プロローグ
様々な大木が生い茂った森の中。
道というのもおこがましい状態の獣道に、2人の人間がいた。
1人は、かなり大柄の東洋人の男だった。
ガッチリとしたその巨躯に似合わず彼は、細かい手つきでネイキッドタイプの二輪車の整備をしていた。
「流石にこんなとこ走んのは不味かったのか・・・?」
ブツブツと呟きながら、軽くパーツを磨いたり、ボルトを締めなおしたりしている。
その彼に話しかけるもう1人の人間。
小柄な白人の少女だった。
彼女は、着ているパーカーのフードを被り、石に腰掛けていた。
整った可愛らしい顔が、今は不機嫌そうに歪んでいる。
「なぁ、ヤマト。ここは何処だい?」
ヤマトと呼ばれた東洋人は、二輪車から視線を動かす事もなく返事をする。
「・・・わからないな。・・・何処で道を間違えたのか、それさえもな・・・・・・」
「僕は、君がこの『ばいく』とやらを運転すると言い始めた所だと思うね」
少女はため息をついて石から飛び降りる。
軽く伸びをした後に、ヤマトの真後ろまで近づき手元を覗き込む。
「まだ直らないのかい?そろそろ時間の余裕は無いと思うんだが」
「・・・サーシャは少しせっかち過ぎるな・・・。もっと心に余・・・」
作業が終わったのか、ヤマトが立ち上がる。
「おい、言いかけたまま喋るのを止めるんじゃない!」
エンジンがかかる。
重く響くエンジン音が、辺りに広がる。
「おお、かかった・・・」
ヤマトが二輪車に跨る。
「ネジが2本余っているんだが・・・」
「余るということは、必要が無かったという事だ・・・」
ヤマトが早く後ろに乗れ、とサーシャを急かす。
シートに、勢いをつけてサーシャが飛び乗る。
「・・・まっすぐ行けば着くだろ?」
「地図の方角からずれていなければな」
「・・大丈夫だろ・・・・」
ヤマトが軽くアクセルを回す。
大きな音を響かせながら、二輪車は走り出した。