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05

< ------あきな >


そう、側にいないはずの母さんの声が聞こえた気がした。

『明奈、帰る準備をして』

「え?」

『どうした、風華』

『早く!貴女も聞こえたでしょ?』

聞こえたって何が?と混乱していると、連絡用にと闇道さんからもらった携帯電話が鳴った。

相手は、お隣に住むおばあさん。私を孫のように可愛がってくれて、何かと気にかけてくれている人だ。


「もしもし?明奈です」

「明奈ちゃん!貴女のお母さんが!」


「…え?」


「…はい…はい。今から、はい。向かいます」

電話を切り、闇道さんへかける。3コール目でガチャ、という音がした。


「…私だ」

「……闇道さん…お葬式って、どうすればいいんでしょうか?」

「…少し、待て。今、そちらに向かう」

荷物をもち、移動しながら電話をすると、私よりも動揺したような声で返事をした闇道さん。

肩にのり頬ずりをしてくる灯里と風華を撫でながら、私はただその場に立っていた。





灯里と風華には外で待っていてもらった。

薄暗い部屋に1人でいると、足元からじわりじわりと冷気がまとわりついてきた。目の前には大きな白い布で覆い隠されたモノ。


「母さん…冷たいよ…」

布越しに触った腕は、生きていた人間の体温なんてどこにもない。


小説や漫画のように雨が降ったり雷がなっていたりした訳でもない、晴れてるような曇りのようなそんな天気で。何の変哲もないある日のこと。

母さんが死にました。





死因は外傷性ショック死。

私の誕生日祝いを準備するために買い物に出た際、車に轢かれたらしい。車はそのまま逃亡、いわゆるひき逃げだ。結構なスピードが出ていたらしく、悲惨な状況だったらしい。同じように買い物に出ていて現場を見たらしい隣のおばあさんが話してくれた。


< ------あきな >

そう、声が聞こえたような気がしたあの時間。母さんは病院に運ばれる途中の、救急車の中で息を引き取ったらしい。




--- 強くなりなさい


私が前世を思い出す前から、穏やかな笑みをいつも浮かべていたのを覚えている。

父親が逃げてから、仕方がないわね、と言いながら儚げな笑みを浮かべていた母親。

少しでも借金を返せるようにと働き始め、夜遅くに帰ってくることも少なくなかったあの人。


--- ふふふ、明奈はいい子ね。


闇道さんと契約して、お金を稼げるようになって。

毎日のように来ていた借金取りも、ちゃんと返金できているからか、最近は顔を見せなくなっていた。

少しづつ、元気になっていってたのに。


--- 明奈がいてくれて、私はしあわせね。

--- ありがとう、明奈


そう言って、抱きしめてくれて。

普段、感じることのない暖かさが妙に恥ずかしかったりして、素っ気ない態度を取ってしまったことも度々あった。


でも、いつか。

いつか、借金を返済し終えたら、母娘2人でのんびり暮らせるかも、なんて考えていたのに。


「予定は未定…。ifのまま、終わっちゃったなぁ」

小さな声のつぶやきだったが、他に音がないこの部屋では予想よりも響いた。



首には母さんからもらったリング用ペンダントが揺れている。

それを左手で服とともに握り締めながら、右手は目の前のモノに触れる。




「…おやすみなさい、おかあさん」


いままでまもってくれて、ありがとうございました。




目を閉じた拍子に、涙がこぼれ落ちた。

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