人化と旅立ち
暖房代わりの私だ。案の定脱出も出来ずかといってこのまま寝る訳にもいかずもやもやとした気持ちに苛まれていたりする。勿論襲いに来る輩等居るわけもない
寝相が良いのが唯一の救いだ…もう諦めて一緒に寝たほうがいいのではないだろうか
私は猫なのだし、な………
「………ん? おや、もうこんなに明るくなっていたのか……良く寝た」
(おはよう。起きたのなら私を離してくれると嬉しいのだが)
彼女が僅かに動き出した時には私の目は覚めていた。こんな状態では深い眠りに入れるわけが無い
「あ、と、済まないな…久しぶりの温もりを堪能して満足だ」
慌てて手を退ける彼女から脱出に成功した。私は暖房扱いか、そうか…まあ初めからそんな扱いだとは思っていたがな
(ま、良いさ…と。私はどうすれば良い?)
「どうする…? あぁ、そうだったな。この人型になる応用を…しかし。さっぱりしているな、寝る前はかなり感傷的になっていた記憶があるのだが」
(猫だからな。気分がころころ変わる……ということにしておこうか)
「猫らしいな。まあ、感傷的なままよりは大分良い。では、教えるとしようか」
言葉と共に人型だった姿が歪む……そして膨張するかのように広がり…
(わざわざ戻る必要があったのか?)
「この姿からのほうが教えやすい。私と同じようにすれば良いだけだからな…フィン、おぬしなら魔力をなぞる事位出来るであろう?」
(まあ、頑張ってみよう)
「では、このような感じに。己の体の中心に集まるように魔力を練る」
(こんな感じか…と私の体が小さいからか安定しないな)
「体の大小ではないさ。経験の差だ…そのうちなれるだろうよ。では次にその魔力を動かして人型のような形を作る…大体でいい、二本足で腕が2つと頭さえあれば人型となるから頑張れ」
(…っと、これは…かなり…辛いんだが)
「御主の魔力が多すぎるだけだ…小さい体にどれだけ入ってるのか不思議で仕方ないわ」
(私も不思議だよ…っと。こんなものか)
「………歪だが。まあ、何とかなるだろう。後はその人型にした魔力に対し働きかけるだけだ……こんな具合にな」
すると、シルヴィは龍の姿からポンッという感じに人型に変化していた
(そんな簡単に言うな…人型を保つのですら厳しいというのに)
「仕方ないの。私も少し手伝ってやろう……ほら、これでどうだ?」
シルヴィが近付いてきて私の体にそっと触れるや否や人型に動かした魔力は石にでもなったかのように安定した…次元が違いすぎた
(ふぅ、やっぱり経験の差は大きいか…私がそこの域にまで到達するのにどの位掛かるやらだ)
「御主ならそう時間は掛からんよ。数年もあればこれくらいは片手まで出来るようになるはずだ。私が保証しよう……と。準備はいいか?」
(それは有難い保障だ…大丈夫。離してくれ)
「……さて。どんな姿になるのやらだ…」
(不安になる事言うなよ……っ、これでどうだ!?)
ポンッ
「成功、か……?」
声は出る。手は動く。足も動く。何も問題は…
「………ぁ。いや、何となく予想してはいたが。でも、余りにもそれはどうなのかと思うのだぞ…?」
もやもや感たっぷりの返事をどうも有難う…私でもどうなのかと思ってるさ
単純にいえば問題だらけだった
まず、服が無く裸だった。それはそうだ。猫の時に服を着るわけがない…シルヴィはどうやって服を調達したのだろうか?
そして裸だから気付く自分が女だという事実。猫なら、雌なら、まだ許容内に居たかもしれない。しかしこれは余りにも元男としては厳しい姿だ
胸は別に良い。どうせ諦めていた事だ…だが足が見えないのは辛い…女性達はこのような不安の中過ごしていたのかと思うと申し訳なく思えてきた
あと、私は背が低いようだ。シルヴィの顔が少し見上げないと見えない。腕も細い…やはり猫だったからか。全てが小型化されているということなのか……ん?
「……猫は母性が強い生き物だとは噂で聞いたことがあったが……」
シルヴィが少し落ち込んでいるように見えるのは気のせいだろうか?
このような姿は仮の姿だろうに。龍が猫に劣等感とか止してくれ。色気も何も無い私にこのような胸は邪魔でしかない…押さえる為にも服が必要だな
「シルヴィ。服はどうすればいいんだ? これも魔力で作っていたりするのか?」
「魔力で体を覆うようにするといい。ただし、己の姿に沿った服しか現れない。私の服が青いのはそういうことだしな」
シルヴィの服がほんのり光沢のある青なのはそういうことだったのか…納得しながら自分の魔力を覆うように…寧ろ纏うように動かしてみる。少しは自由に動かせるようになっているみたいだ。先程の手伝いの効果なのか?
「……似合っているな。迷子になった半獣の女の子供のようだぞ」
微妙な感想を返されたら苦笑しかない。私だって鏡を見なくても分かる…半獣か…
半獣という言葉は多分耳と尾から来たのだろう…前とは違う音の聞こえ方で理解していた。耳が上にあると…頭の横にも辛うじて形は作られてはいるが触っても機能はしていないようだ
ちなみに私自身で確認した感じだと白い毛皮のワンピースのようなものを着ているようだった。肌の擦れ等は感じないからこれは体の一部のようなものだろうと実感した
「迷子になった、か。私のことを暗に指しているようだな…」
自嘲気味に言葉を吐いてしまった。世捨て迷子…迷子。多分堕ちた女神もそうなのだろうな…
となると、早く見つけてあげたほうがいいのだろう
「………私はそろそろ出て行こうかと思う。シルヴィ」
「そうか。寂しくなるな…その姿のまま行くのか?」
唐突な私の発言にも寂しい顔を隠しもせず。でも止める様なことは言わない彼女が有難かった
「いや、直ぐに猫に戻るさ。この姿は移動するには余り利点があるとは思えないし制御が不安定だし…優れた点が見当たらないな」
ぽん、という音と共に戻る私。戻るのは意外と簡単だった
「まあ、そうだろう。私はもう慣れたからかなり楽だが…御主が見えなくなったら戻るとするさ」
「ん。じゃ…また、逢おう」
「ああ、まただ」
また、必ず。そういう意味合いはあっただろう。私にも彼女にも
そして、私は森を抜けた
旅立ちが無理やりすぎました…眠い中話を練っても会話文しか出てきません
会話文だけの話しとかどうしましょう…