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小説家になろう?  作者: UYAM
小説家になろう?
10/19

【夢で逢えたら】重要機密を敵に渡すことになったけどこっちの敵さんのほうがいいカナ

 外や階下から、学園祭で賑わう人たちの声や鳴り物なんかの音が聞こえる。でも緊張でいっぱいの私にはそんな外界を上手く認識することができなくて。様々な音が溶け合って、ひとつの大きな大きな、例えるならスライムのようなものになって、私を中に閉じ込めている…ような錯覚がおこる。

 第1校舎の3階にある講義室。学園祭が行われているのは1階までで、それより上は一般の人は立ち入り禁止になっているし、生徒も用事がある人しか来ず、少なくとも今は私と目の前の男性以外には誰もいないようだった。


 晴れの日の昼下がりの太陽が、諦めたように、だけどそれでも優しげに笑みを浮かべるこの男性、獠と名乗った20代後半と思われるその人を包んでいる。光の眩しさが、彼自身のきらめき見えて、一瞬だけ胸が苦しくなった。

 獠と出会ったのは数日前で、まったくの初対面だった。何をしてる人なのかなんてもちろん知らなかったし、楽しい学園祭の日に、隠れるようにして二人で人気のない講義室にいることになるなんて、想像もできなかった。今だって正直に言えばさっぱりわからない。なんで、どうして、と思い続けながら、でもやっぱりこの人を置いて逃げようなんて、出来ない。


「もう諦めようと思うんだ」


 椅子に腰掛けて、陽の光を浴びながら。暖められた空気の温度そのままに、獠は言った。

 諦める。何を。聞きたくても目の前の現実を受け入れることで精一杯な私は、聞けない。ただ、数日間、行動を共にして推測したところは、獠はとても大事な情報を持っていて、それを欲しがっている人たちから逃げているということ。欲しがって、なんて優しい言い方か。奪おうとして、に訂正しよう。

 どこの誰とかどんな情報かとか、全然知らないし、怖くて聞けない。それにもしかしたら、本当に、もしかしたらだけど、彼のほうがその情報とやらを奪ってきたのかもしれないと…。一度でも思ってしまったら、もうだめだった。私は獠のことを信じることも否定することもできない。何も知らないんだ、という事実が苦しくて、考えることを放棄させる。


「わかっ、た…」


 自分はここから離れられないからと、情報であるらしいそれを受け取って、服の中に隠した。それはどう見てもデパートのセールのご案内のハガキにしか見えないけど…、見る人が見れば、世界がひっくり返るような、情報、らしい…。まあ確かにハガキにしては薄くてツルツルしているかな…?

 少し気が削がれたけど、彼の最後の頼みとなる…漠然とだけど、なぜかはっきりと最後だと思った…この任務を立派に遂げるために、気合を入れなおした。



(どきどき、してきた…)


 3階から階段を降りていくその一歩ごとに、心臓の音が早くなっていく。

 追手である人たちは、ここから少し離れた第3校舎に拠点をおいているらしく、そこへ服の中のこれを届ければお終いだ。この、数日間の非日常から、解放される。獠に会えなくなるのは少し悲しい気持ちになるけど、今なお降り積もっていく恐怖に比べたら、きっとすぐに忘れられることだ。


(こわい、こわいこわいっ…)


 第1校舎の廊下や講義室は、盛り上がりのピークは過ぎたとはいえまだまだ学園祭の健全な賑いを見せている。壁は色とりどりの風船や色紙で飾られ、仮装した人やお決まりの女装した人たちが楽しそうに笑っている。

 けれど私には、そんな人たちがみんな追手に見えてしまう…。


 私が一人で第3校舎に向かうことが、降参の印となり、手を出してはこない、と獠は断言した。逃げないように、他のものに横取りされないように、監視しているだけだと。どうしてそんなに自信たっぷりに言い切れるのかと言いかけて。一人になった彼の身に起こる…かもしれない…ことが根拠になっているのだと思い至って、口を閉じた。

 こぼさなかった言葉の代わりとでも言えばいいのか、ぽろりと一粒、涙をこぼして獠に背を向け講義室を後にした。


 本当に、このまま、行っていいの…?


