責任と問題
溜めようとしましたがあまりにも更新期間が離れるのも酷いので
何とか1話を落としました
暫し時間は経つ
時折悲鳴が聞こえたのは気のせいと思うことにする
ふと、自分の服を見るがやはり動き辛い。猫のような身軽な動きは厳しいだろう
それと服等と一緒に用意された姿見に映る姿はとても私とは思えない。試しに片手を振る動作をしてみたが鏡の中の少女が同じ動きをするのを見て、はぁ、とため息が漏れる。ため息が癖になってしまいそうだ
少女の姿に抵抗が無くなっている訳ではない事に安堵もする。話す言葉が全て変換されてしまう事には慣れるしかなかったが、今己の姿を見て羞恥が起きなかったら辛い所だった。多分このままだと「可愛い」とか「綺麗」とか言われる事も多くなりそうだ…
可愛いとか聞き慣れるものじゃない…
「可愛い…?」
口から零してしまった言葉と首を傾げる動作。私は意識した事ではない、決して
「…………!!!???」
ボッと顔が赤くなるのが分かる。多分体全体も赤くなっている事だと思う…一体私は何を思った?
顔を抑え、頭を振り、意識を遠ざける。私は男、私は男……よし、大丈夫だ
何かすっきりしてきた彼女と侍女。いや、別に構わないのだが何故侍女まですっきりした表情なんだ……
「で、どうしたいの?」
「聖女様と話がしたいです」
単刀直入に言う私。誤魔化しても仕方が無い
「……。多分私でも無理よ。あの魔術は無理やり組み立てたものだから解除方法作っていないし。期間設定しかしていないわ」
顎に手を当てて考える格好のままそんな事を言われた。無理やり組み立てたとか、解除方法なしとか…寧ろ期間指定のみという事すら怪しいんだが。結界の中は大丈夫だろうか?
「そういえば聖女様を隔離している魔術は銀魔法と金魔法を合わせた結界系ですか?」
「あなたの表現する色魔法の定義は分かりづらいけれど、空間系よ。期間設定は時系だけどね」
ここで定義するわけにもいかないが、私が考えるにそれ程難しくは無いと思う。しかし、普通時系空間系は変に混ぜたら時空と言われる妙な空間が出来てしまうので厳禁となっているはずなのだが、それすら忘れているのかもしれない。まあ、結果糸口がありそうなのが助けだが。魔術を扱うものとしては複雑なところだ
「なら、大丈夫です。金銀魔法は一部でも混ぜると陣に微弱な箇所が出来るはずですから」
「貴女が言うのならそうなのよね、きっと。私はあまり深く考えてないから知らないけれど」
言われなくても理解はしているが、せめて開き直らないで困った素振りでも見せてくれないだろうか
「天才肌の人は理解より先に実践で結果が出てしまいますから。私のような凡人魔力の者は細々と計算して陣を構築する事が必須でした」
「……責められている気がするわ。で、貴女が解除して会うのは別に良いのだけれど、多分話すとかは無理よ。終始監視されている身分だから、あの子は」
気がするで終わる彼女には言っても無意味に近い。もう昔から何度このような会話になっただろう、肩が落ちそうだ
しかし、魔術で隔離したのに監視がつくとは変な事だ。聖女とはもう名ばかりだろうに
「なら、解除後にここにつれてこれば良いでしょう。解除後に再構築という手間も省けますし、解除して他の人に駆け込まれる心配もなくなります」
「軽く言うわね……転移先ってここになるじゃない、そうしたら」
「はい。ですから、この屋敷を人を払う結界で覆う準備をして頂ければ」
私は今転移陣を自分の屋敷の入り口に置いているが、それを移すのは別段手間ではない。彼女に私を転移陣で送ってもらい、私が聖女を連れてここに戻る。その後彼女と侍女で人払いの陣を張り万全の状況で聖女に質問云々などをすれば良いはずだ
「聖女を連れてきた場合、この国の奴等が可能性を追ったら初めに私の場所に疑いが到達するのは間違いないわよ。私にこの屋敷から離れろとでも言うのかしら」
「なら、聖女をそのままその奴等に引き渡せばいいでしょう。今起こるか、数年後起こるかそれだけの違いですよ。セラ、貴女はただの時間稼ぎをしているだけです。時間稼ぎだけでしたら状況は好転しませんよ、貴女はその先に何を求めたのですか……何か対策を取ろうとしたのですか?」
言い寄る彼女を一笑する。私は今あまり良い表情はしていないだろう。表情が消えているか、蔑んだような表情になっているはずだ。私の気持ちがそうなのだから
