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独白-2

明奈母の独白。

あの子が闇道さんと契約してから、もうすぐ2年がたとうとしている。そして、あの人が残した借金は以前よりも良いペースで返すことができている。



本当に、強い子になってくれた。

強くなりなさい、そうあの子に言ったのは私。そしてあの子は今、生きていく力を身につけた。だからこそ、借金を返却しながらも、以前よりかは余裕のある生活になった。

だけど、どうしてもふとした瞬間に、親の庇護にあるはずの子供に支えてもらっている現実に、何故こうなってしまったのだろうという思いが心をよぎる。

「明奈は、いい子ね」

もっと可愛がりたかった。甘やかしたかった。


いつだったか、あの子といつも一緒にいてくれる精霊に会った(見せてもらった?)ことがある。

緑の小鳥と、紅い子猫。風華、灯里、という名前なんですって。

「風華ちゃんに、灯里ちゃんね。…(あの子を)、よろしくね」

親である私は、いつかあの子を置いていく。それが明日なのか、まだ数十年先になるか。いつになるか、わからないけれど。私がいなくなった時、おそらくこの子たちはそばにいてくれるだろうから。

そんな私の思いを読み取ったのかどうかはわからないけれど。

『…当たり前だ』

『私たち、明奈が大切ですから』

そう言い残し、少し離れたところにいた明奈の方へ走り寄っていった。


「あなたがいてくれて、私は幸せよ。ありがとう、明奈」

そう言って、あの子を抱きしめて。あの子は、照れ臭そうに身体を捩っていた。


夜、早めに帰宅した私は明奈をよんだ。

「なぁに?母さん」

「明奈、あなたにこれをあげるわ」

そう言いながら、首にかけていたチェーンを外し、明奈の首にかける。

「なぁに、これ」

「これはね、私が昔、あの人から貰った婚約指輪よ」

明奈の顔が怒りに染まった気がして目をこすってみたが、特にそのような様子はなく、ただただ指輪を見つめていた。気のせいだったのだろう。

「なんでわたしに?」

「そうね…なんでかしら」

なんとなく、貴女に渡したい。そう思ったの

そう言うと、鳩が豆鉄砲くらったような顔をして、明奈は吹き出した。

「なにそれ」

この子の笑顔は、前ほど頻繁ではないけれど、よく見ていた。でも、何故かはわからないけれど。初めて、本当の笑顔を見たような気がした。


「そういえば、明日の予定は?」

「明日?う~ん、闇道さんのところに行くことくらいかな?いつもどおりなら、20時には家に戻れると思うよ」

「そう。母さんね、明日少し早めに家に帰れる予定なの。久しぶりに一緒にごはんを食べれるわね」

少しなら余裕もあるし、奮発しちゃいましょうか。そんなことを思いながら、嬉しそうに笑っている明奈の頭をなでた。




今日は、あの子の8歳の誕生日。明奈に生まれてきてくれてありがとうって伝えるのにぴったりな日じゃないかしら。家に帰ってきて、驚いた姿を見てみたいわ。

そんなことを思いながら、準備を進めていく。

「・・・あら、もうこんな時間」

窓の外から差し込む夕日で部屋は赤く染まりつつあった。

「あとは、ケーキと飲み物と…よし」

買い出しに行かなくては。あの子が帰宅する前には揃えておきたい、いや揃えておくべきだろう。



財布の入ったかばんを持ち、私は外へ出た。仕事場が忙しかったため、事前に計画していた時間にでれなかったのでいそいでいた。


「あら、鬼丸さん」

「お隣の…」

「お久しぶりねぇ。これからお買い物?」

「お世話になってます。はい、明奈の…あの子の、誕生日なんで」

お隣さんは一瞬目を見開いた後、へにょりと目尻をさげた。

「そうなの。おめでたいわねぇ…明奈ちゃんも幸せね」

あとで、ウチからもなにか誕生日祝いを持っていくわ、孫みたいにかわいい明奈ちゃんのお誕生日なんですもの。

そう言って、お隣さんは家に入っていった。


幸せ、か。幸せ、なのだろうか。

もし、あの子が幸せだと思っていてくれたのだとしたら。それは、とても、嬉しい。


なんとなく、くすぐったいものを感じながら歩いている私は、周りをちゃんと見れていなかった。


「きゃーっ!」

「あぶないっ!」


「…え?」

目の前には、物凄い速さでこちらに向かってくる車があった。



------あきな

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