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彼女を悲しませた男

作者: キヨ
掲載日:2015/06/25

時久と吉乃のお話、二話目です。楽しんでいただけたら幸いです。

 真夜中、九条邸の玄関の前に1人の男が胸元を押さえ、立っていた。

 「俺です。時久です。どうか中に入れてください…」

そう、この男は九条時久。九条家の現当主である。なぜ時久がこうなったかといえば、仕事中に暴漢に襲われたのだ。時久の仕事はボディーガードである。つまりは護衛対象を守り、怪我をしたのだ。今回は前回よりも護衛対象が子供ということもあり、きつかったのである。

 「お願いです…」

そのとき、九条邸の中から小さな声が聞こえた。

 「あの、どなた様でしょうか?」

この声は、妻である吉乃だった。

 「吉乃か? 頼む、玄関を開けてくれ…」

 「はっ、はい!」

吉乃がゆっくりと玄関を開けた。時久はなだれ込むように家の中へ入ると、そのまま倒れこんだ。

 吉乃が茫然とした表情で佇んでいる。

 「時久様! この怪我はどうなされたのですか?」

 「仕事中に怪我をしてな。吉乃、俺のそばに寄るな」

若干厳しいことを時久は言う。だが吉乃は首を横に振る。

 「怪我をした旦那様のそばに寄り添うのも妻の役目でございます」

 「だが吉乃を俺の血で穢したくない…!」

そんな二人の声を聞いていたのか、家中の者がやってきた。

 「時久! どうしたの!?」

この声は時久の母である。

 「すみません、母さん。迷惑をかけてしまって…」

 「迷惑ではないわ。救急車を呼ぶから少し待ってて」

母の声を聞いた時久は、ほっと心をなでおろすと、意識が遠のいた。

 次に時久が目覚めると、胸元に包帯が巻いてあった。さらに腕には点滴が刺さっていた。ふと、足元の重みに気がついた。よく見ると、吉乃が丸くなって眠っていた。

 「吉乃?」

時久の声に気がついたのか、

 「時久様?」

吉乃が眠たそうな目をこすった。

 「まさかお前、ずっと俺のそばにいてくれたのか?」

 「当たり前ではないですか。私は時久様の妻ですよ?」

そう言って吉乃が小さく笑う。

 「お前も無理をするな。顔色があまりよくないぞ?」

目を細め、時久が言った。吉乃は持っていた手鏡を覗き込む。

 「そうですか? 私にはよく分かりません」

吉乃は首を傾げてしまう。そんな吉乃を見た時久は、

 「こっちへおいで。吉乃」

その言葉を聞いただけで、吉乃の顔は赤くなってしまう。

 「なっ、何ですか? 時久様?」

さらには声まで上ずる。

 「ほら、おいで」

顔を朱で染めつつも、吉乃は時久の元へと近づいた。

 そして時久と吉乃は30センチくらいまで近づいた。それだけお互いがくっついている。吉乃の目はまともに時久を見つめられない。

 「なぜ私を近くに…?」

目をそむけながら吉乃は時久に問う。すると時久は小さく笑いながら、吉乃の顔を両手で包みこむ。

 「吉乃。お前はやはり俺の妻にふさわしい…」

いきなりそんなことを言われ、吉乃は困ったような笑みを浮かべた。

 「あ、ありがとうございます…」

 「お前は俺のことを一番心配してくれる。やはり吉乃、お前は俺の妻だ」

その言葉を聞いた吉乃は照れつつも、薄っすらと笑う。

 「そろそろ離れてもいいですか? 私緊張してしまって…」

 「悪かった。許してくれ」

時久にしては珍しく、上目づかいをした。そんな時久を見て、吉乃は小さく笑う。

 「時久様。私はそろそろ帰ります。体をゆっくり休めてくださいね」

そう言って吉乃は時久に深く頭を下げると、病室を出て行った。

 残された時久は空を見上げた。かんかん照りの太陽が出ていた。そして、一言呟いた。

 「吉乃だけは絶対に俺が守る」


おわり

時久…、また怪我をしましたね。なんでこの人は本当によく怪我をするんでしょうかねぇ? まぁ仕事柄仕方ないのですが…。今回の時久はちょっとワイルド?ちっくになりましたが、どうだったでしょうか? まだまだぬるいですね。それにしても吉乃相変わらずかわいいですね。

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