彼女を悲しませた男
時久と吉乃のお話、二話目です。楽しんでいただけたら幸いです。
真夜中、九条邸の玄関の前に1人の男が胸元を押さえ、立っていた。
「俺です。時久です。どうか中に入れてください…」
そう、この男は九条時久。九条家の現当主である。なぜ時久がこうなったかといえば、仕事中に暴漢に襲われたのだ。時久の仕事はボディーガードである。つまりは護衛対象を守り、怪我をしたのだ。今回は前回よりも護衛対象が子供ということもあり、きつかったのである。
「お願いです…」
そのとき、九条邸の中から小さな声が聞こえた。
「あの、どなた様でしょうか?」
この声は、妻である吉乃だった。
「吉乃か? 頼む、玄関を開けてくれ…」
「はっ、はい!」
吉乃がゆっくりと玄関を開けた。時久はなだれ込むように家の中へ入ると、そのまま倒れこんだ。
吉乃が茫然とした表情で佇んでいる。
「時久様! この怪我はどうなされたのですか?」
「仕事中に怪我をしてな。吉乃、俺のそばに寄るな」
若干厳しいことを時久は言う。だが吉乃は首を横に振る。
「怪我をした旦那様のそばに寄り添うのも妻の役目でございます」
「だが吉乃を俺の血で穢したくない…!」
そんな二人の声を聞いていたのか、家中の者がやってきた。
「時久! どうしたの!?」
この声は時久の母である。
「すみません、母さん。迷惑をかけてしまって…」
「迷惑ではないわ。救急車を呼ぶから少し待ってて」
母の声を聞いた時久は、ほっと心をなでおろすと、意識が遠のいた。
次に時久が目覚めると、胸元に包帯が巻いてあった。さらに腕には点滴が刺さっていた。ふと、足元の重みに気がついた。よく見ると、吉乃が丸くなって眠っていた。
「吉乃?」
時久の声に気がついたのか、
「時久様?」
吉乃が眠たそうな目をこすった。
「まさかお前、ずっと俺のそばにいてくれたのか?」
「当たり前ではないですか。私は時久様の妻ですよ?」
そう言って吉乃が小さく笑う。
「お前も無理をするな。顔色があまりよくないぞ?」
目を細め、時久が言った。吉乃は持っていた手鏡を覗き込む。
「そうですか? 私にはよく分かりません」
吉乃は首を傾げてしまう。そんな吉乃を見た時久は、
「こっちへおいで。吉乃」
その言葉を聞いただけで、吉乃の顔は赤くなってしまう。
「なっ、何ですか? 時久様?」
さらには声まで上ずる。
「ほら、おいで」
顔を朱で染めつつも、吉乃は時久の元へと近づいた。
そして時久と吉乃は30センチくらいまで近づいた。それだけお互いがくっついている。吉乃の目はまともに時久を見つめられない。
「なぜ私を近くに…?」
目をそむけながら吉乃は時久に問う。すると時久は小さく笑いながら、吉乃の顔を両手で包みこむ。
「吉乃。お前はやはり俺の妻にふさわしい…」
いきなりそんなことを言われ、吉乃は困ったような笑みを浮かべた。
「あ、ありがとうございます…」
「お前は俺のことを一番心配してくれる。やはり吉乃、お前は俺の妻だ」
その言葉を聞いた吉乃は照れつつも、薄っすらと笑う。
「そろそろ離れてもいいですか? 私緊張してしまって…」
「悪かった。許してくれ」
時久にしては珍しく、上目づかいをした。そんな時久を見て、吉乃は小さく笑う。
「時久様。私はそろそろ帰ります。体をゆっくり休めてくださいね」
そう言って吉乃は時久に深く頭を下げると、病室を出て行った。
残された時久は空を見上げた。かんかん照りの太陽が出ていた。そして、一言呟いた。
「吉乃だけは絶対に俺が守る」
おわり
時久…、また怪我をしましたね。なんでこの人は本当によく怪我をするんでしょうかねぇ? まぁ仕事柄仕方ないのですが…。今回の時久はちょっとワイルド?ちっくになりましたが、どうだったでしょうか? まだまだぬるいですね。それにしても吉乃相変わらずかわいいですね。




