独白-1
明奈母の独白。
---ほんと、仕方のない人ね。
私は服の下からペンダントを取り出した。
ペンダントトップには、ピンクサファイアが10個ついたファッションリング。
ちなみに、婚約指輪として渡されたものだった。
一般的に、婚約指輪はダイヤモンドが主役で比較的価値が高いジュエリー、結婚指輪はメタル(リングの本体)が主役で、シンプルで日常的に身につけられるジュエリー、とされている。
あの人は、後から婚約指輪と結婚指輪のことについて知ったらしく、慌てていたけれど。いいわ、これでも十分嬉しい、そう話したけれど。
ありがとう、そう言って受け取ったけれども。
どうしても、外へつけることは恥ずかしくてできなかった。
それでも、身につけておきたくて。
苦肉の策、というほどでもないけれど、指輪用のペンダントがあるというのを知って、買いに行った日のことを今でも覚えているわ。
あの日からずっと。こうして、首からさげることで身につけてきた。
あの人と結婚して、子宝に恵まれて。
明奈が生まれて、家事をしながら子育てをして。
あの人と、そして明奈がいて。
とても、幸せだった。
だからこそ、あの人が”リストラされた”と、”借金を押し付けられた”と話してきたときも。
2人がいるなら、なんとかなる。
そう、思いたかった。
だからこそ、大学をでてからずっと専業主婦だった私は、近所のスーパーで働き始めた。
あの人は、リストラされてからなかなか働き口を探さなかった。急に押し付けられたのだから、しかたないだろう、きっと気持ちの整理がついていないのだ。しばらくして落ち着いたら働いてくれる。
そう思って、それまではなんとかしようとやりくりをした。
結婚するときに、今は亡き両親から貰った箪笥、着物、指輪やネックレスなどのアクセサリーを売って。
ほんの足しにしかならないだろうけれど、何もしないよりはましだろう。そう思いつつ、昔から集めていたCDや本を売ったりもした。絵本や児童書は残しておいたけれど。
テーブルなどの家具も、何点か売り出して。
それでも、到底足りなくて。
どうしようか、と悩んでいた時。
あの人は私と明奈を置いて逃げてしまった。
うすうす、そんな気もしなかったわけじゃないの。
いつか、こんな日が来るかもしれない。そう、思っていたわ。
できることなら、現実にならないで欲しかったけれど。
それから、私はレジのパートだけでは到底足りないから、いくつか仕事を掛け持ちして、内職も持ち帰って仕事をしていた。
食費も浮かせたいけど、明奈には十分と言える量では決してないが、少しでも食べさせたい。だから、自分の分もあの子に回したりしていたの。
時々、一緒に食事をとると、
「母さん…わたし、なすがにがてなの…たべて?」
と、フォークにさして私の口元まで持ってきて。
本当は、好き嫌いはダメよ、そう言い、たべさせなければならないんだろうけれど。
「わかったわ、明奈。次は頑張るのよ?」
そう言いながら、口に含むと可愛らしい笑顔を見せてうなづいてくれる。
「いい子ね、明奈」
ある日、明奈が見知らぬ男を連れてきた。何事かと話をきいていると、明奈は魔法を使用できるらしい。
「母さん、誠徳学園って知ってる?闇道さんは、そこの学園の理事長さんで、魔法使いの指導者でね?この前、河川敷で会ったの。それでね?私に魔法の使い方を教えてくれるんだって。だからわたし、やってみたいの」
「この子程の魔力を持つこはなかなかいません。どの程度の成長ができるのかを研究しておりますが、危険なことはありませんから大丈夫ですよ。また借金のことについても存じておりますので、補助をしていくつもりです」
明奈と闇道さんの助手を名乗る人が、なにやら説明をしてくれた。確かに今の状態では、私は十分に明奈の面倒を見てあげることができない。また、この子を義務教育である小学校にすら行かせられないかもしれない状態だ。
そして明奈の珍しいおねだりもある。母親としては、娘のおねだりは可能な限り叶えてあげたい。
「闇道さん、でしたか」
「…あぁ」
「…娘を、どうぞよろしくお願いします」
頭をさげる刹那、闇道さんと明奈の顔が、どこか驚いているように見えた。