 正面玄関を出ようとしたとき、不意に聞こえた、それ。それは私の心の声なのか、感じた視線の伝えるメッセージなのか。いるとも知れない監視者に怪しまれないように足は止めず、髪を直すふりをして視線の主を探した。

 そろりと辺りを窺うと、人の波が一瞬だけ途切れたその隙間に、ばっちりと合った、透きとおった瞳。探すまでもなく誰かはわかっていた。これまた獠と同じくらいの付き合いしかない、つまり何者かわからない、慧だった。


 彼は、いつもなら人当たりのいい優しい目元を、苦しそうに歪めている。その理由は私のことを心配してくれていることと、なんと、慧もこの情報とやらを欲しがっていること、だった。

 よくはわからない…ことばかりだけど、慧と第3校舎の追手は、関係はないらしい。そして、同じく欲しがっている慧を、獠はあまり警戒していなかった。たまに獠から離れて行動していたとき、必ず慧は私に近づいてきた。けれど何度かアレを譲ってくれないか、と言われただけで、それ以外は私に気があるような素振りをするだけだった。もちろんそれは、私からソレを奪うための策略だろうけど。


「…っ」


 嘘をついている、騙そうとしているとは思えない、澄んだ瞳を振り切って、外へと向かった。

 これ以上、慧の視線に晒されていたら、信じてしまいそうだったから。ううん、信じたかった。信じてしまいたかった。あの優しさを信じて、縋って、泣いて、重荷を捨てたかった。あの日、確かに獠を助けたいと思ったのに、こんなに怖い思いをさせられて、と弱い心が彼を責めようとする。

 そんなのはダメだ。自分で望んでやったことなのに。今こうなっているのは、自分のせいなのに。


(うわ、なんかあのひとわたしのことみてるきがするぅ…!)


 いろんなものを振り切るように早足で第3校舎を目指す。第1校舎よりは小さいながら、あちらでも学園祭の催しをやっているので、こちらからあちら、あちらからこちら、へと移動する人たちがけっこういて。今追い抜いたニット帽の若い男性が、意味ありげにこちらを見た気がして…泣きそうになってくる。

 恐怖が、ピークに達しそうになったとき。私はふと気がついた。


(あれ? そういえば誰に渡せとか、言われてない気がする…)


 諦めるといった獠は私にハガキのようなものを託し、ただけだ。いつも盗聴なんかを警戒して多くを語らない、獠。それに慣れていた上に、あの雰囲気だ。俺たち分かり合ってるよな、みたいな。あれ?

 もしかして、正解は別のところにあるのだろうか。実は私って陽動なのだろうか。ということはこのハガキっぽいものはやっぱりただのハガキなのだろうか。でもこれすごい大事みたいにしてたし…。

 いや、この際、モノの真偽はおいといて。これが本物だろうと偽物だろうと、誰に渡すかは私の自由…いや、違う、選択だ…としたら。今思えば、獠も気を許していたと思える、慧に渡すのが最善なのでは。


(…慧!)


 そう思うや否や、私は慧のもとに駆け出していた。難しいことはもう考えられない。突然、来た道を駆け戻る私を驚き振り返る人が、単に驚いた人なのか監視者だったのかなんて、気にしていられない。慧に迷惑をかけてしまうかもしれないことだけは、心にブレーキをかけたけど。慧のもとに向かう足にブレーキはかからなかった。



「戻ってきてくれて、本当によかった」


 慧に案内された部屋は、準備室のような小さめの部屋だった。文字通り慧の胸に飛び込んでしまった私の、落ち着かせるように優しく数回だけ背中を撫でた彼は、人目ばかりか追っ手の目さえ気にも留めいないように真っ直ぐにここに向かった。むしろ、私に抱きつかれたことのほうがよほど衝撃だったのか、まだ少し顔を赤くして、いつにないそわそわとした様子を見せている。


「あの、鍵…閉めないの?」


 そんな慧の様子に、今の自分の状況を忘れそうになり、追手を心配した施錠の提案なのに、慧と密室状態になりたがっていると思われたら…なんて変な心配をしてしまって、微妙な間を明けてしまった。



というところで目が覚めました。はい。夢です!

2度寝するとハラハラする夢を見ることが多く、今回はストーリーもあって、起きてからもまだ鮮明に覚えていたので小説風にしてみました。

あまり推敲などはしておらず、誤字やおかしなところもあるかもしれません…。


お楽しみいただけたら幸いです。

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