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おはよう、こんにちは、こんばんは。
どうも、鬼丸明奈、5歳です。だけど、本当は鬼丸明斗だったみたいです。
意味がわからない?私も未だによくわかってないよ、お揃いだね☆
冗談はさておき。
父親が「不当なリストラと多額の借金を背負わされた」と、まるで悲劇のヒロインのごとく家に居座って嘆いている。
いや、話を盗み聞きしたときは大変だなー、って思ったけどね。
いつまでも嘆き悲しむだけじゃ、借金なんて返せるわけないじゃないですか。
実際、母は専業主婦だったのに働きはじめているし。
私も手伝えることはやってるけど…5歳児にできることなんてたかが知れてるよね。
余分なものにお金を費やすのはやめようと、必要のない家具や鞄は売り払い、私も幼稚園をやめた。
最後までいいの?とお母さんは言っていたけど、前世を思い出した私には渡りに船なものだったので、一も二もなく頷いたのは良い思い出です、はい。
しかし、魔法(仮定)を覚醒したし前世を思い出した今、改めて思い返すとパズルのピースがはまるようにストンと納得できる。
この境遇、まるで『僕の物語』の鬼丸明斗そのものみたいじゃん?
主人公たちと敵対するツンデレ少年。
幼少時代に、父親が会社を不当にリストラされた上に多額の借金を背負わされてしまい、家に借金取りが押しかける日々を送ることになったという。
たしか、魔法属性は火と風であった。
さて、私こと鬼丸明奈。今の状況は?
父親が(本人曰く)会社を不当にリストラされ借金を背負わされているね。
借金取り?うん、この前来てたよ。父親が土下座をしているのも見ましたよ。
魔法(仮)は、火と風を操ることができたよ!
こうしてみると、今の私の状況と似たような点があって。私は、鬼丸明斗のポジションに成り代わったのではないか、という考えに落ち着いた。
え、それだけ?と思うかもしれないけれど。あえて言おう、それだけだ。
正直なところ、だから何?という気持ちしかないかな。
だいたい、ゲームの登場キャラクターとだいたいの生い立ち、簡単な話の流れは知ってはいるけど、ともだちほど熱中していたわけじゃないから、詳しく覚えていないんだよね。
どうせ魔法が使えるのなら、日常を非日常に、非日常を日常に、愉快におもしろおかしく、楽しく過ごしたいし。
そういうことで、やってきました河川敷!人があまりいないということはこの前把握済みだ!
まじめにこつこつと、少しずつがんばっていたら、これが結構上達してきて。火の大きさを調節したり、風の強さを調節したりすることもできるようになった。二つをあわせて、まるでホッカイロや電気毛布に包まれた暖かさの中にいることもできるようになりした。今の季節は十分暖かいし、冬に重宝できそうかな、と思ったり。
おともとして連れてきているのは、みなさんご存知、黄色いボールくん。
火に纏わり付かれたり、強い風に晒されたりしてるのに、壊れないんですな、これが。わたしの魔法(仮定)が弱いのか、ボールくんが強いのか…
どちらなのかはわからないが、今日も今日とて修行です。
河川敷の景色は変る。
桜が散り、藤の花が咲き、セミが鳴きだし、緑の葉っぱが赤く染まり始め。
まぁ、そんなこんなをしている内に、早くも季節が2つも過ぎて行きました。
ほんの数ヶ月の間ですが、いろいろなことがありました。
魔法の特訓で、火を使いこなそうとしたら勢い余って空き地の草を焼き払ってしまったり。
風を使えば、鎌鼬の威力が強すぎて林の木々を切り倒しちゃったり。
かわいい動物が出てきて、あまりの可愛さに戯れていたのだが、どうやら精霊さんだったらしく、話しかけられてびっくりしたり。ちなみに、風の精霊は緑の小鳥の姿をしており、火の精霊は淡い赤の毛並みをしている子猫で、名前をそれぞれ風華、灯里、とつけた。また、魔法の使い方も教えてくれて、それまで独自でやっていた時よりも上達したり。
このような感じで良いこともあったのだが、それと同等かそれ以上に良くないことも多かった。
借金取りが来るようになって、父さんは土下座をしながら謝っていた。子供である私相手にも借金取りは大声で怒鳴っていた。
お隣さんは、借金取りがいないのを見計らってご飯とかを差し入れてくれたりしてくれた。
でも他のご近所さんは、例えばゴミ出しとか買い出しの時にすれ違うと、挨拶をしてくれたとしてもゴミを視るような目でみてくる。無視をされたり、回覧板をとばされることも、よくあった。
気持ちはわからなくもないんだけどね、それまで普通にご近所付き合いをしていた人にそんな態度を取られると、つらいものがあるよね、なんて思ったり。
そして、今日。
実に残念なことですが、父親が蒸発してしまいました。
机の上に『すまない』とだけ書き残して、荷物と一緒に姿を消していた。
借金と妻子を残して一人逃亡。人としてどうなんでしょう?
とりあえず、もうあの人を父親として見ることも、あうこともないだろう。
母さんは「しょうがない人ね」と言って私を抱きしめただけで、泣き崩れたりすることはなかった。…ただ少し、目の光が消えてて怖かった。言わなかったけど。
「明奈。あなたはあの人みたいになっちゃだめよ。強くなりなさい」
いつもどおりの優しい声。だけど、抱きしめる腕は痛いほどに強くて。まるで私が逃げられないようにしてるみたいだった。
さて・・・これからどうしましょうか。
離れたところから心配そうに見てくる風華と、興味ありませんよ~という態度を取りながらチラチラとこちらを見る灯里に癒やされながら、私は思考の海に沈んだ。