ・クラウンベールです」


 そうか、フェルニカというのか。フェルニカフェルニカフェルニカ。よし、覚えた。


 「フェルニカ、さっきの質問だけどな。俺は、ヴァルハラの魔女にちょっとした恩があるんだよ」


 「恩、ですか?」


 俺には、ヴァルハラの魔女に対して恩がある。異世界で出会った薬屋のお婆ちゃん、元気にしてるかな。


 「そうだ。だが、命を懸けてまで返すほどでもない。だから、話を聞いてから協力するか決める」


 嘘だ。あのお婆ちゃんには命を助けられたことがある。だから、お婆ちゃんに対しては命を懸けてまで返す恩がある。だけど、いくらお婆ちゃんと同じ出身だとしても、関係のない人間だ。だから、話を聞いてから決めても遅くはないだろう。


 「そう、ですか。分かりました。弟子にしてくれるかは話を聞いてからいいです。では、始まりは――」


 「待て、その話は長くなるのか?」


 「え? あ、はい。結構」


 「じゃー、カップ麺にお湯を入れさせてくれ」


 バイト終わりで腹減ってんだよ。


 カップ麺を棚から取り出していると、きゅぅっと可愛い腹の音が鳴った。


 音源は、フェルニカからだ。フェルニカは白い肌を真っ赤にさせていた。


 「えっと……、お前も食うか」


 「……いただきます」


 おう、食うのか。


 *


 魔女というのは、ヨーロッパで生まれた超人的な力で人類に敵対する人類と一般的には広まっている。


 妖と交わってその力を得た人ならざる者。


 最終的には、魔女狩りによってその種族は滅びたと言われている。


 まぁ、一般的には、そうなっている。


 実際の魔女は違う。


 実際の魔女は、先天的に魔法を使えた。その異能は遺伝子的なものであった。


 そして、人類に敵対することもなかった。人類のために戦い、その力を古い、命を落としていった。


 そうやって、戦ううちに民衆は魔女を慕うようになる。魔女こそが英雄だと、民衆を導くのに相応しい者たちだと、そう言われることになる。


 だから、貴族は恐れたのだ。己を脅かすものを。


 つまり、出る杭は打たれたのだ。貴族によって魔女は偉業は異形へと変えられた。魔女狩りの始まりだ。


 魔女は裏切られ、数を減らしていくうちに、こう思うようになった。


 —―この世界は、私たちには相応しくないのだ。


 —―なら、どうする?


 —―作るんだ。私たちに相応しい世界を。


 もちろん、世界を作ることは容易ではない。だが、魔女はやり遂げた。多大な犠牲を出しながらもやり遂げたのだ。


 これが、理想郷(ヴァルハラ)の誕生である。


 その世界は、魔力によって世界からはじかれた世界。


 実際のところ、そこまで詳しくない。俺が、異世界で聞いた時は魔法のことなんて全然詳しくなかったし、つまらなかった。


 まぁ、魔女の成り立ちはこんな感じだ。


 次は、フェルニカの境遇だ。


 フェルニカはヴァルハラで伯爵の地位を持つクラウンベール家の子女だそうだ。


 貴族に追い出されたのに、貴族制を作り上げたのはすごい皮肉な国だ。コンプレックスの塊だな。


 順風満帆な人生を送っていたフェルニカだったが、そんな時間も終わりがあった。


 両親の死去。原因は魔物との戦闘だったそうだ。


 ヴァルハラは魔力でできた国だ。魔を持つものには絶好の餌場でもある。発生率は、地球の比ではない。質はともかく。


 そして、普通なら家督は娘であるフェルニカに渡るはずだが、魔女の国は少し違う。


 魔女の国では、力が持つものが貴族の地位に就くらしい。これも、力のない貴族に追われたコンプレックスかもしれない。


 そうすると幼いフェルニカには力がない。だから、家督を継ぐには条件が出された。


 1か月で魔導士と同じ力量を身に着けること。


 これが結構難しいらしい。成人ぐらいで到達できる領域らしい。よく分からんけど。


 だから、一刻も早く力を手に入れなければならない。


 「だから、弟子にしてほしいと?」


 飯を食い終えた俺はフェルニカに問いかけた。


 「はい。私には力が必要なのです。力がないから、さっきの妖にも負けそうになりました……」


 フェルニカは俯きながら答える。さっきの敗戦をひきずっているのだろう。


 「こんな有様では、家督を継ぐことなんてできません。」


 今にも泣きそうな声だった。やめてくれよ。夜中に女の子泣かすとか噂になるとやばい。


 泣く前に話を進めなければならない。


 それに俺には納得がいかないことがある。助けるのは、それの答えを聞いてからだ。


 だから、俺は問いかけた。


 「普通に生きるのは、駄目なのか?」


 

 


 



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