かなりの時間静寂が続いただろう。彼女はきっと現状を変えたくないに違いないと思う。聖女が心の底ではきっと邪魔になっているのではないだろうか
「分かりました、セラ。私が単独で行って連れて来なければいいのでしょう。但し、隔離を解除した後の事は責任を持ちません」
そんな邪推が私の言葉を動かした。いい加減はっきりさせたかったというのもある
「…………仕方ないわ。私が手詰まりだったのは事実だから、もう言い訳はしないわよ」
「別に構いません。私が気になっただけですから。聖女の運命はそれこそ神にでも祈ってください」
神頼み、これほど聖女の運命に合う言葉も無いだろう
そういえばメリッサはどうしているだろうか。世界の管理などで忙しいのだろうとは思うがやはり神には神の責任がある、祈りが通じるならそれは正当な思いだという事だ
「違うわ、仕方ないのはこの屋敷の事よ。フィン、あの子をここに連れて来て」
ん?と私は考えるのを止めまじまじと彼女を見てしまった
どうやら勘違いをしていたらしい。話の流れから私は間違っていないはずなのだが、どうも彼女は延々と考えていたらしく私の話を聞いていなかったようだ
「そこまで大事なのですか、貴女にとって?」
「ええ。フィン、貴女にとってのあの子達。逃がした王子王女と同じなのよ、私にとっては」
「……そういうことでしたら、分かりました。私もすることがありますので準備が終わりましたら教えてください」
ふと聞いた質問に対しての答えは私の返答が止まるものだった
私にとっての王子王女と同じという事は聖女だけは生きていてほしい、そういう考えに繋がる。短絡的かもしれないが私にとってはそういうことだ
逆に言えば国はどうでもいいという事に繋がるが、元宰相の言葉とは思えないな
「しかし、貴女。お願いされているのは私のはずなのになんでそう高圧的なのかしら」
「貴女が魔術をもっと学んでいればこうはなりませんでしたよ? それと別にもうお願いにはなっていません。私も貴女も聖女の存在が全て足枷ですから」
私を高圧的にさせているのは貴女だという事にもっと自覚を持ってほしいが無理だろうな。普段は高圧的の癖に詰めが甘い、ぶれるのも早い。まあ、悩んでいた様子は消えたようだから良いとしよう。確かに先の事を決めてしまえばそこからは転がり落ちるだけだから悩む必要は無い
「レミスさん、貴女もいいですか?」
「私はお嬢様の指示に従うだけですから」
ふと、後方に気配を感じてかけてみたら案の定お約束の言葉が返ってきた。私とセラ以外にいるとしたら侍女以外にはこの屋敷では無い。セラとは違いぶれない彼女だ
「このようなところでしょうか。久しぶりすぎて勝手が違いますね」
転生してから発動はすれど陣を弄る事をしていない私は手探りで展開していた。ちなみに何をしたかというと転移魔術の帰還場所の指定の差替えだ
転移魔術は複数の終点を指定することができず言ってしまえば帰ること限定の魔術だ。今私が置いている場所は私の屋敷前なのでここに戻るために変更する必要がある
「準備できたようね。今なら猫に戻ってもいいわ、転移対象の大きさを減らす為にも」
「戻らなくても貴女の魔力なら何の負担にもならないと思いますが、ご厚意に甘えます」
傍から見ていた彼女の声に落ち着いて答える私だ。勿論嬉しい事を隠すためだ。魔術が使えない不便さはあれどこの服のままで居るよりは良い
ちなみに彼女の周りには幾つかの魔具が置かれている。きっと私を飛ばした後で人払い用の魔術の準備をするのだろう
ポンと戻ると服も一緒に消えていた。てっきり床にするりと脱げると思っていたのが予想外だ。となると人化した場合はあれが残ったままになるわけだ……裸よりは良いか
僅かの間だが猫の姿の感触を確かめる。手でバシバシと床を叩いたり、体を伸ばしてみたり、歩いてみたり。何も問題は無さそうだ
「あ、っと。じゃ、飛ばすわよ」
何か間があったが気にしない。こちらをじっと見つめる4つの瞳の事は忘れよう
(『了解。帰りはここに飛ぶようにするから誰も居ないようにして欲しいのだが』)
「分かってるわ。じゃ、あの子の事任せたわね」
(『任せるって……まあ、良い』)
任されることなど何も予定は無いが空返事でもよいから返事はしておこう
そして、飛ぶ前に出来る行動私には何も無かった
彼女の詠唱が始まり、侍女も連なるように始める。床に陣が描かれていき……
私の姿は屋敷から消えた